面接の終盤、「希望年収はどのくらいですか」と聞かれた瞬間、頭が真っ白になってとっさに実力よりずっと低い金額を口にしてしまう人を、私はこれまで数えきれないほど見てきました。
IT・Web業界で800名以上の転職支援に携わってきましたが、マイナビ転職が2025年12月に実施した調査(転職経験のある20歳以上の男女1,967人が回答)では、44.2%が面接でこの質問をされた経験があると回答しており、決して珍しい場面ではありません。今回は、面接で希望年収を聞かれたときにどう答えるべきか、現年収を先に聞かれた場合や複数社の選考が同時に進んでいる場合の伝え方まで含めて、実際にあった失敗と成功の実例とともにお伝えします。
今回は、次の内容に沿ってご紹介します。
- 企業が面接で希望年収を聞く2つの理由と、聞き方の違いから読み取れること
- 現年収を先に聞かれた場合、複数社の選考が並行している場合の答え方
- 低すぎる希望額を言ってしまい、そのまま内定オファーの基準になった3つの実例
- IT・Web業界の職種別・経験年数別に見る希望年収の伝え方
- 一度下げすぎた希望額を、後から言い直す具体的な言い方
- 面接ですぐ使える具体的な回答例文
目次
- なぜ企業は面接で「希望年収」を聞くのか
- 予算内に収まるかどうかの一次スクリーニング
- 金銭感覚・自己評価のすり合わせ
- 質問の聞き方から、面接官の意図を読み取る
- 現年収を先に聞かれた場合の対応
- 複数社の選考が並行している場合の伝え方
- 希望年収の決め方、3つのステップ
- IT・Web業界、職種別・経験年数別に見る希望年収の伝え方
- 面接で失敗しやすい4つの回答パターン
- ① 低すぎる希望額を即答してしまう
- ② 現年収の伝え方を誤り、実態より低い基準を作ってしまう
- ③「希望はありません、御社の規定に従います」という回答
- ④ 他社比較の出し方を誤る
- 面接官の内部ロジック、誰が予算を握っているか
- 一度下げすぎた希望額を、後から言い直す方法
- 面接で使える具体的な回答例文
- まとめ、金額は「幅」と「根拠」と「場面の見極め」で決まる
なぜ企業は面接で「希望年収」を聞くのか
面接で希望年収を尋ねられると、多くの人は「値踏みされている」と身構えてしまいます。ですが企業側の意図は単にお金の話をしたいわけではなく、大きく分けて二つあります。
予算内に収まるかどうかの一次スクリーニング
一つ目は、募集ポジションに割り当てられた予算のレンジに、候補者の希望額が収まっているかどうかの確認です。多くの企業では求人を出す段階で等級ごとの年収レンジがあらかじめ決まっており、面接官はそのレンジから大きく外れる候補者を早い段階でふるいにかけたいと考えています。
例えば、ある企業の中途採用向けエンジニア求人では、募集レンジが450万円〜580万円と社内で決まっていました。この求人の一次面接で候補者が「700万円を希望します」と即答した場合、根拠の説明を待たずに「レンジ超過」とだけ選考シートに記録され、以降の面接に進めないまま終わることがあります。逆に「300万円で構いません」のようにレンジを大きく下回る金額を答えると、今度は「この人は自分の市場価値を理解できていないのでは」と別の懸念を持たれてしまいます。
私が人事担当者から聞いた話では、一次面接の時点でこの質問を入れている企業の多くは、「後の選考ステップに進めても最終的に金額で折り合わなければお互いの時間の無駄になる」という発想を持っています。希望額を早期に確認することは、企業にとっては選考コストを抑えるための実務的な手続きという側面が強いのです。
金銭感覚・自己評価のすり合わせ
二つ目は、候補者が自分の市場価値をどう捉えているかを見る、いわば価値観チェックです。希望額が現年収より大幅に高ければ根拠を尋ねられますし、逆に現年収と変わらない金額であれば「なぜ転職してまでこの金額で良いのか」という自己評価の甘さを疑われることもあります。
