「忘年会の二次会で、名刺じゃなくてLINEのIDを交換したんです」——客先のプロダクト責任者からそう誘われた常駐エンジニアの相談を、最近続けて受けました。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、客先常駐の現場では、正式な採用ルートを通さない個人的な引き抜きの打診が、想像以上によく起きています。今回は、営業を介さない直接オファーを受けたときにまず何を確認すべきか、そして所属するSES企業の営業へどう仁義を通すか、実際のやり取りを再現しながらお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 客先常駐エンジニアへの直接引き抜きは、そもそも法律的にどう扱われるか
  • SES契約に潜む「引き抜き禁止条項」の読み方と、合理的な範囲の見分け方
  • 営業への「仁義」が単なるマナーでなく契約実務に直結する理由
  • 営業に自分から切り出すタイミングと、実際に使える言い回し
  • 忘年会の誘いを2ヶ月抱え込んでしまったNさんの相談事例
目次
  1. 客先常駐への直接引き抜き、まず法的にどう整理するか
  2. 契約書は”会社間”のルール、個人を縛るものではない
  3. SES契約に潜む「引き抜き禁止条項」の読み方
  4. 条項の有無は、営業に直接聞いてよい
  5. なぜ客先の個人は、営業を通さず声をかけてくるのか
  6. 営業への「仁義」は、マナーではなく契約実務そのもの
  7. 営業に自分から切り出すタイミングと言い回し
  8. 相談事例、忘年会の誘いを2ヶ月抱え込んだNさんの話
  9. 調整期間中、客先とどう接するか
  10. 断るとき・受けるとき・保留するとき、それぞれの進め方
  11. すぐに決められないときは、期限を区切って保留する
  12. 断るときの言い回し
  13. 受ける場合、営業経由で正式ルートに乗せる
  14. トラブルに発展しやすい行動
  15. よくある質問に答えます
  16. 営業に伝えたら、気まずくなりませんか
  17. 訴訟になることはありますか
  18. 業界内の評判に影響しませんか
  19. まとめ、仁義を通すことは契約実務そのもの

客先常駐への直接引き抜き、まず法的にどう整理するか

客先の個人から直接声をかけられると、まず頭をよぎるのは「これは違法なのでは」という不安です。結論から言うと、引き抜き行為そのものは違法ではありません。職業選択の自由は憲法22条1項で保障されており、企業や個人が転職を勧誘すること自体を禁じる法律は存在しないためです。

ただし、これは「何をしても問題にならない」という意味ではありません。所属するSES企業と客先の間で交わされた契約書に、引き抜きを制限する条項が入っていることがあります。この条項が有効かどうかは、制限の期間・対象範囲・代償措置の有無などから合理性が判断され、過去の裁判例でも、制限が行き過ぎていれば無効、一定期間・一定範囲に絞られていれば有効と判断が分かれてきました(詳しくはSES企業がエンジニアの引き抜きを防ぐ契約条項と対策を参照してください)。「違法かどうか」と「契約上のリスクがあるかどうか」は別の問いであり、この2つを分けて考えることが最初の一歩になります。

契約書は”会社間”のルール、個人を縛るものではない

見落とされがちですが、引き抜き禁止条項が制限しているのはSES企業と客先という会社同士の関係であって、エンジニア個人の転職の自由そのものを直接縛るものではありません。あなたが客先に直接雇用されること自体を禁じる法律はなく、条項に違反した場合の責任は、原則としてSES企業と客先の間で処理されます。

ただし例外もあります。SES企業自身とあなたが結んでいる雇用契約や誓約書に、退職後一定期間・同一顧客先への就業を制限する条項が個別に盛り込まれているケースです。この場合はあなた自身が当事者になるため、打診を受けた時点で自分の雇用契約書も読み返しておく必要があります。

SES契約に潜む「引き抜き禁止条項」の読み方

引き抜き禁止条項は、多くの場合、基本契約書か個別契約書の一条項として、契約終了後半年〜1年程度の制限期間とともに定められています。違反した場合、SES企業が客先に損害賠償を請求できる、という建付けです。ただし実務上は、訴訟にまで発展するケースよりも、客先がSES企業に「紹介手数料」や「調整金」を支払うことで解決するケースの方が圧倒的に多いというのが私の実感です。

