「社内SEの平均年収は800万円台らしいので、その水準で交渉しました」——面談を終えた相談者からこう聞いて、実際に提示された金額を見て言葉に詰まったことが何度かあります。
私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援を担当してきましたが、社内SEという肩書きの中身は、IT戦略・企画寄りの仕事と、運用・ヘルプデスク寄りの仕事とで、年収も評価のされ方もまるで違います。今回は、求人票のどの文言を見ればどちら寄りかが分かるのか、そして自分の実務経験がどちらに近いのかを棚卸しする方法を、Web系自社開発企業への転職を想定して具体的にお伝えします。
今回は、次の内容に沿ってご紹介します。
- 社内SEの年収がIT戦略系と運用系でどれだけ違うか、複数の調査データで確認する
- 求人票の部署名・必須要件・業務内容の書かれ方から、どちら寄りの募集かを見分ける方法
- 自分のこれまでの実務がどちら寄りかを棚卸しするチェックポイント
- 年収データを基準に交渉して面談でつまずいたケースと、立て直し方
目次
社内SEの年収、IT戦略系と運用系でなぜこれほど違うのか
転職サイトで「社内SE 年収」と調べると、記事によって600万円台から800万円台まで、数字がまるで違うことに気づきます。理由は単純で、社内SEという同じ呼び方の中に、業務内容も評価軸もまったく異なる仕事が混在しているからです。
dodaが公開している「平均年収ランキング(職種・職業別)2025年版」を見ると、この違いが数字ではっきり出ています。「IT戦略/システム企画」の平均年収は614万円である一方、「システム開発/運用」は489万円、「SE/プログラマ」は435万円という結果でした(出典:平均年収ランキング(職種・職業別)2025年版|doda)。同じ社内の情報システム部門に籍を置いていても、担当が企画寄りか運用寄りかで年収は100万円以上開くというのが、この調査の示す実態です。
Geeklyの社内SE特化コラムでは、もう少し差が大きく出ています。IT戦略・企画系が758万円、開発系が519万円、ネットワーク・インフラ系はその中間という数字で(出典:社内SE(情シス)の年収は低い?年齢別の相場や年収アップ方法|Geekly)、差額は239万円にのぼります。dodaとGeeklyで数字の幅が違うのは、調査対象の年代構成や、母集団に含まれる企業規模が異なるためです。どちらが正しいというより、調査によって100万円台から200万円台まで幅があると理解しておいた方が実務的です。
JACリクルートメントの調査ではさらに高く、社内SE全体の平均年収が826.8万円という数字も出ています。ただしこの調査は外資系や大手企業への転職支援に強いエージェントの実績が母集団になっているため、他の調査より高年収層に寄りやすいという背景があります。年代別では20代後半613万円から50代以上975万円、役職別ではメンバー729万円に対し管理職1065万円と、こちらも役割によって数字の開きが大きいことが読み取れます。
2つの調査で見るIT戦略系と運用系の年収差
| 調査 | IT戦略・企画系 | 開発・運用系 | 差額 |
|---|---|---|---|
| doda(職種別平均年収 2025年版) | 614万円 | 489万円 | 125万円 |
| Geekly(社内SE年収コラム) | 758万円 | 519万円 | 239万円 |
情シスと社内SE、4つの業務分類のどこに自分がいるか
「社内SE」と「情シス」はほぼ同じ意味で使われますが、企業によっては情シス=運用寄り、社内SE=企画寄りという使い分けをしているところもあります。呼び方だけで判断できない以上、まず業務の中身で自分の立ち位置を確認した方が早いです。
dodaの職種図鑑では、社内SEの仕事内容を「企画・導入」「設計・開発」「運用・保守」という3つの工程で説明していて、社員からの問い合わせ対応、いわゆるヘルプデスク業務は運用・保守の一部という位置づけです。ただ、実際にシステムを安定稼働させ続ける運用保守と、日々の問い合わせをさばくヘルプデスクとでは求められるスキルも評価のされ方もかなり違うので、この記事では便宜的に「企画」「開発」「運用保守」「ヘルプデスク」の4つに分けて考えます。同じ会社の情報システム部門でも、企画チームと運用チームでは年収テーブルが分かれているケースが珍しくありません。