先ほどの44.2%と同じ1,967人の調査では、転職経験者の83.4%が「希望年収の回答は選考結果に影響すると思う」と回答しています(マイナビ転職「希望年収・給与の答え方は?」)。同じ調査では、転職経験者の59.5%が実際の希望額をそのまま答え、21.1%が本来の希望より高めに答えたと回答しており、面接の場でこの質問にどう答えるかを事前に決めていない人は、想像以上に多いようです。
これとは別に、同じページで紹介されている中途採用担当者352人への調査(過去5年以内に中途採用に携わった担当者が対象、実施期間2025年9月12日〜13日)では、希望給与が「相場より高すぎて根拠がない」「聞くタイミングが悪い」「他社と比較してくる」に加え、金額を伝えたときに不満そうな態度を見せたり、「この金額でなければ働く気はない」と一方的に告げたり、「自分は特別だから水準を上回りたい」と主張したりする交渉態度そのものも、面接官の印象を損ねやすいNGパターンとして挙げられています。
質問の聞き方から、面接官の意図を読み取る
同じ「希望年収」を尋ねる質問でも、聞き方によって面接官が知りたいことは微妙に違います。「最低いくら必要ですか」という直接的な聞き方をする面接官は、予算内に収まるかどうかの足切りを重視している可能性が高く、レンジに収まる幅を端的に答えるのが有効です。
一方で「これまでの年収の推移を教えてください」というように、時系列で聞いてくる面接官は、単発の金額よりも、候補者がどのように評価され昇給してきたかというキャリアの積み上げ方に関心を持っています。この場合は、金額の推移とあわせて、その背景にある役割の変化や実績を添えて答えると好印象につながりやすいというのが私の実感です。質問の型を意識するだけで、同じ準備でも答え方の重点は変わってきます。
現年収を先に聞かれた場合の対応
希望年収の前に、まず現年収を尋ねられる面接も少なくありません。ここで注意したいのが、総支給額と手取り額を混同しないことです。
私が担当した候補者の中にも、現年収を聞かれて手取りベースの金額をそのまま答えてしまい、面接官の記録には実態より50万円以上低い数字が残ってしまったケースがありました。手取り額は税金・社会保険料を差し引いた後の金額であり、企業が知りたいのは基本給・賞与・各種手当を含めた総支給額です。この違いをとっさに正確に答えられるよう、事前に源泉徴収票や給与明細で確認しておく必要があります。
現年収を答える際は、内訳まで添えると印象が変わります。「現年収は480万円で、内訳は月給30万円、賞与が年2回で計120万円になります」というように、基本給と賞与の比率まで伝えられると、面接官はその後の希望額を検討しやすくなります。逆に「だいたい500万円くらいです」というあいまいな答え方は根拠のなさが伝わってしまい、後に続く希望額の説明にも説得力を欠く結果になりがちです。
エージェント経由での応募か、企業への直接応募かによっても、この質問が出るタイミングは変わります。エージェント経由の場合、現年収は書類選考の前にエージェントを通じて企業側にあらかじめ共有されていることが多く、面接では改めて聞かれないか、確認程度で終わることがほとんどです。一方、企業に直接応募した場合は、面接の場で初めて現年収を聞かれることになるため、事前の準備を怠るとその場で数字があいまいになりやすい、という違いがあります。
注意点: 現年収を聞かれた流れで、そのまま「では希望年収も現年収と同じくらいで」と答えてしまう人がいますが、これでは転職によって何を得たいのかが伝わりません。現年収はあくまで基準点として伝え、希望額は転職で変えたい要素(役割・裁量・スキルの再評価など)とセットで説明するのがおすすめです。
複数社の選考が並行している場合の伝え方
転職活動を進めていると、複数社の選考が同時に進行している状態で希望年収を聞かれる場面も出てきます。ここで他社の存在をどう扱うかは、悩ましいポイントです。