条項の有効性を判断する上で見ておきたいポイントです。

  • 制限期間が長すぎないか(半年〜1年程度が目安)
  • 制限の対象が「その客先だけ」に限定されているか、業界全体に及んでいないか
  • 制限の代償として、SES企業側に何らかの利益(単価水準など)が用意されてきたか

条項の有無は、営業に直接聞いてよい

自分の契約書を手元に持っていない、あるいは条項があるかどうか自分では判断できないという相談もよくあります。この場合、遠慮せず営業に「うちとお客さまの契約に、引き抜きを制限する条項はありますか」とそのまま聞いてしまって構いません。営業がその場で答えられなくても、契約書を確認して折り返す、という対応が普通です。条項の有無を確認すること自体が「転職を考えている」という意思表示になるわけではないので、切り出すハードルは思っているより低いはずです。

さらに視点を広げると、興味深い論点もあります。SES企業同士が「お互いの客先の人材を引き抜かない」という協定を結んでいた場合、それ自体が独占禁止法上問題になり得るという整理です。公正取引委員会の報告書では、使用者による人材獲得競争の共同制限行為は独占禁止法上原則問題になるとされています(出典:公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会」報告書のポイント)。あなたの転職を止める権利は、思っているより誰の手元にもないというのが実務的な整理です。

とはいえ、法律上の整理がどうであれ、現場で実際に困るのは契約実務の部分です。次の章で、なぜ営業への報告が単なるマナー以上の意味を持つのかを説明します。

打ち解けた雰囲気の丸いテーブルを挟んで、2つの吹き出しの間にスマートフォンが浮かんでいる様子を表したイラスト

なぜ客先の個人は、営業を通さず声をかけてくるのか

客先の担当者が、正式なルートを飛ばして個人的に声をかけてくる背景には、いくつかのパターンがあります。多いのは、日々一緒に仕事をしてきた信頼関係をベースに、まず本人の意向を確かめてから社内の稟議を進めたいという思惑です。人事や調達を通す正式なオファーには稟議・予算確保・法務チェックなど何段階もの手続きが必要で、その手前で「本人にその気があるかどうか」を確認しておきたいという事情があります。

もう一つは、単純にビジネスマナーとしての順序を誤解しているケースです。相手先の会社を通さず本人を直接口説くことが、むしろ誠意の表れだと考えている担当者も一定数います。悪気があって水面下で進めているわけではなく、SES業界特有の契約構造を意識していないだけ、という場合も少なくありません。

いずれの理由であっても、あなたが取るべき行動は変わりません。相手の意図を詮索するより先に、自分の所属会社に事実を伝えることが、契約実務としても関係維持としても最優先になります。

営業への「仁義」は、マナーではなく契約実務そのもの

ここまでの整理を聞くと、「法律上問題ないなら、営業に黙って進めても大丈夫では」と思うかもしれません。ここが今回一番誤解されやすい急所です。法律上の問題がなくても、実務上は営業を飛ばして進めることができません。

客先があなたを直接雇用するには、まず所属するSES企業との契約(準委任・請負)を終了させる必要があります。契約終了の時期をいつにするか、後任補充にどれくらいの猶予を持たせるか、引き抜き禁止条項がある場合の調整金をどう扱うか——これらはすべて、SES企業と客先の間で交渉して決まる事柄です。あなたが個人でどれだけ客先と話を詰めても、この会社間の手続きを飛ばして直接雇用契約を結ぶことはできません。

つまり営業への報告は、話を前に進めるための必須の手続きであって、義理立てのマナー論ではないのです。黙って進めれば進めるほど、後から契約を巻き戻す作業が増え、結果として入社時期そのものが遅れるという実務上の不利益が、他ならぬ自分に跳ね返ってきます。

