「うちの部署に来ませんか。単価は毎月払ってきましたから、だいたいの水準は分かっていますよ」——客先の情報システム部長からそう切り出されたエンジニアの話を、私はこれまで何度も聞いてきました。

IT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わってきましたが、SES客先常駐からの正社員登用、いわゆるプロパー化の相談は、通常の転職の年収交渉とはまったく違う力学で進みます。相手はすでに、こちらの月単価を数年分知っているからです。

今回は、客先が単価を知っている状態での正社員化交渉に絞って、契約書で確認すべき条項からSES企業側との調整、単価の推移を交渉材料に変える具体的な方法まで、実務目線でお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 客先が単価を知っている正社員化交渉と、通常の転職の年収交渉との違い
  • 打診が来やすいタイミングと、単価を教えてもらえない場合の調べ方
  • プロパー打診を受けたら最初に確認すべき契約書の条項とSES企業側との調整
  • 単価の推移を年収交渉の根拠に変える、現場で伝わる材料の作り方
  • 単価と給与を混同する落とし穴、正社員登用のデメリットと動かないときの次の一手
目次
  1. SES客先常駐の正社員登用、単価を知る相手との交渉が特殊な理由
  2. プロパー化の打診が来やすいタイミング
  3. 単価を教えてもらえない会社の場合、どう推移を把握するか
  4. 客先からプロパー打診を受けたら最初に確認すべきこと
  5. 引き抜き禁止条項をどう読むか
  6. SES企業側との調整、抜け駆けは避ける
  7. 契約社員としての登用を提示されたときの注意点
  8. 単価の推移を年収交渉の根拠に変える、現場で伝わる材料の作り方
  9. 資格取得や単価上昇の実績を給与テーブルにどう接続するか
  10. 単価と給与を混同する落とし穴、交渉で失敗しやすいポイント
  11. プロパー化のデメリットも踏まえて判断する
  12. 根拠を示しても提示額が動かない場合の次の一手
  13. 相談事例、単価の推移を交渉材料にして給与のベースを引き上げたケース
  14. まとめ、客先が知る単価をどう使い切るか

SES客先常駐の正社員登用、単価を知る相手との交渉が特殊な理由

通常の転職活動では、面接官はこちらの申告する現年収を検証する手段をほとんど持っていません。だから多くの対策記事は「金額そのものより、その年収の根拠になった業務内容を語れ」とアドバイスします。実際、SESから自社開発企業への年収差を解説した記事でも、月単価は転職先の企業にとって使いにくい交渉材料だと書きました。相手が確かめようのない数字だからです。

客先常駐からの正社員登用は、この前提が根本から崩れます。客先はこちらの月単価を、請求書という動かぬ書面で数年分受け取ってきています。申告ではなく、相手自身が支払い続けてきた事実として単価を握っているのです。

この違いは交渉の力学を二重に変えます。一つは、単価という数字そのものが証明不要になること。もう一つは、その単価が「思ったより高い」と客先に感じられた場合、直接雇用に切り替えた途端に給与を安く抑えたいという逆方向の力が働くことです。単価を知られていることは、必ずしも交渉が有利になることを意味しません。

私が担当した相談の中には、月単価92万円で4年常駐していたエンジニアが、正社員化の提示額を聞いて「月給45万円」と言われ、拍子抜けした例があります。単価の半分以下です。単価を知っているからこそ、客先はそこから中間マージン分を差し引いた金額を「妥当」だと考えがちで、この思い込みをどう崩すかが交渉の出発点になります。

ただし、この力学は下方向にだけ働くわけではありません。単価が右肩上がりに推移してきた実績があるなら、それは客先にとって「払う価値がある人材」という評価の裏付けでもあります。同じ数字が下振れの根拠にも上振れの根拠にもなるからこそ、どう見せるかという工夫が交渉の分かれ目になります。

プロパー化の打診が来やすいタイミング

打診がいつ来るかは客先の事情次第で、こちらから催促できるものではありません。ただ、これまで担当してきた相談を振り返ると、打診が重なりやすい時期にはいくつか共通したパターンがあります。