内定後のオファー面談であれば、他社からの具体的な提示額を事実として伝えることも有効な交渉材料になります。ただし面接段階では話が違います。まだ合否が決まっていない相手に他社の金額を持ち出すと、「金額だけで会社を選ぶタイプなのでは」という印象を与えかねません。
私が候補者に勧めているのは、金額そのものではなく、選考が進んでいる事実だけを軽く触れる方法です。「現在、他社の選考も並行して進めており、御社を含めて年内の転職を考えています」という程度に留めておけば、志望度の高さと、判断材料として他社の存在があることの両方を伝えられます。金額の比較は内定が出そろった段階、つまりオファー面談以降に持ち越すべき話です。この場面での具体的な交渉の進め方は、内定後のオファー面談での年収交渉を扱った別の記事で詳しく紹介しています。
すでに他社から内定が出ている状態で、志望度の高い企業の最終面接に臨む場合は、もう一段踏み込んだ伝え方も選択肢に入ります。「実は他社から内定をいただいており、今月中に返答が必要な状況です。御社が第一志望なので、選考を早めていただくことは可能でしょうか」というように、金額ではなく選考スピードの相談として伝えると角が立ちにくく、企業側も対応を検討しやすくなります。金額そのものを急かす材料にするのではなく、意思決定のスケジュールの話として扱うのがコツです。
希望年収の決め方、3つのステップ
希望額を決める作業は、思いつきで数字を出すことではありません。私が候補者と一緒に必ず行っている手順は、次の3つです。
- 現年収を総支給ベースで正確に把握する(基本給・賞与・各種手当を含めた直近1年分)
- 業界・職種・経験年数別の相場を、求人票の複数比較やエージェントの情報で調べる
- 自分の実績・経験を数字で棚卸しし、希望額の根拠として説明できる状態にする
現年収の把握でつまずく人は意外に多く、賞与を含めずに月給だけを12倍した金額を「現年収」だと思い込んでいるケースもよく見かけます。相場調査も、求人票を1〜2件見て終わらせず、最低でも5〜6件は集めて並べてみることで、自分がその中のどのあたりに位置するかが初めて見えてきます。
相場観を踏まえたうえで、私が目安として伝えているのは、現年収の110%〜125%程度の幅を希望額のベースに置く考え方です。下限は現年収を大きく下回らない水準、上限は同職種・同年次の相場観の上限に近い水準というイメージです。もちろん転職理由が「未経験領域への挑戦」であれば、この幅より低めに設定して構いませんし、逆に希少なスキルを持つ人であれば、この幅を超えた設定も十分に成立します。あくまで出発点として使う数字だと考えてください。
根拠づけの部分は、市場価値の棚卸しを扱った別の記事でも紹介した考え方がそのまま使えます。担当したプロジェクトの規模、扱ってきた技術の希少性、マネジメント経験の有無を数字で整理しておくと、面接で希望額を聞かれたときに「なぜその金額なのか」を即座に説明できるようになります。
IT・Web業界、職種別・経験年数別に見る希望年収の伝え方
IT・Web業界では、職種と経験年数によって希望年収の伝え方の勘所が異なります。私がこれまで担当してきた実感をもとに整理すると、次のような傾向があります。
| 職種・経験年数 | 希望額の伝え方の傾向 | 面接官に響きやすい根拠 |
|---|---|---|
| エンジニア(実務3年未満) | 相場よりやや控えめな幅を取り、成長機会を優先する伝え方が無難 | 学習意欲、担当した個別タスクの完遂実績 |
| エンジニア(実務5年以上) | 扱う技術スタックの需給を踏まえ、強気の下限を設定してよい | 技術スタックの希少性、設計・障害対応の主導経験 |
| プロジェクトマネージャー | 事業インパクトを数字で示せるかどうかで幅を調整する | 担当プロジェクトの規模・予算・成果指標 |
| ディレクター・企画職 | 給与テーブルに近い会社が多く、裁量とセットで伝える | 裁量権の拡大、担当領域の広さ |