営業に自分から切り出すタイミングと言い回し

では、いつ、どう切り出すべきか。私がこれまでの相談で勧めているのは、結論を出す前、迷っている段階で伝えることです。「受けるかどうかまだ決めていませんが」という前置きをつけて事実だけを共有すれば、営業も身構えずに話を聞いてくれます。

伝える内容は、事実・自分の状態・相談したいことの3つに絞ると、話がこじれません。

営業に切り出すときに含めておきたい3要素です。

  • 誰から、いつ、どんな話をされたか(事実)
  • まだ結論を出していない、判断に迷っている(自分の状態)
  • 契約書の条項や今後の進め方について、一緒に確認してほしい(相談したいこと)

「実は先週、客先の◯◯さんから個人的にオファーをいただきました。まだ返事はしていませんが、一人で進めるのも違うと思ったので、まずご報告です。契約上確認しておいたほうがいいことがあれば教えてください」

この順番が効くのは、決めた後の事後報告ではなく、決める前の相談として受け止められるからです。営業からすると、既に固まった話を後追いで聞かされるのと、判断がまだ揺れている段階で相談されるのとでは、受け止め方がまったく違います。前者は抜け駆けに見え、後者は信頼の表れに見えます。切り出すタイミングひとつで、その後の調整のしやすさが変わってくるというのが、これまで見てきた実感です。

相談事例、忘年会の誘いを2ヶ月抱え込んだNさんの話

Nさん(29歳・経験6年、バックエンドエンジニア)は、独立系SES企業に所属し、人事労務系SaaSを開発するシリーズB規模のスタートアップに2年半常駐していました。忘年会の二次会で、客先のプロダクト責任者から「うちに正社員で来ないか」と誘われ、その場で仕事用ではなく個人のSNSアカウントを交換したそうです。

年明け、「壁打ちしませんか」と誘われたランチで、担当予定のポジションや年収レンジまで具体的な話が進みました。Nさんはその場では即答を避けたものの、この時点で所属先の営業には何も伝えていませんでした。「まだ正式な話じゃないし、下手に騒ぎ立てて客先との関係が気まずくなるのも嫌だった」というのが、後から聞いた理由です。

そこから2ヶ月、Nさんはこの件を一人で抱え込んだまま普段どおり現場で働き続けました。転機は、客先側が契約更新の話し合いの場で「そろそろ人事に正式な話を通したい」と切り出したことです。Nさんはここで初めて、客先が自分の所属会社を経由しない限り、直接雇用の話はどこにも進められないという事実に気づき、慌てて私のところに相談に来ました。

私からは、まず営業への報告を最優先で済ませることを勧めました。Nさんは翌日、営業に「先週から」ではなく「実は2ヶ月ほど前から」個人的な打診を受けていたことを正直に伝え、契約書の確認を一緒に進めたいと相談しました。営業は一瞬戸惑った様子だったものの、「早く言ってくれれば良かったけれど、こういう話は意外と珍しくないから、落ち着いて対応しましょう」と応じてくれたそうです。

契約書を確認すると、引き抜き禁止条項は契約終了後6ヶ月・同一部署内に限定された内容で、合理的な範囲に収まっていました。調整金の交渉はSES企業と客先の間で進められ、Nさんは客先が希望する4月入社に合わせて契約終了のスケジュールを逆算してもらい、直接雇用のオファーを正式に受け取ることができました。

調整の過程では、客先の人事担当から「即戦力なのでできれば2月中に返事がほしい」と急かされる場面もあったそうです。ここで営業が「契約終了には後任への引き継ぎに最低でも1ヶ月半は必要」と客先側に説明し、入社時期を当初の希望より3週間ほど後ろ倒しにしてもらいました。Nさん一人で客先と直接交渉していたら、この引き継ぎ期間を確保する交渉力はなかっただろうと本人も振り返っています。

人物を表す丸から一本の矢印が伸び、書類のアイコンへつながっている様子を表したイラスト

一方で、営業からは最後にこう言われたそうです。「結果的にはうまくいったけれど、2ヶ月黙られていたのは正直つらかった。次からはもっと早く教えてほしい」。Nさんはこの一言を、今でも一番印象に残っている言葉として話してくれました。法律上の問題がなくても、報告が遅れたこと自体が信頼のコストになるという教訓が、この一言に集約されていると私は思います。

