「フルリモートでいいから、とにかく通勤をなくしたい」——そう考えて転職活動を始めた方から、内定後に「思っていたより年収が50万円近く低かった」という相談を受けることが、ここ1年で目に見えて増えました。

IT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わってきましたが、この手の相談は今年に入って特に増加傾向にあります。今回は、リモートワーク可の求人で年収が下がりやすくなる背景にある3つの構造を、実際の相談事例とともに整理してお伝えします。

今回は、次の3つの構造からリモートワーク可求人の年収の下がりやすさを整理します。

  • 全国から応募が殺到することで生まれる「買い手市場化」
  • 地域に紐づいていた給与テーブルが一本化され、地方水準に寄っていく仕組み
  • 対面を前提にした評価文化の中で、フルリモート勤務者が評価面で不利になりやすい構造
目次
  1. リモートワーク可の求人はなぜ年収が下がりやすいのか、市場データから見る
  2. 理由1、全国から応募が殺到する「地域の壁が消えた」買い手市場
  3. 知名度の高い企業ほど買い手市場化の恩恵が大きい
  4. 理由2、地域に紐づいていた給与テーブルが一本化され、地方水準に寄っていく
  5. 理由3、対面重視の評価文化でフルリモート勤務者が不利になりやすい構造
  6. フルリモートを希望するなら、年収はどのくらい織り込むべきか
  7. 年収を落とさずにリモート可求人へ転職する方法
  8. まとめ、年収が下がるかどうかは「地域の壁」がどう扱われるかで決まる

リモートワーク可の求人はなぜ年収が下がりやすいのか、市場データから見る

まず、リモート求人自体が今どういう状況にあるのかを数字で確認します。ITエンジニア専門の転職支援サービスであるレバテックの調査によると、フルリモート求人の数はピークだった2023年6月と比べて29.5%減少している一方、「原則出社」の求人は同じ期間で約3.4倍に増えています(レバテック「フルリモート求人はピーク比約30%減少」)。

この数字だけを見ると、リモートワークという働き方自体が終わりつつあるように感じるかもしれません。ただ、私が現場で見ている実感は少し違います。フルリモートを掲げる求人が減っているのは事実ですが、なくなったわけではなく、数が絞られた分だけ1求人あたりの応募が集中しやすくなっているというのが実態に近いところです。

求職者側の意識を見ても、リモートワークへのニーズ自体は根強く残っています。テレワーク経験者1,005名を対象にしたテレリモ総研(LASSIC)の調査では、フルリモートで働ける仕事への転職に際して何らかの年収減を受け入れてもよいと回答した人が全体の38.0%に上りました。

すでにフルリモートで働いている層に限ると、この割合は42.2%まで上がり、そのうち9.0%は「20%を超える減額でもリモートを優先したい」と答えています(テレリモ総研「リモートワークと年収のトレードオフに関する調査」)。

一方、タレントスクエアの調査では、全回答者1,023名のうち毎日出社している514名に絞って聞いたところ、73.5%が「年収が下がるならリモートワークは選ばない」と回答しています(タレントスクエア「フルリモートになるなら年収いくら下げられる?」)。この2つの調査を並べると、「多少の年収減を受け入れてでもリモートを取りたい」という層は、求職者全体の中では実は少数派であることが見えてきます。

企業側から見れば、この構図はそのまま採用のしやすさに直結します。多少の年収減を提示しても応募してくる層が一定数存在し、しかもその層は全国どこからでも応募できる。この土台の上に、ここから紹介する3つの構造が積み重なることで、リモートワーク可の求人は年収が下がりやすくなっていきます。

多くの候補者を表す小さな円が点線でひとつの求人カードに向かって集まる様子を表したイラスト

理由1、全国から応募が殺到する「地域の壁が消えた」買い手市場

一つ目の構造は、単純に応募者数の増え方です。従来、勤務地を東京都内に限定した求人であれば、通勤圏内に住む人しか応募してきません。ところがフルリモート可の求人にした瞬間、応募できる母集団は理論上、日本全国に広がります。

以前担当した従業員120名ほどのSaaS企業では、バックエンドエンジニアの求人を出社前提からフルリモート可に切り替えたところ、月あたりの応募数が15人前後から60人以上に増えました。採用担当者はこの変化を歓迎する一方で、「これだけ選択肢があるなら、最初の提示額はもう少し抑えても大丈夫そうだ」と、こちらに正直に話してくれたのを覚えています。