実務経験が浅いエンジニアほど、希望額を高く見せようとして根拠のない金額を出してしまいがちですが、この段階では相場よりやや低めの幅を持たせ、成長機会を得られる環境かどうかを優先したほうが、結果的に良い条件を引き出しやすいというのが私の実感です。一方、5年以上の経験を積んだエンジニアであれば、扱っている技術領域の需給次第で、相場の上限に近い金額を下限として設定しても違和感がありません。
例えばクラウドインフラや機械学習関連のスキルを持つエンジニアは、需要が供給を上回っている領域のため、「AWSでのインフラ設計・運用を5年担当しており、同水準の求人を踏まえると600万円〜680万円を希望しています」というように、技術領域を明示したうえで強気の幅を示しても、面接官に違和感を持たれにくい傾向があります。プロジェクトマネージャーの場合は、「前職では年商3億円規模の新規事業立ち上げをリードし、初年度で黒字化を達成しました」というように、金額の前に事業インパクトを数字で示すと、希望額への納得感が格段に上がります。
ディレクターや企画職の場合は、成果が個人の数字に直結しにくく、給与テーブルの等級に沿って年収が決まる会社が多いため、金額だけを主張しても動きにくいのが実情です。「クライアントとの折衝から進行管理まで一貫して担当しており、次のポジションでは企画段階からの関与を希望しています。それに見合う水準として450万円〜500万円を希望します」というように、裁量の広がりと金額をセットで語ると、等級の判断材料として面接官に伝わりやすくなります。
面接で失敗しやすい4つの回答パターン
ここからは、実際に私が見てきた失敗のパターンを、具体的な金額とともに紹介します。共通しているのは、その場しのぎで答えた数字が、そのまま内定時のオファー額の基準になってしまうという点です。
① 低すぎる希望額を即答してしまう
一つ目は、遠慮や不安から相場より大きく下回る金額を答えてしまうケースです。
以前担当した20代後半のバックエンドエンジニアの方は、当時の年収が380万円で、扱っていた技術スタックの需要を踏まえれば550万円前後は狙える実力がありました。ところが面接で希望年収を聞かれた際、「強気に見られたくなかった」という理由で、「400万円あればありがたいです」と即答してしまいました。結果、内定時に提示されたオファー額は420万円。面接での発言がそのまま基準にされ、本来の実力より100万円以上低い金額で入社することになりました。
後日、この方から「内定が出た後に、やっぱり金額を相談してもいいですか」と連絡がありました。ただ、面接で本人が明確に「400万円あればありがたい」と発言していた経緯があるため、企業側からすれば「本人が納得して提示した金額」という認識になっており、そこから積み増しを求めるのは現実的に難しい状況でした。面接での発言は、内定後の交渉の土台そのものを決めてしまうということを、この一件は物語っています。
マイナビ転職の同じ調査でも、入社後に実際受け取った年収が面接で答えた希望額より高かった人は14.7%にとどまっています。面接で答えた金額を入社後に上回るケースは多くない、という前提で最初の一言を考えておくべきだと思います。
② 現年収の伝え方を誤り、実態より低い基準を作ってしまう
二つ目は、現年収を答える際の伝え方のミスが、そのまま希望額の基準を下げてしまうケースです。
30代前半のディレクターの方は、現年収を聞かれた際に手取りベースの「年収400万円くらいです」という答え方をしてしまいました。実際の総支給額は480万円でしたが、面接官はこの400万円という数字を基準に検討を進め、最終的なオファーは430万円にとどまりました。後日、総支給額を正しく伝えていれば480万円を下回るオファーは出にくかったはずだと分かり、本人も「あのとき手取りだと断らずに言えばよかった」と悔やんでいました。
似たようなケースとして、賞与を含めずに現年収を答えてしまった30代のQAエンジニアの例もあります。この方は年2回の賞与だけで年間80万円ほど受け取っていたにもかかわらず、面接では月給ベースの数字だけを伝えてしまいました。企業側は賞与を考慮しないまま次の等級の年収レンジを検討したため、最終的なオファーは本人の総支給額とほぼ同水準にとどまり、転職による年収アップをほとんど実感できない結果になってしまいました。