一つは、常駐年数が3〜5年を超えたタイミングです。現場に長くいるほど業務知識や社内の人間関係が固定化され、「この人がいなくなると困る」という声が現場のマネージャーから上がりやすくなります。その声が人事や予算の担当者に届くまでには、体感でさらに半年〜1年ほどのタイムラグがあります。

もう一つは、客先の年度予算が固まる時期です。多くの企業では下期(10月前後)か翌年度(4月前後)の予算編成のタイミングで、外部委託費を人件費に付け替える判断がなされます。この予算編成の前後で打診が来るケースは多く、逆にこの時期を逃すと次のサイクルまで話が動かないこともあります。

コスト削減の圧力が背景にあることも珍しくありません。同じ業務を任せるにしても、SES経由の単価より正社員化した方が中間マージン分だけ客先のコストが下がる、という単純な経済合理性が働く場合があります。打診の裏には「評価されている」という気持ちだけでなく、「コストを抑えたい」という事情も同居していることを理解しておくと、提示額への向き合い方が変わってきます。

契約の形態によっては、労働者派遣契約として扱われている常駐もあります。この場合、同一の組織単位で3年を超えて働き続けられない「3年ルール」があり、抵触日が近づくタイミングで客先側が直接雇用への切り替えを検討せざるを得なくなることがあります。自分の契約が準委任・請負なのか派遣なのかによって、打診が来る理屈が変わってくる点も押さえておいてください。

単価を教えてもらえない会社の場合、どう推移を把握するか

そもそも自社の単価を開示しないSES企業も少なくありません。契約上、単価の開示義務があるわけではなく、「単価は会社の営業機密」として教えてもらえないというケースをよく耳にします。

この場合でも、打診をしてきた客先の担当者に直接聞いてみるという手があります。客先自身は自分たちが払ってきた金額を把握しているので、聞けば教えてくれることが多いというのが実務上の感覚です。退職時に開示される契約書類や、契約更新の際に営業から届く更新確認のメールに金額が記載されていることもあるので、諦める前に確認すべき箇所は複数あります。

客先からプロパー打診を受けたら最初に確認すべきこと

打診を受けた瞬間に年収の話に飛びつくと、後で足元をすくわれます。金額の話をする前に、次の3点を確認する順番を守ってください。

最初に確認すべき3つのこと

  • SES企業との契約書に、引き抜き禁止条項・競業避止義務があるか
  • 準委任契約・請負契約の残存期間と、契約終了に伴う違約金や紹介手数料の条項
  • SES企業への報告・退職交渉をどのタイミングで、誰から切り出すか

引き抜き禁止条項をどう読むか

SES企業と客先の間で交わされる契約書には、契約終了後一定期間(半年〜1年が多い印象です)、客先が直接雇用することを制限する条項が入っていることが多いです。期間中と終了後の一定期間に直接雇用する場合は、転籍料(紹介料)を支払う内容が条項に組み込まれていることもあります。損害賠償が問題になり得るのは、明確な契約違反や組織的な大量引き抜きのようなケースとされています(SESの引き抜きに関する法的リスクを解説した記事が参考になります)。

ただし現場の実務としては、この条項があるからといって正社員化そのものが不可能になるわけではありません。多くの場合、客先がSES企業に対して「紹介手数料」や「早期契約終了に伴う調整金」を支払うことで解決されます。エンジニア本人が交渉すべきなのは、この調整金の有無や金額そのものではなく、この条項の存在を理由に話が水面下で立ち消えないよう、早い段階で自分から確認の声を上げることです。

ポイント: 「契約書に引き抜き禁止の条項はありますか」と、打診を受けた直後に自分から客先の担当者に聞いてみてください。担当者が把握していない場合、この一言がきっかけで社内調整が早く動き出すことがよくあります。

SES企業側との調整、抜け駆けは避ける

客先からの打診をSES企業に黙って進めるのは避けるべきです。契約上の当事者はあくまでSES企業と客先であり、エンジニア個人が直接契約を結び直せるわけではありません。私が見てきた中で一番こじれたのは、客先とエンジニアの間で口約束が先行し、SES企業が後から知って態度を硬化させたケースでした。

営業担当への伝え方としては、「客先から直接雇用の打診があった」という事実だけをまず伝え、条件面の相談は後回しにするのが無難です。ここで感情的な対立を作ってしまうと、契約終了までの数ヶ月間、現場での居心地が悪くなるだけでなく、調整金の交渉自体もこじれやすくなります。