その職種図鑑に載っている社内SE全体の平均年収は450.8万円で、先ほどのJACの826.8万円と比べると2倍近い開きがあります。同じ「社内SE」という言葉を使っていても、片方は外資系・大手企業への転職支援に強いエージェントの実績、もう片方は業界・企業規模を問わない幅広い集計と、そもそもの母集団がまったく違う数字を比べていることになります。
非IT業界の中堅・中小企業に勤める、運用・ヘルプデスク寄りの社内SEまで含めた数字の方が、世の中の社内SEの実態としては多数派に近いだろうというのが私の見立てです。IT・通信業界の平均が455.1万円とほぼ同水準なので、業界を問わず「非管理職・運用寄り」の層まで含めるとこのあたりに落ち着くという実感とも合っています。
ポイント: 年収データを見るときは、その調査が「どの業務分類の、どの役職層を」対象にしているかまで確認してください。「社内SE」という職種名だけでは、企画系の管理職と運用系の若手が同じ棒グラフの中に混ざってしまいます。
求人票のどこを見ればIT戦略系か運用系か分かるか
Web系自社開発企業への応募を考えるとき、求人票の職種名だけを見て「社内SE経験者歓迎」だと安心してしまう人が多いのですが、ここで見るべきは職種名ではなく、いくつかの具体的な文言です。相談者と一緒に求人票を読み合わせる機会が多いので、その中で私が気づいた共通パターンを紹介します。
まず部署名・チーム名です。「情報システム部 企画グループ」「IT戦略室」「DX推進課」「経営企画部 IT統括」といった名称は企画・戦略寄りのサインで、「情報システム部 運用グループ」「ITサポート課」「ヘルプデスク」「情報システム部 保守チーム」といった名称は運用寄りのサインになります。
次に必須要件の動詞に注目してください。「要件定義から導入まで一気通貫で担当した経験」「ベンダーとの契約・予算交渉経験」「経営層への提案・報告経験」のように、企画・交渉・提案を示す動詞が並んでいれば戦略系です。「Active Directoryの運用経験」「社内ネットワークの保守経験」「問い合わせ対応の経験」のように、対応・保守・切り分けを示す動詞が並んでいれば運用系です。
業務内容欄の書かれる順番も手がかりになります。求人票は基本的に重要度の高い業務から並べる傾向があるので、先頭の1〜2行に来ている業務が実際のメイン業務であることが多いです。「基幹システムの刷新プロジェクト推進」が先頭にあってその後に「日常的な運用サポートも一部担当」と続く求人と、逆に「社内からの問い合わせ対応」が先頭にあって末尾に「将来的には企画業務にも関与予定」とある求人とでは、実態の比重が正反対です。
求人票で確認したい4つのポイント
- 部署名・チーム名に「企画」「戦略」「DX推進」が入っているか、「運用」「サポート」「ヘルプデスク」が入っているか
- 必須要件の動詞が「提案した」「交渉した」「策定した」か、「対応した」「保守した」「切り分けた」か
- 業務内容欄の先頭に来ている業務が、企画寄りか運用寄りか
- 「将来的には」「ゆくゆくは」という但し書きが付いている業務は、今のメイン業務ではないと読む
同じ「社内SE」「情報システムエンジニア」という職種名でも、A社は基幹システム刷新のプロジェクトマネージャーを募集していて、B社は実質ヘルプデスクに毛が生えた程度の運用改善担当を募集している、ということが実際にあります。私が求人票を確認する際は、業務内容欄の分量そのものにも注目します。運用系の求人ほど業務内容が箇条書きで淡々と並び、戦略系の求人ほど「なぜその業務が必要か」という背景説明に文字数が割かれる傾向があるからです。
ただし、部署名や必須要件の動詞をどれだけ丁寧に読み込んでも、求人票という一次情報から分かるのは「募集時点で会社側がどう見せたいか」までです。実際に配属された人が企画業務にどこまで関わらせてもらえたのか、逆に運用作業ばかり回されて企画への異動が実現しなかったのかといった、任される範囲の実態までは求人票の外側にあります。
こうした求人票の外側にある情報を面談前に補う手段の一つとして、企業の口コミを確認しておくという方法があります。一例として、社員・退職者の口コミを集めた「転職会議」を挙げます。
転職会議の企業ページは口コミがカテゴリ別に分かれていて、その中に「仕事のやりがい、面白み」「スキルアップ、キャリア開発、教育体制」という項目があります。情シス・社内SE職であれば、企画寄りの業務にどこまで関わらせてもらえたか、資格取得やベンダー折衝の場に同席させてもらえたかといった、求人票からは読み取れない任される範囲の手触りを拾える可能性があります。2026年時点で全国23万社・約550万件の口コミ情報が集まっているとのことです。
