「次の案件、どこの会社に常駐するかまだ聞かされていません」——契約更新の1週間前になっても配属先が決まらないという相談を、SES企業に在籍するエンジニアから何度も受けてきました。

IT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わる中で、案件ガチャに疲弊した相談は年々増えている実感があります。公正取引委員会の調査でも、SES業界の多重下請け構造そのものが、この「選べなさ」を生む一因になっていることが裏付けられています。今回は、案件ガチャが起きる商流の裏側と、対策では間に合わなくなったときに動き出すべきタイミングを、具体的な数値基準でお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 案件ガチャが起きる商流構造と、営業側のインセンティブ設計の実態
  • なぜエンジニア個人に商流の情報が降りてこないのか、構造的な理由
  • 動き出すべきタイミングを判断する5つの数値基準
  • フリーランス・客先正社員化ではなく転職を先に検討すべき理由
  • 三次請け・四次請けを渡り歩き、動くのが遅れて後悔した相談事例
目次
  1. SES多重下請けの構造、案件ガチャが生まれる商流の裏側
  2. 公正取引委員会が認めた「中抜き業者」の存在
  3. 商流を下るほど取り分は目減りする
  4. 営業の評価制度が「早く埋める」を優先させる
  5. なぜエンジニア個人は案件を選べないのか、構造的な理由
  6. 動き出すべきタイミング、5つの数値基準
  7. ①契約更新の2〜3ヶ月前が最終ライン
  8. ②単価と手取りの乖離率が50%を超えたとき
  9. ③待機期間が1ヶ月を超えたとき
  10. ④スキルが「去年と同じ」だと感じたとき
  11. ⑤会社の経営が悪化しているシグナルを見逃さない
  12. 案件ガチャの出口、フリーランス・客先正社員化ではなく転職を勧める理由
  13. 相談事例、三次請け・四次請けを渡り歩いて動くのが遅れたケース
  14. まとめ、案件を選べない働き方から抜け出す一歩

SES多重下請けの構造、案件ガチャが生まれる商流の裏側

案件ガチャという言葉は、SES企業に所属するエンジニアが、自分の意思とは関係なく配属先の客先・業務内容・待遇が決まってしまう状態を指して使われます。私が担当してきた候補者の中にも、「営業から一本電話が来て、来週から別の現場に行ってくださいと言われた」というエピソードを話す方が少なくありません。この背景にあるのが、元請け(プライム)から二次請け、三次請け、四次請けへと連なる多重下請け構造です。

エンジニア本人が所属するのは末端に近いSES企業であることが多く、実際に契約しているエンド企業(発注元)との間に、複数の会社が仲介として入っています。仲介の各社がマージンを取る仕組み自体は違法ではありませんが、間に入る会社が増えるほど、現場で働く本人に届く情報も待遇も目減りしていくというのが、この業界の構造的な特徴です。

公正取引委員会が認めた「中抜き業者」の存在

この構造の実態を裏付けるのが、公正取引委員会が2022年6月に公表した「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」です。法人4,739社、フリーランスSE540人、従業員SE1,776人を対象にした大規模な調査で、買いたたきを経験したと回答した割合が15.7%、給付内容の不当な変更が14.2%、代金の減額が13.5%という結果が出ています(出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」)。

さらに踏み込んだ数字もあります。下請け企業の約4社に1社、最終下請け(いちばん下流の会社)に限ると約3社に1社が、取引の中に「実質的に何の作業もしていない中抜き業者」が存在すると認識していると回答しているのです。

契約実務の面でも、商流の下流ほど曖昧になりやすい実態が見えてきます。アジャイル開発の案件に限ると、契約変更のたびに必要な補充書面が交わされていない割合が38.0%にのぼるという結果も出ています(参考解説:iMagazine「ソフトウェア開発の下請取引、公取委調査が示す実態」)。

つまり、案件ガチャに疲れているエンジニアが薄々感じている「誰かが中間で抜いているのではないか」という感覚は、思い込みではなく、公的な調査でも一定数の実態として確認されている話だということです。

商流を下るほど取り分は目減りする

商流の階層ごとに、発注元が支払うエンド単価のうちどれくらいが実際に働く人に届くのかを整理すると、次のようなイメージになります。IT特化型の転職支援を行うHeydayの試算では、三次請けの立場になるとエンド単価の44〜52%程度しかエンジニア本人に届かないとされています(出典:Heyday「SESの自社籍・二次請けと年収差」)。

