「年収を下げてまで、未経験の仕事に挑戦する意味があるんでしょうか」——42歳で相談に来たBさんが、面談の冒頭で口にした言葉です。

私はこれまで800名以上の転職支援に携わってきましたが、40代で年収ダウンを覚悟しながら未経験職種に挑む相談は、決して珍しいものではありません。今回は、実際に年収を140万円下げて未経験職種へ転職したBさんが、その後どう市場価値を再構築していったかを、担当エージェントとして伴走した実体験とともにお伝えします。

今回は、次の4つの視点に沿ってご紹介します。

  • 42歳・未経験職種への転職で、実際に年収がどのくらい下がったか
  • 年収ダウンを受け入れるかどうか、判断の分かれ目になった基準
  • 年収ダウンを受け入れた後、市場価値をどう再構築していったか
  • 年収ダウンは何年で回復するのか、回復しなかった場合にどう考えるべきか
目次
  1. 42歳、未経験職種への転職で年収はどう下がったか
  2. 実際に受け取った2社のオファーを比較する
  3. 年収を下げてでも転職すべきか、判断の分かれ目になった基準
  4. 家計を守れる下げ幅かどうかのシミュレーション
  5. 下げ幅の「許容ライン」をどこに引くか
  6. 未経験からでも伸びしろのある業界かどうか
  7. 40代のうちに動かなかった場合の機会コスト
  8. 年収ダウンを受け入れた後、市場価値をどう再構築したか
  9. 前職の「看板」が通用しないと気づいた入社直後
  10. 休日を使ったキャッチアップと、前職の経験の「翻訳」
  11. 1年後の評価面談で年収交渉に踏み切る
  12. 40代の年収ダウンは何年で回復するのか、Bさんのその後の推移
  13. 年収が戻らなかったら、後悔にどう向き合うか
  14. まとめ:40代・未経験転職で年収を下げる前に、確認すべきチェックリスト

42歳、未経験職種への転職で年収はどう下がったか

天秤の片方に硬貨、もう片方に上向きの矢印を乗せて、年収と成長性を比べる様子を表したイラスト

Bさんは精密機器メーカーで品質管理の仕事を12年ほど続けてきた方でした。転職前の年収は680万円。役職こそ主任どまりでしたが、社内でも頼られる存在で、決して不満だらけの状況ではなかったといいます。

相談のきっかけは、会社の人員配置の話でした。所属していた品質管理部門が縮小され、Bさんの担当していた製品ラインが海外拠点に移管されることになったのです。「今すぐクビになるわけではないですが、この先この会社で今の仕事を続けられる保証もない気がして」というのが、Bさんが転職を考え始めた率直な理由でした。

最初にBさんが検討していたのは、同じ品質管理職のまま別のメーカーに移る道でした。この場合、経験がそのまま評価されるため、年収はほぼ現状維持、条件次第では若干の上乗せも見込める水準です。ただBさんは面談を重ねる中で、「品質管理という仕事自体に飽きたわけではないですが、この先50代、60代まで続けたい仕事かと言われると、正直分かりません」と話すようになっていきました。

そこで浮上したのが、IT業界のカスタマーサクセス職という、まったくの未経験分野への転職でした。導入した製品やサービスを顧客が使いこなせるよう支援する仕事で、品質管理の経験とは畑違いですが、Bさんが以前から「顧客の課題に向き合う仕事に興味がある」と漏らしていた分野でもありました。

実際に受け取った2社のオファーを比較する

Bさんの転職活動は、正直なところ順調とは言えませんでした。エントリーした27社のうち書類選考を通過したのは6社、一次面接に進めたのは4社、最終的に内定が出たのは2社です。42歳で未経験分野を志望すると書類選考の段階で落ちる割合が高くなる、というのは私が日頃から相談者に伝えている感覚とも一致していました。

内定が出た2社のうち、1社は同業種の品質管理職で、年収655万円というオファーでした。もう1社が、先ほどのIT業界のカスタマーサクセス職で、提示額は540万円。現職の680万円と比べると140万円、率にして約20.6%のダウンです。「正直、この数字を見たときは怖くなりました」とBさんは話していましたが、それでも最終的にはカスタマーサクセス職のオファーを受ける決断をしています。

厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、転職によって賃金が増加した人の割合は40.8%、減少した人は31.0%、変わらなかった人が25.5%となっています(厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況」)。Bさんと同じ40〜44歳の層に絞ると増加44.9%・減少27.4%・変わらない24.6%と、全年齢平均より「増加」の割合がやや高くなっています。

令和6年の同調査では、40〜44歳の転職入職率は男性6.8%・女性10.2%と、20代・30代と比べて明らかに低い水準でした(厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」(転職入職者の状況))。42歳という年齢そのものが、転職市場では動きにくい層に入っているというのは、この数字からも裏付けられます。