ただし、口コミを読めばその会社の実態が正確に分かるとまでは言い切れません。口コミの多くは在籍者・退職者が主観で書いたもので、特に不満を抱えて辞めた人の声に偏りやすいというのが私の見立てです。書かれている内容をそのまま信じ込むのではなく、「この会社は本当に企画業務に関わらせてもらえるのか」「運用担当のまま数年経っている社員が多くないか」といった、面談で確認すべき論点の当たりをつける材料として使うくらいの距離感がちょうどいいと思います。これらはあくまで公式サイトに掲載されている情報であり、私自身が閲覧して確認した口コミの内容として書いているわけではない点は明確にしておきます。
自分の経験の棚卸し、要件定義かベンダー折衝か、障害対応か手順書整備か
求人票の読み方が分かっても、自分自身がどちら寄りの経験を積んできたかを整理できていなければ、比較のしようがありません。ここでいったん、自分の職務経歴を棚卸ししてみてください。
IT戦略・企画系の経験にあたるかどうか
- 要件定義書やRFP(提案依頼書)を自分の手で書いたことがある
- ベンダーとの契約条件や見積もりの交渉を担当したことがある
- 予算枠の申請や稟議を通した経験がある
- 経営会議やIT委員会で、システムの方針を説明・報告したことがある
運用・ヘルプデスク系の経験にあたるかどうか
- 問い合わせ対応の件数やSLA(対応時間の目標)を意識して業務していた
- 障害発生時の一次対応・原因の切り分けを担当していた
- 運用手順書やマニュアルの整備・更新を担当していた
- PCキッティングやアカウント管理などの定型業務が業務時間の多くを占めていた
実際には両方が混在している人がほとんどです。企画業務が8割、運用業務が2割という人もいれば、その逆の人もいます。大事なのは「どちらも経験がある」という曖昧な自己評価ではなく、直近2〜3年でどちらの業務に評価の重心が置かれていたか、給与や賞与の査定でどちらの実績を根拠に説明されてきたかを思い出すことです。「今期は基幹システムの要件定義をよくまとめてくれた」と言われたのか、「問い合わせ対応が速くて助かっている」と言われたのか——査定面談で上司からかけられた言葉を具体的に思い出すと、自分がどちら寄りの評価軸で見られていたかが案外はっきり見えてきます。
実例、年収データを基準に交渉して面談で足元をすくわれたケース
コラム記事をプリントアウトして「社内SE 平均年収826万円」の一文にマーカーで線を引いたものを、相談の場に持ってきた方がいました。37歳、経験11年のWさんです。中堅アパレル小売チェーンの情報システム部門に長く在籍していて、Web系のEC企業への転職を考えていました。
Wさんの実務は、店舗のPOS端末トラブル対応、本部システムの問い合わせ窓口、月次のセキュリティパッチ適用、運用手順書の更新が中心でした。要件定義やベンダー選定に関わった経験もゼロではありませんが、実質は年に1〜2回、上司の指示のもとで見積もりを取りまとめる程度にとどまっていました。
書類選考は応募した3社中2社を通過しましたが、いずれも面談で提示された想定年収は480万円前後で、現職とほとんど変わりませんでした。Wさんは冒頭のコラム記事の数字を基準に600万円台後半を期待していたので、かなり落胆した様子で相談に来られました。
職務経歴書を見て気づいたのは、Wさんの実績がほとんど定量化されていないことでした。問い合わせ対応の件数、障害の一次切り分けにかかった平均時間、パッチ適用の対象台数——運用の仕事は数字に落とし込みにくいと思われがちですが、実際には十分に定量化できる材料が眠っていることの方が多いです。
職務経歴書を書き直す過程で、月間の問い合わせ対応件数が平均220件あったこと、障害の一次切り分けにかかる平均時間を前任者時代から3割短縮したこと、社内チャットツール移行プロジェクトでベンダー窓口を担当した経験を、数字と役割の言葉で整理し直しました。応募先も開発職ではなく、社内基盤やSaaS導入を担うコーポレートエンジニア寄りの求人に絞り込み直しています。
結果、応募し直した4社のうち2社から内定が出て、最終的に選んだ企業からは年収560万円のオファーが出ました。現職からは80万円の上積みです。運用の実務経験も、数字にすれば十分な交渉材料になるというのが、Wさんの転職活動を通して私が改めて確信したことでした。