商流の位置エンド単価に対する取り分の目安エンド単価100万円の場合
元請け(プライム)90〜100%90万〜100万円
二次請け65〜80%65万〜80万円
三次請け44〜52%44万〜52万円
四次請け以降30%台〜40%程度30万〜40万円

多重下請けの階層が積み重なるほど、取り分を示す丸いアイコンが小さくなっていく様子を表したイラスト

四次請け以降になると、エンド単価の半分以下しか手元に残らない計算になります。恐ろしいのは、この目減り分がエンジニア本人のスキルや評価とはまったく無関係に、契約構造だけで決まってしまう点です。同じ業務内容、同じ技術レベルであっても、たまたま所属する会社がどの階層で契約を取ってきたかによって、月の手取りが10万円以上変わることも珍しくありません。

営業の評価制度が「早く埋める」を優先させる

なぜこの構造が温存されるのか。人材紹介の立場で他社の営業担当と情報交換する機会が多いのですが、SES企業の営業評価は、契約継続率や案件の粗利率(単価から仕入れコストを引いた利益)に連動していることがほとんどです。エンジニア個人の適性や中長期のキャリア形成が評価指標に入っている会社は、率直に言ってまだ少数派です。

営業担当者にとっては、待機期間(アサインなしの状態)を出さずに早く次の案件へ埋めることが、自分の評価に直結します。以前ある候補者の方が、配属の理由を営業に尋ねたところ、返ってきたのは「契約更新のタイミングがちょうど合ったので」という説明だけで、本人のスキルや希望が考慮された形跡はなかったそうです。その結果、「この人に一番合う案件」ではなく「今すぐ埋まる案件」が優先して提示される構造になりやすいのです。案件ガチャは偶然の運不運ではなく、営業側のインセンティブ設計が生み出している面が大きいというのが、私がこの業界を外側から見てきた実感です。

なぜエンジニア個人は案件を選べないのか、構造的な理由

商流の実態が分かっても、なぜ自分では選べないのかという疑問は残ります。理由は大きく3つあります。

1つ目は、情報の非対称性です。契約書に記載されるマージン率や、自分が何次請けの立場にいるのかといった情報は、雇用契約書やアサイン説明の場では開示されないことがほとんどです。客先企業の名前すら「A社」「B社」といった伏せ字で説明され、実際に現場に入って初めて商流の全貌が見えてくる、というケースを何人もの相談者から聞いています。以前ある方は、入社時の説明資料に書かれていた客先名と、実際に常駐する現場の名刺に書かれた会社名が違っており、そこで初めて自分が何社も間に入った案件にいることに気づいた、と話していました。

2つ目は、契約上の立場の弱さです。客先との間に交わされているのは準委任契約や請負契約であり、エンジニア個人が直接契約の当事者になっているわけではありません。「この案件は合わない」と会社に伝えても、代わりの人員をすぐに用意できない限り、契約自体を打ち切る判断は会社側の都合が優先されます。個人の希望より、契約の継続が優先される構造になっているのです。

3つ目は、商流の下流に行くほど発言力そのものが弱くなることです。元請けに近いSES企業であれば、客先との関係性や交渉材料を持っていることもありますが、三次請け・四次請けの立場になると、そもそも交渉できる相手すら見えていない状態で働き続けることになります。以前、ある候補者の方が客先に直接「担当業務を変えてほしい」と相談したところ、「それは所属会社を通してください」と言われ、所属会社に伝えても「客先の意向なので」と押し返され、結局どちらの会社にも決定権がないまま状況が変わらなかった、という話をされていました。

ポイント: 面談の際に「今回の案件は何次請けにあたりますか」と直接聞いてみることをお勧めしています。答えを濁す、あるいは「そこは気にしなくていい」と流されるようであれば、それ自体が商流の下流にいることの表れである可能性が高いと考えています。

動き出すべきタイミング、5つの数値基準

ここまでの構造を理解した上で、次に大事なのは「対策で改善を待つのか、見切りをつけて動き出すのか」の判断です。多くの記事は事前対策や交渉術で終わりますが、現場で数多くの相談を受けてきた実感として、対策の限界を見極める数値基準を持っておくことの方が、結果的に後悔を防ぎます。