年収を下げてでも転職すべきか、判断の分かれ目になった基準

未経験職種への転職で年収が下がること自体は、多くの人が事前に覚悟しています。問題は、その下げ幅を受け入れられるかどうかを、何を基準に判断すればいいのか分からないという点です。Bさんとの面談で実際に使った基準は、大きく4つでした。

家計を守れる下げ幅かどうかのシミュレーション

まず取り組んだのは、感覚ではなく数字で家計への影響を確認する作業です。Bさんには住宅ローンが月10万円弱、子どもの教育費が月4万円ほどあり、「なんとなく大丈夫そうな気はするけれど、正確には分からない」という状態でした。

一緒に手取りベースで月々の収支を洗い出したところ、年収540万円でもローンと教育費、生活費を賄った上で月2万円前後の黒字は確保できることが分かりました。ボーナスを含めた年収ではなく、月々の手取りで固定費を賄えるかどうかを先に確認するのが、私がこの手のシミュレーションで一番重視しているポイントです。ボーナス頼みの家計は、初年度の業績次第で簡単に崩れます。

下げ幅の「許容ライン」をどこに引くか

私がこれまで担当してきた相談者を振り返ると、額面で10%程度のダウンであれば、本人も比較的すんなり受け入れられるケースが多い印象です。ところが下げ幅が20%を超えてくると、本人だけでなく配偶者の反対に遭うなど、家庭内での調整が難航する場面が急に増えます。

Bさんの20.6%というダウン率は、まさにこの境界線上でした。実際、Bさんの奥さまも最初は難色を示していたそうです。「品質管理の655万円の話も出ているのに、わざわざ140万円も下げる意味があるのか」と聞かれ、Bさんは自分の言葉で、5年後・10年後の伸びしろの違いを説明したといいます。この家庭内での話し合いに時間をかけたこと自体が、後々の後悔を減らす意味でも大きかったと私は見ています。

未経験からでも伸びしろのある業界かどうか

3つ目の基準は、下がった年収がその後も下がったままなのか、それとも伸びる余地がある業界なのかという点です。Bさんが検討していた品質管理職の転職先と、カスタマーサクセス職の転職先を、私と一緒に並べて比較してみました。

項目選択肢A:同職種で転職(品質管理)選択肢B:未経験職種へ転職(カスタマーサクセス)
想定年収655万円(ほぼ現状維持)540万円(140万円ダウン)
業務内容これまでの経験がそのまま活かせるゼロからの立ち上げ、研修期間あり
5年後の見通し会社の給与テーブル上、大きな伸びは見込みにくい実績次第でマネジメント職・専門職への道が開ける
40代後半以降の位置づけ経験者としての現状維持が中心成長市場での「経験者」として立場を築ける可能性

品質管理という仕事自体は、Bさんが受け入れていた会社の給与テーブルを見る限り、主任から課長への昇格でも年収の伸び幅は数十万円程度が上限でした。一方でカスタマーサクセスという職種は、Bさんの転職先企業自体がまだ成長段階にあり、実績を出した社員の年収が3年で100万円以上伸びた例もあると、面接の過程で聞いていました。下がった金額の大きさだけでなく、その業界の給与テーブルがどこまで伸びるかを一緒に見ることが、判断の分かれ目になったと感じています。

40代のうちに動かなかった場合の機会コスト

4つ目の基準は、今回動かなかった場合に、5年後・10年後にどう感じるかという視点です。私がBさんに投げかけたのは、「もし今回チャレンジせず、品質管理の仕事を続けて50歳を迎えたとき、後悔しない自信がありますか」という質問でした。

Bさんはしばらく黙った後、「今動かなかったら、たぶんこの先も動けない気がします」と答えました。40代前半はまだ求人市場でポテンシャルを見てもらえる余地があるものの、これが40代後半、50代となると、未経験分野への転職はさらにハードルが上がります。

JAC Recruitmentが公開している40代前半の転職実績データでは、年収がアップした人が63.0%、平均で125.3万円の増加という数字がある一方、ダウンした人も33.3%存在し、業種や職種を変えて転職した人は42.6%に上ります(JAC Recruitment「40代前半の転職は難しい?」)。

このデータはハイクラス層を対象にした集計のため、Bさんの状況にそのまま当てはめられる数字ではありませんが、40代前半でも業種・職種を変える転職自体は珍しくないという裏付けにはなります。