逆の組み合わせもあります。IT戦略・企画系の社内SEとして基幹システム刷新やベンダーマネジメントを担ってきた方が、Geeklyの758万円という数字を基準に強気の年収交渉をしたものの、Web系自社開発企業のエンジニア職では「コードを書いた経験がほとんどない」ことがネックになり、結局はエンジニア職ではなくコーポレートIT職としてオファーが出て、想定より低い金額で着地したケースも同じくらいの頻度で見かけます。年収データは、自分がどちらの実務経験を積んできたかとセットで読まなければ、参考にすらならないというのが実感です。
Web系自社開発企業が社内SE経験者に求めるものとスキルギャップの埋め方
Web系自社開発企業が社内SE経験者を採用するとき、主に3つのポジションが候補になります。1つは社内のSaaS導入・セキュリティ・PCキッティングを担う社内コーポレートエンジニア、もう1つは事業部門と連携してシステム企画を担うIT企画・PdM系ポジション、そしてもっとも難易度が高いのが、開発職そのものです。
企画・戦略系の経験が中心であれば、コーポレートエンジニアやIT企画ポジションへの転職は比較的スムーズです。求人票の必須要件と自分の経験の重なりが大きいからです。一方、運用・ヘルプデスク系の経験が中心の場合、コーポレートエンジニアのポジションは狙いやすいものの、開発職への転職は職務経歴書だけでは経験の証明が難しく、書類選考の段階でつまずきやすくなります。
開発職を志望するなら、社内で使っていたRPAツールの設定、業務改善のために書いたSQL、GoogleAppsScriptでの自動化ツールなど、社内SEの業務の中で見落とされがちな「手を動かした実績」を掘り起こしてください。それすら乏しい場合は、独学でのポートフォリオ作成が現実的な埋め方になります。要件定義力があっても実装経験がゼロだと、Web系自社開発企業のエンジニア職では書類の段階で評価対象から外れてしまうことが多いというのが、私が現場で見ている感覚です。
「社内SE 年収1000万円」という言葉で検索する方もいますが、この水準に到達しているのは、情報システム部門の部長やCIO直下のマネージャークラスがほとんどです。現場のメンバーレベルで到達する例は稀で、そこに至る道筋も、開発力よりは予算規模の大きいプロジェクトを何度動かしてきたかという企画・マネジメント実績で評価されるケースが大半です。
よくある質問に答えます
ここまでの内容と重なる部分もありますが、相談の場でよく同じ形で聞かれる質問を、あらためて短くまとめておきます。
相談でよく聞かれる質問①
- 「社内SEはやめとけ」と言われるのはなぜですか。運用・ヘルプデスク色の強い部署に配属されると、裁量も少なく年収も頭打ちになりやすいためです。同じ社内SEでも企画寄りの部署に配属されれば、この評価は当てはまりません。
- 社内SEの年収が低いと感じるのはなぜですか。複数の調査でIT・通信業界の平均より低めに出るのは、非IT業界(小売・製造業など)の給与テーブルに乗って働いている社内SEが多く含まれるためです。
相談でよく聞かれる質問②
- 情シスと社内SEは同じ意味ですか。ほぼ同義で使われますが、企業によっては情シス=運用寄り、社内SE=企画寄りという使い分けをしている場合があります。求人票では言葉より業務内容欄で判断してください。
- 社内SEから未経験でWeb系エンジニア職に転職できますか。難易度は高いですが、社内で書いたスクリプトや自動化ツールなど「手を動かした実績」の証拠を示せれば、道は開けます。実績がなければ、独学のポートフォリオ作成が現実的な出発点です。
まとめ、社内SEの年収は肩書きではなく担ってきた役割で比較する
社内SEの年収相場を調べると、調査によって100万円台から200万円台以上まで差が開くのは、企画・戦略系と運用・ヘルプデスク系という異なる仕事が同じ肩書きの中に混在しているからです。この違いは求人票の職種名では分からず、部署名・必須要件の動詞・業務内容の書かれる順番まで読み込んで初めて見えてきます。
Web系自社開発企業への転職で年収を比較するときも、平均値の数字を基準にするのではなく、自分がこれまで要件定義やベンダー折衝で評価されてきたのか、それとも障害対応や手順書整備で評価されてきたのかを先に棚卸ししてください。自分の経験がどちら側で評価されてきたかを言語化できるかどうかが、年収交渉で足元をすくわれるか、納得のいく着地点を見つけられるかの分かれ目になります。Wさんのように、運用寄りの経験を数字で語り直すだけで、年収の伸びしろが見えてくることは十分にあります。