動き出すべきタイミングの数値基準

  • ①契約更新の2〜3ヶ月前が最終ライン
  • ②単価と手取りの乖離率が50%を超えたとき
  • ③待機期間が1ヶ月を超えたとき
  • ④スキルが「去年と同じ」だと感じたとき
  • ⑤会社の経営が悪化しているシグナルが出たとき

カレンダーの特定の日付に旗が立てられ、動き出すタイミングを知らせている様子を表したイラスト

①契約更新の2〜3ヶ月前が最終ライン

SESの案件は、多くが1〜3ヶ月単位、長くても半年〜1年単位で契約更新のタイミングを迎えます。転職活動を始めるなら、現在の契約更新の2〜3ヶ月前が最終ラインというのが、IT特化型のエージェントの間でもほぼ共通した見立てです(参考:Heyday「SESエンジニアの転職タイミング」)。

理由は単純で、契約が更新されてしまうと、次の更新まで実質的に同じ現場・同じ条件で拘束されるからです。書類選考から内定、退職交渉、有給消化までを含めると、転職活動全体には2〜3ヶ月かかるのが一般的です。契約更新の直前になって動き出すと、内定が出るタイミングと契約更新のタイミングが重なってしまい、結局もう1サイクル同じ現場に残らざるを得なくなる、という相談を何度も見てきました。

自分の契約更新日を正確に把握していない、という相談者にもよく出会います。多くの場合、入社時の雇用契約書ではなく、案件ごとに交わされる個別契約書や、営業から届く更新確認のメールに記載があります。手元にそうした書類が見当たらない場合は、まず営業担当か人事に契約期間を確認するところから始めてください。この確認をしただけで「動くべき期限」が具体的な日付として見えてきます。

②単価と手取りの乖離率が50%を超えたとき

先ほどの商流の表を踏まえると、もう一つの明確な基準が見えてきます。何らかの形で自分の月単価を知る機会(契約更新の説明会や、退職時に開示される書類など)があれば、単価に対する自分の手取り(月給+みなし残業の合計を12で割った月額換算)の比率を計算してみてください。この乖離率が50%を下回っている場合、商流はすでに三次請け以下に近いと考えてよい水準です。

単価70万円で手取りが月30万円台前半だった、という相談者の話を聞いたことがあります。乖離率にすると45%程度で、先ほどの表でいう三次請けの下限に近い数字です。単価そのものを教えてもらえない会社も多いですが、その場合は「単価を開示しない」という対応自体を一つのシグナルとして受け止めるべきだと私は考えています。

③待機期間が1ヶ月を超えたとき

案件と案件の間に発生する待機期間についても、明確な基準を持っておくべきです。多くのSES企業では待機中も基本給の一定割合(60%程度が多い)を保障する規定がありますが、待機が1ヶ月を超えて続く場合は、会社側の営業力そのものに疑問を持ってよいタイミングです。

待機が長引く理由は、単価の高い案件を紹介できるだけの営業ルートを会社が持っていない、あるいは会社の評判が下請け先の間で悪化している、といった構造的な問題であることが多いからです。1ヶ月という期間は、給与の減額が生活に響き始める時期であると同時に、社内的にも「扱いにくい人材」という評価がつき始めかねない時期でもあります。長引く前に動き出す方が、選択肢を広く持てます。

④スキルが「去年と同じ」だと感じたとき

数値基準というより体感に近い指標ですが、重要度は高いものです。多重下請け構造の下流にいるほど、任される業務は運用・保守やテスト工程など、技術選定の裁量が小さい業務に偏りがちです。1年前と今とで、使っている技術やこなせる業務の幅がほとんど変わっていないと感じるなら、それは案件の巡り合わせの問題ではなく、構造的にそういう業務しか回ってこない立場にいる可能性が高いというサインです。

エンジニアの市場価値は経験年数だけでは測れず、その年数の中でどんな技術的な意思決定に関わってきたかで評価が分かれます。スキルの停滞を「たまたま今の案件が地味なだけ」と片付けてしまうと、次に転職市場に出たときに経験年数相応の評価を得られないという事態につながります。