実際にこの企業は、求人票の年収レンジを550万〜650万円から480万〜580万円に引き下げました。応募数が4倍になったことで、企業側の交渉における優位性が明確に強まった格好です。応募者一人ひとりのスキルが下がったわけではなく、選べる候補の数が増えたことで、企業が強気の条件を出す必要がなくなったというだけの話です。

実際にこの求人に応募した32歳のバックエンドエンジニアの方(福岡在住)は、前職で担当していた業務内容やスキルセットからすると560万円程度が妥当な水準でしたが、最終的なオファーは520万円でした。企業側からは「同じポジションに首都圏在住の方からも複数応募があり、経験年数も近かったため、この水準での提示になった」という説明があったそうです。

この方に限らず、フルリモート求人では「自分と同じくらいの経験年数・スキルを持つ候補者が、全国から何人も名乗りを上げている」という状況を、応募する側もある程度織り込んでおく必要があります。出社前提の求人であれば埋もれなかった競合が、リモート求人では急に増えるということです。

知名度の高い企業ほど買い手市場化の恩恵が大きい

買い手市場化の効果は、企業の知名度や採用力によっても差が出ます。もともと応募が集まりやすいメガベンチャーや上場企業がフルリモートを解禁すると、応募数はさらに膨らみ、給与テーブルを下方修正できる余地も大きくなりやすいというのが実感です。

逆に、知名度の低いスタートアップがフルリモートを打ち出しても、応募数の伸びは限定的なことが少なくありません。以前担当した従業員30名ほどの無名スタートアップは、フルリモート求人にしても応募数がほとんど増えず、採用競争力を保つために逆に提示年収を10%ほど引き上げて求人を出し直していました。

「フルリモートにすれば年収を下げられる」という理屈が成り立つのは、そもそも応募が集まる企業に限られるという点は、応募する側にとっても覚えておく価値があります。求人票の企業規模や知名度も、年収の下がりやすさを見極める材料の一つになります。

理由2、地域に紐づいていた給与テーブルが一本化され、地方水準に寄っていく

二つ目の構造は、給与そのものの決まり方の変化です。SESと自社開発企業の年収差を扱った記事でも触れましたが、自社開発企業の多くは等級ごとの給与テーブルで年収が決まります。この給与テーブルは、実はこれまで「勤務地」という前提の上に成り立っていました。

東京都内オフィスに出社する社員向けの給与テーブルに、家賃相場や物価を踏まえた地域手当を上乗せする、あるいは大阪支社・地方拠点は別のテーブルを用意する、というのが従来の一般的な設計です。ところがフルリモート化が進むと、「東京のオフィスに出社するかどうか」という前提そのものが崩れます。

ここで企業が直面するのが、「東京在住ではないのに、東京水準の給与を払い続ける根拠をどう説明するか」という社内的な公平性の問題です。人事担当者から直接聞いた話では、地方在住のフルリモート社員が増えるにつれて、既存の東京在住社員から「同じ仕事をしているのに地域手当の分だけ給与が高いのは不公平ではないか」という声が上がり、地域手当そのものを廃止する方向で制度を見直した企業もありました。

実際に相談の中で見えてきた、給与テーブルの見直しパターンを整理すると次のようになります。

パターン内容年収への影響の傾向
地域手当廃止型東京在住向けの地域手当(給与の5〜15%程度)を撤廃し、全国一律の基本給に統一東京在住者は実質減額、地方在住者は変化なし
新設テーブル型フルリモート枠を新設する際、既存の出社社員とは別に、地方拠点や地方採用者を基準にした給与テーブルを適用フルリモート希望者全般が、既存の出社社員より低い水準からスタートしやすい
全国統一・据え置き型勤務地を問わず、従来の東京水準に統一(据え置き)地方在住者にとっては増額。企業側のコスト増につながるため採用企業は限定的

私が担当してきた相談を振り返ると、3つ目の「全国統一・据え置き型」を採用している企業は資金力に余裕のある一部の企業に限られ、実際に多くの相談者が直面するのは1つ目・2つ目のパターンです。

40代前半のプロダクトマネージャーの方は、東京の自社開発企業で年収680万円を得ていましたが、フルリモート可を条件に、地方拠点が本社の成長中SaaS企業へ転職活動をしたところ、内定時のオファーは600万円でした。企業からは「弊社の給与テーブルは本社所在地の生活コストを基準に設計しており、フルリモートで入社される方にも同じテーブルを適用している」という説明があったそうです。