契約社員としての登用を提示されたときの注意点

打診の内容が、正社員ではなく契約社員としての直接雇用だったという相談も少なくありません。客先としては、まず試用に近い形で様子を見たいという事情があることが多いです。

契約社員と正社員の違いは、雇用期間の定めがあるかどうかだけではありません。賞与や退職金制度の対象になるか、契約更新のたびに条件が見直される不安定さがあるか、といった点も含めて確認すべきです。「いずれ正社員に」という口頭の約束だけで契約社員としての登用を受け入れるのは避けた方がよいというのが、これまで見てきた相談からの実感です。転換の時期や条件は、書面か少なくとも議事録に残る形で確認しておくことをお勧めします。

単価の推移を年収交渉の根拠に変える、現場で伝わる材料の作り方

単価そのものは客先が知っているので、いまさら隠しても意味がありません。交渉で効くのは、単価の絶対額ではなくその単価がどう推移してきたか、なぜ上がったかという説明です。

例えば「常駐当初の月単価68万円が、3年で85万円まで上がった」という事実があるとします。この上昇幅を客先に見せるだけでは弱く、「クラウド移行の設計を任されるようになったから」「後輩2名の教育を任されるようになったから」という理由とセットで語れるかどうかが、正社員化後の等級判断に直結します。

市場相場との比較も有効な材料です。レバテックが公開している職種別の月単価相場では、2025年7月時点で次のようなレンジが示されています(出典:レバテック「SESの単価相場一覧」)。

職種月単価相場(2025年7月時点)
Java(BtoB)65万〜75万円
Python75万〜85万円
Ruby80万〜90万円
クラウド(AWS,Azure)80万〜90万円
PMO80万〜90万円
PM90万〜100万円

同ページでは、単価の決まり方として経験年数、SES企業の規模、言語スキル、作業内容の4要素が挙げられています。作業内容は上流工程ほど高単価になるとされており、設計や要件定義を任されてきた経緯が単価の推移に出ている人ほど、次の説明が効いてきます。

自分の単価がこのレンジのどこに位置するかを示せれば、客先の人事担当にとっても等級を判断する参考材料になります。単価が相場の上限に近いのであれば、それだけの役割を担ってきたという説明にそのままつなげられます。

資格取得や単価上昇の実績を給与テーブルにどう接続するか

資格取得によって単価がどの程度上がるかは、案件や客先ごとの事情が大きく、「AWS認定を取れば必ず20%上がる」といった一律の数字は正直なところ言い切れません。ただ、私が担当した相談の中では、資格取得や役割拡大のタイミングと単価改定のタイミングが重なった、という報告は珍しくありません。

大事なのは、資格の有無そのものより、資格を取ったことで担当業務がどう変わったかを客先に説明できるかどうかです。客先の給与テーブルは既存社員の等級に基づいて組まれています。単価の金額だけを伝えても等級には接続されません。「この資格を取ってから、この工程の意思決定を任されるようになった」という業務内容の変化を、時系列で説明できる形にしておくことが、登用後の等級交渉での実質的な武器になります。

面談の場では「資格を取りました」だけで終わらせず、「この資格を取った翌月から、それまで先輩が担当していた設計レビューを任されるようになりました」というように、資格と業務範囲の変化を一続きの話として語ってみてください。人事担当者にとっては、単発の実績よりも一貫したストーリーの方が等級判断の根拠として扱いやすいものです。

実際に伝える際は、次のように単価の推移と業務内容をセットで語る形にすると、聞き手にも流れが伝わりやすくなります。

「常駐を始めた当初の月単価は68万円でしたが、クラウド移行の設計を任されるようになった2年目に76万円、後輩の教育も兼務するようになった3年目には85万円まで見直していただきました。市場相場で見てもクラウド関連の職種は80万〜90万円のレンジなので、決して高すぎる評価ではなかったと考えています」

数字を並べるだけでなく、なぜその単価だったのかを自分の言葉で説明し切ることがポイントです。人事担当は日々の業務ぶりを直接見ているわけではないので、この説明があるかどうかで受け取り方が大きく変わります。