調整期間中、客先とどう接するか

営業への報告を終えても、契約終了までは同じ現場で普段どおり働き続けなければなりません。この期間、誘ってくれた客先の担当者との接し方に悩む相談もよく受けます。私がお勧めしているのは、打診の件と日々の業務を意識して切り分けることです。急によそよそしくなったり、逆に必要以上に馴れ馴れしくなったりすると、周囲の同僚に不自然さが伝わり、結論が出る前に噂として現場に広まってしまうことがあります。

現場で噂が先行すると、SES企業側の交渉にも余計な圧力がかかります。調整が終わるまでは、いつもどおりの距離感を保つことが、結果的に自分にとっても交渉を担当する営業にとっても動きやすい状況を作ります。

断るとき・受けるとき・保留するとき、それぞれの進め方

打診を受けた後の対応は、断る・受ける・まだ決めきれず保留する、の3パターンに分かれます。どの道に進むにしても、営業への報告を先に済ませておくという原則は共通です。

すぐに決められないときは、期限を区切って保留する

打診を受けたその場で結論を求められることは、実はそれほど多くありません。客先の担当者自身も社内で決裁を取る必要があるため、こちらの返事を急かせる立場にないことがほとんどです。判断に時間がかかりそうなときは、「2週間ほど考えさせてください」と期限を区切って保留する伝え方が有効です。

期限を区切ることで、営業への報告や契約書の確認、他の選択肢との比較検討といった、判断に必要な材料を集める時間を確保できます。漠然と「少し考えます」とだけ答えると、相手にいつまでも返事を待たせることになり、かえって心証を悪くしかねません。期限を自分から提示することは、誠実さを示す行動でもあります。

断るときの言い回し

断る場合は、感謝と理由を簡潔に伝えれば十分です。「大変ありがたいお話なのですが、今回は現職での役割を続けたいと考えています」というように、断る理由を細かく説明しすぎる必要はありません。理由を詳しく話すほど、相手に再交渉の余地を与えてしまうことがあるためです。

断った後も客先での業務は続くので、気まずさを引きずらないよう、通常の業務連絡はいつもどおりのトーンで続けることをお勧めします。断りの返事と、日々の仕事上のやり取りを切り分けて考えるだけで、その後の現場での居心地は大きく変わります。

受ける場合、営業経由で正式ルートに乗せる

受ける方向で進める場合は、それ以降のやり取りをすべて営業経由に切り替えるのが安全です。条件面の詳細や入社時期の調整を、客先の担当者と直接詰めたくなる場面もありますが、契約終了のスケジュールに直結する話は、必ずSES企業を通すようにしてください。個人同士で決めた話と、会社間で正式に合意した話がズレていると、後から「言った・言わない」のトラブルに発展しやすくなります。

進め方情報の流れリスク
客先の個人とだけ水面下で詰める客先↔本人のみ、営業は蚊帳の外契約終了・調整金の調整が後手に回り、入社時期が遅れる。抜け駆けと見られやすい
早い段階で営業に報告する客先↔本人↔営業(→客先の正式窓口)条項確認・スケジュール調整が同時並行で進み、話がこじれにくい

トラブルに発展しやすい行動

実際に相談を受けてきた中で、こじれやすいと感じる行動には共通のパターンがあります。

特にトラブルに発展しやすい行動です。

  • 同じ現場の同僚も一緒に誘って、まとめて転籍しようとする
  • 退職・契約終了前から、転職先の業務にこっそり着手してしまう
  • 複数人を対象にした計画的・組織的な引き抜きに見える動き方をする
  • SNSやビジネス系のSNSで、打診の内容を先に発信してしまう