ポイント: 年収ダウンを受け入れるかどうかは、下げ幅の大きさだけで判断しないこと。①月々の手取りで固定費を賄えるか、②下げ幅が家庭内で合意できる範囲か、③その業界に給与の伸びしろがあるか、④今動かなかった場合の機会コストはどれくらいか、の4つを分けて考えると、感覚的な不安に振り回されにくくなります。

年収ダウンを受け入れた後、市場価値をどう再構築したか

Bさんが年収ダウンを受け入れて転職を決めた後、私が一番気にかけていたのは「入社した後にどう動くか」でした。年収を下げて未経験分野に飛び込む決断そのものより、その後の1年、2年をどう過ごすかで、結果は大きく変わってきます。

前職の「看板」が通用しないと気づいた入社直後

入社して最初の3か月、Bさんから届く連絡は正直なところ弱気なものが目立ちました。「品質管理でやってきたことが、ここでは何の実績にもならないんですよね」と話していたのを覚えています。12年かけて積み上げた経験と肩書きが、新しい職場では一からのスタートに戻ってしまう感覚は、40代の未経験転職では避けて通れない壁です。

私はこの時期、Bさんに「今は実績を出す時期ではなく、この会社の仕事の進め方と評価軸を観察する時期」と伝えていました。焦って目立つ成果を出そうとするより、まず何が評価される会社なのかを見極める方が、結果的に早道になるケースを何度も見てきたからです。

休日を使ったキャッチアップと、前職の経験の「翻訳」

Bさんはこの3か月の間、業務時間外にもカスタマーサクセス職の実務書を数冊読み、業界のオンラインコミュニティにも顔を出していました。「専門用語だけでも先に頭に入れておかないと、会議についていけなくて」というのが本人の弁です。資格のようなものではなく、あくまで実務理解のためのインプットですが、これを怠らなかったことが半年後の動きにつながっていきます。

入社から半年ほど経った頃、Bさんから「品質管理でやっていたデータの見方が、こっちでも使えるかもしれません」という連絡がありました。顧客からの問い合わせ内容を集計し、不具合の傾向を数値で可視化する——これは品質管理の仕事でBさんが日常的にやってきた作業そのものでした。

Bさんはこの視点を使って、顧客からの問い合わせを分類し、解約リスクが高い顧客の兆候を数値で示す簡単な集計表を自主的に作り、上司に提案しました。「品質管理では不良品が出る前に予兆を見つけるのが仕事でした。これは顧客の解約も同じ発想でいけると思って」とBさんは説明したそうです。この提案がチーム内で評価され、Bさんは入社半年で「顧客の解約予兆分析」という小さなプロジェクトを任されることになりました。

未経験職種であっても、前職の経験がまったく無駄になるわけではありません。「品質管理の経験」をそのまま持ち込むのではなく、新しい職種の言葉に翻訳して使える形に変えるという発想が、Bさんの場合はうまくはまった格好です。

1年後の評価面談で年収交渉に踏み切る

入社1年が経った評価面談で、Bさんは自分から「解約予兆分析の取り組みで、担当顧客の解約率を前年比で3ポイント改善できました」と数字を添えて伝えました。感覚的な「頑張りました」ではなく、具体的な成果を数字で示したことが、上司の反応を大きく変えたとBさんは振り返っています。

この面談の結果、Bさんの年収は540万円から560万円に上がりました。金額としては20万円の上昇にとどまりますが、Bさん本人は「未経験のまま入って1年で評価されたことが、金額以上に大きかった」と話していました。入社直後に評価される必要はなく、まず居場所を作ってから小さな実績を積み上げるという順番を踏めたことが、この後の展開につながっていきます。

私自身、Bさんとは転職後も3か月に一度ほどの頻度で近況を確認するフォロー面談を続けていました。転職して終わりではなく、その後の悩みや壁を早めに拾い上げられる体制があったことも、Bさんが弱気になった時期を乗り越えられた一因だったと思っています。

40代の年収ダウンは何年で回復するのか、Bさんのその後の推移

ここまでの経緯を踏まえて、Bさんの年収がその後どう推移したかを時系列で見てみます。

時期年収出来事
転職前(41歳)680万円品質管理職、12年のキャリア
転職直後(42歳)540万円未経験でカスタマーサクセス職に入社
1年後560万円評価面談で解約予兆分析の実績を提示
2年後610万円チームリーダー相当の役割を打診される
2年8か月後650万円社内昇格、前職の水準にほぼ回復

2年後の「チームリーダー相当の役割」は、解約予兆分析のプロジェクトが正式なチームとして立ち上がり、Bさんがその立ち上げメンバーの一人に選ばれたことがきっかけでした。まだ肩書きは正式なリーダーではなかったものの、後輩2名の指導を任されるようになり、この時点で年収は610万円まで上がっています。転職から2年8か月、年齢にして45歳手前で、Bさんの年収は前職の680万円にほぼ並ぶ650万円まで戻りました。