項目SES正社員のまま客先直接雇用後
給与の決まり方単価の還元率(概ね50〜70%)客先の給与テーブル・等級
交渉材料客先評価の伝聞、営業経由の交渉支払われてきた単価そのもの、業務内容の直接説明
賞与の原資商流のマージンを差し引いた後の会社の業績客先企業の業績・賞与制度
昇給の基準単価改定の有無に依存客先の人事評価制度に依存

天秤の片方に紙幣の束、もう片方に虫眼鏡付きの契約書が乗っている様子を表したイラスト

表を見ても分かる通り、正社員化は交渉材料の性質そのものを変える転機です。単価という数字に頼れる期間はここまでで、以降は客先の等級制度という別のルールで年収が決まっていきます。だからこそ、切り替わる直前のこのタイミングで、単価の推移を業務内容の変化と一緒に整理しておく価値があります。

単価と給与を混同する落とし穴、交渉で失敗しやすいポイント

ここまで単価を交渉材料として使う方法を説明してきましたが、単価と給与を同じ物差しで比べようとすると、逆に交渉で不利になることがあります。

客先の担当者から「単価には交通費や社会保険料の会社負担分も含まれていたので、そのまま給与にはならない」と言われることがあります。これは一定の合理性がある指摘です。SES企業が受け取る単価には、エンジニア本人への給与だけでなく、社会保険料の会社負担、有給休暇の引当、営業活動のコストなどが含まれています。単価の全額が給与になると期待すること自体が、そもそも無理のある前提です。

一方で、正社員化によって新たに得られるものもあります。賞与、退職金制度、昇給の仕組み、福利厚生など、単価には含まれていなかった要素です。単価と給与を単純比較して「下がった」「上がった」と一喜一憂するのではなく、単価に含まれていた要素と、正社員化後に新たに得られる要素を両方並べて考える必要があります。この視点を持たずに交渉に臨むと、相手の「単価と給与は違う」という説明にただ押し切られて終わってしまいます。

提示額の妥当性を見極める視点

  • 還元率がSES企業に在籍していた頃とほぼ同じ、あるいはそれ以下になっていないか
  • 賞与・退職金など、単価には含まれていなかった要素についての説明があるか
  • 「単価には含まれていた分」という説明が、社会保険料や営業コストなど具体的な内訳を伴っているか

この3点のうち1つでも曖昧な回答しか返ってこない場合は、その場で結論を急がず、書面での説明を改めて求めてよい局面だと私は考えています。

プロパー化のデメリットも踏まえて判断する

単価を交渉材料にできる、中間マージンがなくなる、という話をしてきましたが、正社員登用には見落とされがちなデメリットもあります。良い面だけでなく、踏まえておくべき点も挙げておきます。

一つは、転職市場での経歴の見え方です。長年一つの客先だけに常駐してきた経歴は、次に転職する場面で「特定の環境でしか通用しないスキルではないか」と見られることがあります。面接で「なぜSESから直接雇用に切り替えたのか」「その後どんな業務の幅を経験したのか」を具体的に語れないと、経歴が単調に映ってしまうリスクがあります。

もう一つは、給与テーブルの伸びしろです。単価連動の給与は青天井に近い伸び方をすることもある一方、客先の年功的な給与テーブルに乗ると、若いうちの伸びしろが単価連動より小さくなる場合もあります。目先の年収が上がるかどうかだけでなく、5年後・10年後にどこまで伸びる制度かを確認しておくことが、後悔しない判断につながります。

異動や配置転換の可能性も見落とされがちです。SES契約の間は業務内容が契約書で固定されていましたが、正社員になれば人事異動の対象になります。今の業務が好きで直接雇用を選んだのに、数年後にまったく違う部署へ異動になった、という相談も実際にありました。打診を受けた瞬間は「ようやく客先に認められた」という嬉しさが先に立ちがちですが、給与以外の条件も含めて総合的に判断してください。

根拠を示しても提示額が動かない場合の次の一手

単価の推移を資料にまとめ、業務内容の変化も丁寧に説明したのに、提示額がほとんど動かないという相談も一定数あります。この場合、その場で無理に決着をつけようとしないことをお勧めしています。