⑤会社の経営が悪化しているシグナルを見逃さない

最後に、所属するSES企業自体の経営状態も判断材料になります。賞与の据え置きや減額、昇給ゼロが続く、離職率が急に上がった、上流の元請けとの契約を切られたという噂が社内で広まる——こうしたシグナルが複数重なったら、待機期間や単価の乖離率を確認するのを待たずに動き出してよい局面です。

私が担当した相談の中には、所属していたSES企業が主要取引先の一つを失い、半年後に希望退職の募集が始まったというケースもありました。その方は経営の変化を察知した時点で早めに動いていたため、退職金の交渉を含めて落ち着いて転職活動を進められています。逆に、変化に気づきながらも「まだ大丈夫だろう」と先延ばしにした結果、条件面で不利な交渉を強いられた方も見てきました。

5つの基準のうち、1つだけ該当している段階であれば、まだ社内での交渉や配属替えの相談で状況が変わる余地があります。ただし、②〜⑤のうち2つ以上が重なった場合は、社内での改善を待つより先に、転職市場での自分の相場観を確認する段階に入ったと私は考えています。①の契約更新のタイミングは、他の基準がいくつ重なっていても動くべき絶対的な期限として、別枠で意識しておいてください。

特に⑤の経営悪化のシグナルは、賞与の据え置きや離職率の変化など、社内にいる本人が肌で感じる違和感が中心になります。ただ、社内の空気だけでは「たまたま自分のチームが忙しいだけなのか、会社全体の傾向なのか」を切り分けにくいという相談もよく受けます。こうした場面では、在籍者・退職者の声を集めた企業口コミサイトを、社内の感覚を裏取りする材料として使う方法があります。

⑤の基準に近い確認方法の一例として、転職会議のようなサービスを挙げておきます。企業ごとに「事業の成長性や将来性」という口コミカテゴリが用意されており、社内で見えている変化と、外から見た評判にズレがないかを照らし合わせる手がかりになります。

在籍者・退職者の声を確認する

在籍者・退職者の口コミから、企業の事業成長性や経営方針を確認できる転職口コミサイト

企業の口コミ・評判を見る【転職会議】

会員登録後、口コミの続きを閲覧できます(登録・利用は無料)

転職会議は2010年にサービスを開始し、2026年時点で全国23万社・約550万件の転職口コミ情報を掲載しているとのことです(運営元リブセンスの発表による)。これらはあくまで公式発表に記載されている内容であり、私自身が閲覧して確かめた実感として書いているわけではない点は断っておきます。

ただし、口コミは在籍者・退職者それぞれの主観に基づくものであり、特に退職者側の声は不満を抱えて辞めた側に偏りやすい傾向があります。経営悪化のシグナルを探す場面でも、個々の口コミを経営難の証拠として受け取るのではなく、面談や求人票で確認すべき論点の当たりをつける材料として使うくらいがちょうど良いというのが私の考えです。

案件ガチャの出口、フリーランス・客先正社員化ではなく転職を勧める理由

案件ガチャからの出口として、SES業界の解説記事ではよく「転職」「フリーランス化」「客先正社員化」の3つが並列で紹介されます。ここは私の意見をはっきり述べておきたいところです。多くの方にとって、まず現実的なのは転職だと考えています。

フリーランス化は、中間マージンを自分の交渉次第で減らせる可能性がある選択肢です。ただし、これは商流の中で一定の実績と人脈を築いた後でこそ機能する話で、案件ガチャに消耗している最中の方がいきなり独立すると、結局エージェント経由で似たような多重下請け案件に入ることになりがちです。契約を切られた際の収入の空白期間や、確定申告・社会保険といった実務負担も、会社員のときには見えていなかった負荷として一気にのしかかります。

客先正社員化(客先企業がSES経由の人材を直接雇用に切り替える制度)は、実現すれば商流の問題自体から抜け出せる理想的な出口です。ただ、これは客先の採用ニーズや予算のタイミングに完全に依存する話で、本人の努力だけではコントロールできません。「いつか客先正社員化されるかもしれない」という期待だけで待ち続けるのは、契約更新や単価乖離といった数値基準を先送りにする言い訳になりやすいというのが、これまで多くの相談を見てきた上での率直な感想です。

