IT・Web業界を中心に転職支援をしていると、内定後の年収交渉で「思ったほど上がらなかった」「気づいたら不利な流れになっていた」という相談を数え切れないほど受けます。エンジニアやディレクターとして専門性を磨いてきた方でも、いざ自分の年収を交渉する段になると、驚くほど同じところでつまずくものです。
7年間で800名以上の転職をサポートしてきましたが、交渉に失敗するケースには共通する3つのパターンがあります。相手の出方を待つだけでは、提示額は上がりません。今回はその3つを、実際の相談でよく見る流れとあわせて整理してみます。
年収交渉で失敗する人に共通する3つのパターン
振り返ってみると、交渉の場で不利になってしまう人には、情報の出し方や伝え方に共通するクセがあります。ここでは特によく見る3つのパターンを順番に見ていきます。
① 現年収をそのまま伝えてしまう
一つ目は、聞かれるままに現年収をそのまま伝えてしまうケースです。企業側は多くの場合、現年収を基準にして提示額を組み立てます。最初にどんな情報をどう出すかだけで、交渉の伸びしろは大きく変わってきます。
私が担当した候補者の中にも、面接の初期段階で現年収を包み隠さず伝えてしまい、結果的に「現年収+10%程度」という控えめな提示で着地したケースが何度もありました。現年収は聞かれたら答えるものであって、自分から進んで開示するものではない、という意識を持つだけで、提示額の交渉余地は変わってきます。
② 「年収は気にしていません」と言ってしまう
二つ目は、「年収はそこまで気にしていません」と口にしてしまうケースです。謙虚さや意欲を示すつもりの一言でも、企業側からは「安く採用できる候補者」という受け取り方をされることがあります。
面接の場では好印象に思えても、そのひとことが選考メモに「年収へのこだわりは低い」と残り、そのまま提示額を決める根拠として使われてしまう場面を何度も見てきました。意欲と年収への意識は切り離して伝えるというのが私の実感です。
③ 根拠のない希望額を伝えてしまう
三つ目は、相場観を持たないまま希望額を伝えてしまうケースです。同業界・同職種の水準を把握せずに数字だけを口にすると、企業側から「相場を理解していない候補者」と判断され、かえって交渉が不利に働くことがあります。
特にIT・Web業界は職種やポジションによって相場の幅が大きく、「なんとなくこれくらいほしい」という感覚だけで金額を出すと、実態と大きくずれてしまうことが珍しくありません。求人票のレンジや同職種の転職者の実例をもとに、自分の経験がその中のどのあたりに位置するかを説明できる状態にしておくことが重要です。
根拠を示せた候補者は、面接官から「なぜその金額なのか」と聞かれても慌てず答えられ、結果として提示額も上振れしやすい傾向があります。逆に根拠が曖昧なまま押し切ろうとすると、企業側も強気の提示を控える方向に傾いていきます。
3つのパターンから見えてくる、交渉に強い人の共通点
ここまでの3つのパターンを踏まえると、年収交渉で結果を出す人にはある共通点が見えてきます。それは、金額の交渉を「駆け引き」ではなく「根拠を積み上げる作業」として捉えている、という点です。
- 現年収は自分から先に開示せず、聞かれた場合も幅を持たせて答える
- 「年収は気にしていません」ではなく、役割への意欲と希望条件は切り分けて伝える
- 求人票のレンジや同職種の相場を調べ、希望額の根拠を自分の言葉で説明できるようにしておく
実際にこの3つを意識するだけで、交渉の結果は大きく変わります。根拠を示せば、企業側も金額を積み増しやすくなるのです。裏を返せば、企業側にとっても「なぜこの金額を出すのか」を社内で説明できる材料を、候補者側から用意してあげているということでもあります。
まとめ:年収交渉は「駆け引き」ではなく「根拠の積み上げ」
年収交渉で失敗するパターンの多くは、情報の出し方や伝え方ひとつに起因しています。現年収を安易に開示しない、意欲と年収への関心を混同しない、そして希望額には必ず根拠を持たせる。この3つを意識するだけで、交渉の結果は確実に変わってきます。
もし今まさに年収交渉を控えている方がいたら、まずは自分がこの3つのどれかに当てはまっていないか、一度振り返ってみてください。駆け引きではなく根拠の積み上げだと捉え直すだけで、次の一手が見えてくるはずです。