③「希望はありません、御社の規定に従います」という回答
三つ目は、金額を答えること自体を避けてしまうケースです。謙虚さや柔軟性を示したつもりでも、面接官の受け取り方はまったく違います。
私が担当したプロダクトマネージャーの方は、面接で「希望年収は特にありません、御社の規定に従います」と答えました。本人としては「金額よりも仕事内容を重視している」という姿勢を示したつもりでしたが、面接官からは自分の市場価値を把握していない人という評価を受けてしまい、結果的に等級の低い区分でのオファーとなりました。金額へのこだわりのなさを示したいなら、幅を示した上で役割を重視していると添えるほうが、同じ意図がずっと正確に伝わります。
④ 他社比較の出し方を誤る
四つ目は、面接段階で他社の金額をそのまま比較材料として持ち出してしまうケースです。
あるエンジニアの方は、一次面接の段階で「他社では600万円の提示が出そうなので、それに合わせてもらえますか」と発言しました。まだ合否も決まっていない段階でのこの発言は、面接官に「入社意欲より金額を優先するタイプ」という印象を与えてしまい、その後の選考は通過しませんでした。他社の存在に触れること自体は問題ありませんが、面接段階では金額を比較材料にせず、選考が進んでいる事実だけに留めるのが基本です。
- 低すぎる希望額を即答する → 幅を持たせ、相場観に基づく下限を用意しておく
- 現年収を手取り・月給ベースで答える → 賞与・手当を含めた総支給額を正確に伝える
- 「希望はありません」と答える → 幅を示した上で役割重視の姿勢を添える
- 他社の金額をそのまま比較材料にする → 選考が進んでいる事実のみを伝える
面接官の内部ロジック、誰が予算を握っているか
面接での回答が結果を左右する背景には、面接官自身が持っている裁量の小ささがあります。一次面接を担当する人事は、多くの場合、希望額が募集レンジに収まっているかを確認する役割に徹しており、その場で金額を決める権限を持っていません。
私がこれまで見てきた範囲では、面接段階での金額に関する裁量は、おおよそ次のように分かれています。
| 面接官の立場 | 主な役割 | 金額への裁量 |
|---|---|---|
| 人事(一次面接) | 募集レンジ内かどうかの確認、足切り | ほぼなし(レンジ外だと選考終了もある) |
| 現場責任者(二次面接以降) | スキル・カルチャーフィットの確認 | 等級内での微調整を提案できる程度 |
| 役員・最終面接官 | 最終的な採用可否と等級の決定 | 等級・特例条件まで判断できる |
つまり、一次面接で相場より大きく外れた金額を答えてしまうと、以降の面接に進む前の段階で足切りに遭うリスクがあります。逆に言えば、一次面接の時点で募集レンジに収まる幅を示しつつ根拠を添えられれば、現場責任者や最終面接官との話し合いで等級や条件を調整してもらえる余地が生まれるということです。面接官個人の裁量ではなく、その面接官がどの段階の役割を担っているかで答え方の意味合いが変わると考えておくとよいと思います。
面接官が候補者の回答をどう扱うかも、知っておくと役立ちます。多くの企業では、面接後に選考シートやスプレッドシートへ候補者の希望額を記録し、次の面接官へ引き継ぐ運用をしています。一次面接で答えた金額は、この記録を通じて二次・最終面接の面接官にもそのまま伝わるため、「一次面接では低めに答えて、最終面接で調整すればいい」という考え方は、実際にはほとんど通用しません。最初の回答が、選考全体を通じての基準になると考えておくべきです。