転職であれば、自分のタイミングで動き出し、面接の場で商流や業務内容を直接確認しながら、次の環境を選び取ることができます。フリーランス化や客先正社員化を将来的な選択肢として残しておくとしても、まずは転職市場で自分の経験がどう評価されるかを確認しておく方が、結果的に選べる手段が増えるというのが私の考えです。

相談事例、三次請け・四次請けを渡り歩いて動くのが遅れたケース

Iさん(20代後半・SES企業でインフラエンジニア、実務5年)から相談を受けたのは、3社目の客先常駐先で待機期間が2ヶ月目に入った頃でした。新卒でSES企業に入社してから5年間、Iさんは二次請けの案件を1件経験した後、気づけば三次請け、四次請けの案件を渡り歩く形になっていました。

最初の違和感は、3社目の案件に配属されたときのミーティングで、自分より後から現場に入った他社のエンジニアの方が、明らかに高い頻度で設計レビューに呼ばれていることに気づいたことだったそうです。Iさんに尋ねると、自分が所属するSES企業は現場では「4社目」の立場で、直接の契約相手である3次請け企業がさらに上の会社から仕事を受けている構造になっていることが分かりました。単価を教えてもらえないか会社に聞いたところ、明確な回答は得られませんでしたが、退職時に開示された契約書類から逆算すると、エンド単価はおよそ68万円、Iさんの月給換算の手取りは28万円程度で、乖離率は41%まで下がっていました。

さらに深刻だったのは、直近1年で任された業務がサーバーの死活監視と定型的なパッチ適用作業にほぼ限定されていたことです。以前は構築案件でクラウド移行の設計にも関わっていたのに、気づけば「経験5年のわりに実務の幅が狭い」と面接で指摘される立場になっていました。待機期間に入ってようやく転職を決意しましたが、実務経験の幅が狭まっていたことが選考でネックになり、希望していた自社開発企業の求人には書類選考の時点で通過できませんでした。

Iさんは面談の中で、「乖離率のことも、業務が狭まっていることも、実は1年以上前から薄々気づいていました」と話していました。当時は「次の案件では変わるかもしれない」と様子見を続けてしまったことを、今になって後悔しているそうです。違和感に気づいた時点で情報収集だけでも始めていれば、選択肢はもっと広かったというのが、この相談から私が改めて実感したことです。最終的にIさんは、インフラの実務経験を評価してくれるSIer系の企業に落ち着きましたが、希望していた選択肢の幅は、動き出すタイミングの差で確実に狭まっていました。

まとめ、案件を選べない働き方から抜け出す一歩

SESの多重下請け構造は、公正取引委員会の調査が示すとおり、個人の努力だけでは変えられない商流の問題を内包しています。案件ガチャに振り回されている感覚は、思い込みではなく、実際に存在する構造への正しい反応だと私は考えています。だからこそ、事前対策だけに頼るのではなく、契約更新の時期、単価と手取りの乖離率、待機期間の長さといった数値基準を自分の中に持っておくことが、後悔しない判断につながります。

対策記事の多くは「単価交渉のコツ」「営業への伝え方」といったその場しのぎの技術で終わりますが、Iさんのように商流の下流で数年を過ごしてしまうと、対策そのものが効かなくなる場面が出てきます。「まだ対策で粘れる段階か、見切りをつけて動くべき段階か」を自分で判定できるかどうかが、案件ガチャに振り回され続けるか、そこから抜け出せるかの分かれ目だというのが、この記事で一番伝えたかったことです。

商流の詳細やマージン率を、今の会社にいながら正確に把握するのは簡単ではありません。だからこそ、IT・Web業界に特化した転職エージェントに一度状況を話してみることをお勧めします。商流や単価の相場観を客観的に整理してもらえるだけでも、「このまま様子を見るべきか、動くべきか」の判断材料が増えます。

SESから自社開発企業への転職を検討する場合の年収の変化についてはこちらの記事で詳しく解説していますし、一般型のエージェントからIT特化型への切り替えを検討している方はこちらの記事も参考にしてみてください。

案件を自分で選べない働き方から抜け出す一歩は、大きな決断である必要はありません。まずは自分の商流上の立場と、契約更新までの時間を確認するところから始めてみてください。