1つ目の「同僚を誘う」は、特にこじれやすい行動です。一人の個人的な転職であれば穏便に進められる話でも、複数人がまとまって抜けるとなると、SES企業側は現場運営そのものへの影響を無視できなくなり、態度が一気に硬化します。声をかけたい気持ちは分かりますが、自分の話が正式に決着するまでは、同僚を巻き込まないほうが賢明です。

2つ目の「退職前から転職先の業務に着手してしまう」ケースも要注意です。善意のつもりで先に手伝い始めると、現在の契約期間中に別の雇用主の業務を行っていたことになり、労働時間や秘密保持の観点で双方の会社に迷惑をかけます。意欲があっても、契約終了日を過ぎるまでは手を出さないという線引きが必要です。

3つ目の計画的・組織的な引き抜きは、SES企業側に「最初から仕組まれていたのでは」という疑念を抱かせやすく、感情的なもつれに発展しやすい動き方です。結果的に一人ずつの個別の転職であっても、時期が重なるだけで計画性を疑われることがあるので、同僚の動きとは意図的に距離を置いておくくらいがちょうどいいと思います。

4つ目のSNS発信は、想像以上に早く伝わります。打診を受けた段階で「オファーもらっちゃいました」のような投稿をしてしまうと、本人が思っている以上のスピードで関係者の目に触れ、営業への報告より先に噂として耳に入ってしまうことがあります。結論が出るまでは、SNS上でも社内チャットでも、この件には一切触れないのが無難です。

よくある質問に答えます

営業に伝えたら、気まずくなりませんか

多少の気まずさは避けられないこともありますが、隠して進めた場合の気まずさに比べればずっと小さいというのが実感です。営業も転職の相談自体には慣れており、面と向かって責められることはまずありません。むしろ、後から間接的に伝わってしまったときの方が、関係の修復に時間がかかります。

訴訟になることはありますか

引き抜き禁止条項をめぐる紛争が実際に訴訟にまで発展する例はありますが、対象になるのはSES企業と客先という会社同士であり、エンジニア個人が訴えられる立場になることはまれです。多くの場合、SES企業側が調整金や紹介手数料の支払いで解決を図り、訴訟に持ち込む前に落着します。ただし、SES企業自身とあなたの間の雇用契約に個別の競業避止条項があり、それに明確に違反した場合は話が別なので、契約書の該当箇所は必ず確認しておいてください。

業界内の評判に影響しませんか

IT・Web業界は思われているより狭く、SES企業同士や営業担当者同士のつながりで噂が回ることは実際にあります。ただし評判を左右するのは「引き抜きに応じたこと」自体ではなく、進め方が誠実だったかどうかです。営業への報告を怠らず、同僚を巻き込まず、契約終了までの引き継ぎを丁寧に済ませた人について、その後も業界内で悪い評判が立ったという話は、私が見てきた範囲ではほとんど聞きません。

まとめ、仁義を通すことは契約実務そのもの

客先常駐エンジニアへの直接引き抜きは、それ自体が違法な行為ではありません。憲法が保障する職業選択の自由がある以上、声をかけられること自体を止める手立てはなく、あなたにもそれを受ける自由があります。

ただし、話を実際に前へ進められるかどうかは、契約上の当事者であるSES企業と客先の合意にかかっています。営業への仁義は、義理立てのための儀礼ではなく、契約を前に進めるための唯一の実務ルートです。Nさんのケースが教えてくれるのは、法律上の問題がなくても、報告が遅れたこと自体が信頼のコストになるという現実でした。

打診を受けたら、結論を出す前の迷っている段階で、事実だけを先に営業に伝えてください。それだけで、契約書の確認も、調整金の交渉も、入社時期の調整も、すべて動き出せる状態になります。抜け駆けに見えるかどうかは、話した内容の是非ではなく、話すタイミングで決まるというのが、この記事で一番伝えたかったことです。

自分だけでは契約書の読み方や交渉の勝算が判断しづらいという方は、客先からの正社員登用を交渉する際の考え方も参考にしつつ、IT・Web業界に特化したエージェントに一度状況を整理してもらうことをお勧めします。水面下の打診をどう扱うべきか、外部の視点が入るだけで判断の精度は変わってきます。