ただし、この回復スピードはBさん個人の状況——前職の経験を新しい職種に翻訳できたこと、転職先が成長段階にあり評価の機会が多かったことに支えられた結果であり、すべての40代未経験転職者に同じペースで再現できるものではありません。

先ほど紹介した令和7年の厚生労働省調査でも、Bさんと同じ40〜44歳の層で見れば賃金が「増加」した人は44.9%、「減少」した人は27.4%と、下がった人より上がった人の方が多い一方、令和6年の同調査では40代前半で転職そのものに踏み切る人は男性で1割に満たず、女性でも1割程度にとどまっていました。

回復までにかかる年数を正確に予測することはできませんが、2〜3年という単位で見る心構えを持っておくと、目先の数字の落ち込みに一喜一憂せずに済みます。私がこれまで担当してきた40代の未経験転職者の中でも、1年目で焦って結果を出そうとした人ほど空回りし、逆に「まず1年は種まき」と割り切れた人ほど、2年目以降の伸びが良い傾向を感じています。

年収が戻らなかったら、後悔にどう向き合うか

Bさんのケースは比較的順調に回復した例ですが、すべての相談者がこう進むわけではありません。以前担当したDさん(40代後半・製造業出身)は、同じように未経験でIT業界の職種へ転職しましたが、2年経っても年収はほぼ横ばいのままでした。

Dさんの場合、転職先の会社が中堅・成熟企業で、Bさんの転職先のような成長段階の柔軟さがなかったことが一因でした。新卒採用中心の評価制度で、中途入社の未経験者が短期間で昇給する前例自体がほとんどなかったのです。Dさんは面談で「頑張ってはいるけれど、この会社では自分の頑張りが年収に反映される仕組み自体がないのかもしれない」と話していました。1年目の評価面談では上司から「まだ経験が浅いので」の一言で終わり、2年目も似たような回答が続いたそうです。

こういうケースで私が伝えているのは、回復しないこと自体を失敗と決めつける前に、「回復しない理由が自分のスキル不足なのか、会社の評価制度の限界なのか」を切り分けて考えるという視点です。Dさんの場合は後者に近く、最終的には2年半経った時点で、評価制度がより成果主義に近い別の企業への転職を選び直しています。40代の未経験転職は、一度の転職ですべてが決まるわけではなく、必要であれば入り直しを検討する柔軟さも判断材料に入れておくべきだと感じます。

もう一つ付け加えておきたいのは、Dさんも「後悔しているか」と聞かれると首を横に振っていたことです。「品質管理(製造業)のままだったら、この歳でここまで焦って動けなかったと思う」というのがDさんの言葉でした。年収という一つの物差しだけで見れば足踏みしているように見えても、40代のうちに未経験分野へ踏み出せたこと自体を、本人はプラスに捉えていました。

まとめ:40代・未経験転職で年収を下げる前に、確認すべきチェックリスト

Bさんのケースが示しているのは、40代の未経験転職で年収が下がること自体は珍しくないものの、下げ幅と回復の見込みを事前にどれだけ具体的に検討できたかで、その後の展開が大きく変わるということです。感覚的な不安のまま踏み出すのではなく、数字と根拠を持って判断できるかどうかが分かれ目になります。

右肩下がりから再び上向きに転じる曲線に、途中の節目ごとに丸印を添えた年収推移を表す装飾イラスト

これから40代で未経験職種への転職を検討している方は、Bさんと一緒に確認した次の項目を、自分の状況に当てはめて考えてみてください。

40代・未経験転職で年収ダウンを検討する際のチェックリスト

  • 下がった年収でも、月々の手取りで固定費(住宅ローン・教育費など)を賄えるか、ボーナス抜きで試算する
  • 下げ幅が家庭内で合意できる範囲か、配偶者を含めて話し合う時間を取る
  • 転職先の業界・企業に、実績次第で年収が伸びる給与テーブルの余地があるか確認する
  • 今回動かなかった場合、5年後・10年後にどう感じるか、機会コストの視点で考える
  • 入社直後は実績を焦らず、前職の経験を新しい職種の言葉に「翻訳」できる場面を探す
  • 1〜2年経っても回復の兆しがなければ、原因が自分のスキルか会社の評価制度かを切り分ける

年収を下げてまで未経験の仕事に挑戦する意味があるのか——Bさんが最初に口にしたこの問いに、私は「意味があるかどうかは、下げた後の動き方次第です」と答えるようにしています。年収ダウンは転職の終着点ではなく、その後の2〜3年で挽回できるかを見る通過点だと捉えると、目先の数字だけで諦める必要はなくなるはずです。