この運用を知らないまま、二次面接や最終面接で改めて希望年収を聞かれ、一次面接と違う金額を口にしてしまう人もいます。棚卸しを進める中で新しい根拠が見つかり、金額を上方修正したくなる気持ちは分かりますが、金額そのものを大きく変えると、選考シートの記録と矛盾が生じ、誠実さを疑われる原因になります。伝えるなら、「先日お伝えした金額は変わりませんが、あらためて整理すると〇〇という実績もあり、担当できる業務の幅も広がると考えています」というように、金額を据え置いたまま根拠を補強する形にするのが無難です。
一度下げすぎた希望額を、後から言い直す方法
ここまでは、答えた金額を据え置いたまま根拠を補強する場面を想定してきました。ただし、面接を重ねる中で「思っていたより担当範囲が広い」「求められる役割が当初の想定を超えている」と分かった場合は、話が別です。この場合は、金額を据え置くのではなく、希望額そのものを上方修正して伝え直すのが筋の通った対応です。
ポイントは伝えるタイミングです。先ほど紹介した実例のように、内定が提示された後になって金額を上げてほしいと言うのは選考シートの記録を覆すことになり難航しがちですが、内定提示より前の面接、あるいはエージェント経由での連絡であれば、選考の材料として受け止めてもらいやすくなります。二次面接や最終面接に進んだ段階で業務範囲の広さが分かったのであれば、次の面接の冒頭か、面接後にエージェントを通じて早めに伝えるのが得策です。
私が候補者に勧めている言い方は、「一次面接では480万円とお伝えしましたが、二次面接でお話を伺い、担当いただく業務範囲が想定より広いと分かりました。あらためて520万円を希望額とさせていただけないでしょうか」というように、金額が変わった理由を業務理解の深まりに紐づけて説明する形です。理由が明確であれば、面接官も選考シートの記録を更新する形で対応してくれることが多いというのが私の実感です。
面接で使える具体的な回答例文
最後に、実際の面接で使える言い回しを場面別に紹介します。
希望年収を聞かれた場合の基本形は、「現年収と、これまでの経験を踏まえて480万円〜550万円を希望しています。金額よりも、担当させていただく役割の裁量を重視しています」というように、幅と根拠、そして役割への関心をセットで伝える形です。
現年収を先に聞かれた場合は、「現年収は480万円です。内訳は月給32万円、賞与が年2回で計96万円になります」というように、総支給ベースの内訳まで添えると、後に続く希望額の説明に説得力が生まれます。
複数社の選考が並行している場合は、「現在、他社の選考も並行して進めており、御社を含めて年内での転職を希望しています」という程度に留め、具体的な金額の比較は口にしないのが基本です。他社からすでに内定が出ている場合は、「他社から内定をいただいており、今月中の返答が必要です。御社が第一志望なので選考を早めていただくことは可能でしょうか」というように、金額ではなくスケジュールの相談として伝えます。
「希望はありません」と答えたくなった場合の代替案としては、「相場を踏まえると500万円前後を希望していますが、金額以上に、御社で担当できる業務範囲を重視しています」という形にすると、柔軟性と自己評価の高さを同時に示せます。
まとめ、金額は「幅」と「根拠」と「場面の見極め」で決まる
面接で「希望年収は?」と聞かれたときにやるべきことは、突き詰めると三つです。現年収は総支給ベースで正確に伝え、希望額は相場に基づいた幅で答え、他社との比較は面接段階では控えめに留める。この三つを押さえておくだけで、面接本番での失敗はかなり防げます。
今回紹介した3つの実例のように、一度低く答えてしまった金額は、そのままでは後から覆すのが難しいというのが現場で見てきた実感です。ただし業務範囲の広がりのように根拠そのものが変わったのであれば話は別で、内定提示より前に理由を添えて言い直すという選択肢も残っています。一次面接での回答が選考全体を通じての基準になるという内部事情を踏まえれば、なおさら最初の一言をおろそかにはできません。次に「希望年収は?」と聞かれる場面が来たら、事前に整理した相場観と根拠を思い出して、落ち着いて答えてみてください。