一つの手は、初回の給与テーブルへの反映は受け入れつつ、次の昇給・評価のタイミングを具体的な時期として約束してもらうことです。「入社時点では難しくても、半年後の評価で見直す」という合意を口頭ではなく書面や議事録に残せれば、当面の不満を先送りにするための材料になります。

それでも会社側が根拠のある説明に応じない場合は、他社の求人や市場相場を交渉の外側の材料として使う選択肢も出てきます。同じ経験年数・同じ技術領域で他社がどれくらいの年収を提示しているかを把握しておくだけで、社内交渉の説得力は変わります。IT・Web業界に特化したエージェントに市場価値を診断してもらい、正社員化の提示額が本当に妥当な水準なのかを外部の目で確認してから最終判断をする、という進め方も現実的です。

相談事例、単価の推移を交渉材料にして給与のベースを引き上げたケース

Kさん(36歳・経験12年、バックエンドエンジニア)から相談を受けたのは、金融系の客先に4年常駐していたSES企業の正社員としてでした。客先の情報システム部門から「来期から直接雇用に切り替えたい」という打診があったのは、契約更新の3ヶ月ほど前だったそうです。

Kさんの常駐開始時の月単価は78万円でしたが、クラウド移行プロジェクトのリーダーを任されるようになった2年目に85万円、さらに後輩の教育担当を兼務するようになった3年目に92万円まで上がっていました。客先から最初に提示された正社員としての月給は48万円。単価92万円に対する還元率で言えば52%程度で、SES企業に在籍していた頃とほぼ同じ水準の還元率です。直接雇用に切り替わるのに、中間マージンが抜けるはずの分がどこにも反映されていない提示でした。

人事担当は当初、「まずは契約社員として半年ほど様子を見たい」という案も提示してきました。Kさんはこれを受け入れず、正社員としての登用を前提に交渉を続けたいと伝えた上で、単価78万円から92万円まで上がった3年間の経緯を、担当業務の変化とセットで一枚にまとめ、次の面談に持参しました。「リーダーを任された時期」「後輩指導を任された時期」を単価改定のタイミングと突き合わせ、市場相場のレンジとも比較しながら、自分がすでに客先の等級で言えばどのあたりに相当する働き方をしてきたかを説明したそうです。

同時に、所属していたSES企業には早い段階で打診の事実を報告し、契約終了に伴う調整については営業担当に一任する形を取りました。営業担当も客先との関係を悪くしたくない立場だったため、契約終了のタイミングと調整金の交渉はスムーズに進んだといいます。最終的に、給与のベースは月53万円まで引き上げられ、還元率にすると58%程度まで改善しました。当初提示から5万円の差ですが、賞与制度が新たに加わったことも含めると、年収ベースでは60万円以上の差になったとKさんは話していました。

チェックリストの書かれた紙とペンが並び、契約条件を一つずつ確認していく様子を表したイラスト

Kさんの交渉が通った一番の理由は、単価の金額そのものを主張したことではなく、単価が上がってきた理由を業務内容とセットで説明できたことにあったと私は見ています。数字だけを見せても、客先の人事担当は等級判断のしようがありません。

まとめ、客先が知る単価をどう使い切るか

SES客先常駐からの正社員登用は、単価という数字を相手がすでに知っているという、通常の転職では起こりえない状況で交渉が始まります。この特殊さを活かせるかどうかは、単価の金額そのものを主張することではなく、その単価がどんな業務内容の変化を経て上がってきたかを、客先の等級制度に接続できる形で説明できるかにかかっています。

契約書の引き抜き禁止条項の確認や、SES企業側との調整といった実務手順を飛ばして金額交渉だけに気を取られると、話が水面下でこじれたり、単価と給与の違いを盾に押し切られたりします。打診を受けた順番を守ることが、結果的に一番の近道になるというのが、この記事で一番伝えたかったことです。

単価の推移や還元率の妥当性を自分だけで判断するのは簡単ではありません。SES業界の商流や案件ガチャの構造を知る、IT・Web業界に特化したエージェントに一度相談してみることをお勧めします。客先からの打診が本当に自分にとって有利な条件かどうか、外部の視点で整理してもらえるだけでも、判断の精度は変わってきます。