80万円の差は、本人のスキルではなく、給与テーブルがどの地域を基準に設計されているかという一点に起因していました。この方は最終的にこのオファーを受けましたが、「面接の早い段階で給与テーブルの基準地を確認していれば、期待値のズレをもっと早く解消できた」と振り返っています。

見落とされがちなのが、基本給だけでなく、通勤手当や住宅手当といった諸手当も一緒になくなるケースです。前職で月1万5,000円の通勤手当と月2万円の住宅手当を受け取っていたある候補者の方は、転職先のフルリモート求人では両方とも支給対象外となり、額面の基本給はほぼ横ばいだったにもかかわらず、年間で42万円ほど手取りが減る計算になりました。オファー通知書の「年収」という一つの数字だけでなく、手当の内訳まで確認することが、この理由2に関しては特に重要です。

異なる高さの棒グラフが点線でひとつの棒に向かって収束していく様子で、地域別の給与水準が一本化される過程を表したイラスト

業界によって給与テーブルの性質が異なるのと同じように、同じ業界の中でも「勤務地に紐づいた給与テーブルを維持している企業」と「フルリモートを前提に給与テーブルを作り直した企業」とでは、提示される年収の水準がまったく違ってきます。応募する前に、この会社の給与テーブルがどちらのタイプなのかを見極める視点が欠かせません。

理由3、対面重視の評価文化でフルリモート勤務者が不利になりやすい構造

三つ目の構造は、年収そのものよりも評価やその後の昇給に関わる話です。日本企業の評価制度には、「頑張っている姿が見える人が評価されやすい」という文化がまだ根強く残っている職場が少なくありません。オフィスで残業している様子、会議で積極的に発言する様子、休憩時間の雑談の中で拾われる非公式な貢献——こうした「見える努力」は、フルリモートの環境では物理的に発生しにくくなります。

以前担当した30代のWebエンジニアの方は、フルリモートで働き始めて1年目の評価面談で、上司から「成果物自体には問題ないが、チームへの貢献度が見えにくい」という理由で、昇給が同期の出社組より抑えられたと聞きました。本人いわく、Slackでのやり取りやコードレビューの量では決して見劣りしていなかったはずだといいます。

このケースについて、評価者側の事情もある程度理解できます。定量化しにくい「チームへの貢献」を評価する際、評価者はどうしても自分が直接見聞きした情報に頼りがちです。オフィスに出社している部下の方が、評価者にとって観測できる情報量が単純に多くなるため、悪気なく評価が甘くなりやすいという構造があります。

生産性という観点でも、リモートワークに厳しい調査結果が話題になったことがあります。MITとUCLAの研究者が発表した実験では、インドのデータ入力職を対象に、フルリモート勤務者は出社勤務者と比べて生産性が18%低かったという結果が示されました(NBER Working Paper No. w31515「Working from Home, Worker Sorting and Development」)。

ただし、この調査はデータ入力という定型業務・特定の国の労働環境を対象にした実験であり、日本のIT・Web業界のエンジニア職やクリエイティブ職にそのまま当てはめられる根拠としては限定的です。私自身、担当してきたフルリモートのエンジニアの方々が出社組より生産性で劣っているという実感はありません。

むしろ現場で感じるのは、生産性の問題というより評価する側の情報の非対称性の問題です。パーソル総合研究所の最新の調査でも、正社員のテレワーク実施率は21.4%(前年同期比-1.1ポイント)にとどまり、企業規模や地域によって導入状況に大きな差があることが示されています(パーソル総合研究所「テレワークに関する調査(2026年)」)。

テレワークを前提とした評価制度自体がまだ十分に整備されていない企業も多く、そうした企業にフルリモートで入社すると、成果を正しく汲み取ってもらえないリスクが相対的に高まります。

レバテックのデータで「原則出社」求人が3.4倍に増えていたのも、この評価の難しさと無関係ではないと私は見ています。先ほどのパーソル総合研究所の調査でも、「原則出社」の指示を受けている人の割合は24.6%と2年連続で増加しており、企業規模を問わず前年から増えているとのことでした。生産性データそのものより、評価する側が「見えないことへの不安」に耐えられなくなった企業から、出社回帰に舵を切っている、というのが採用担当者と話していて感じる実感に近いところです。

フルリモートを希望するなら、年収はどのくらい織り込むべきか

ここまでの3つの構造を踏まえると、フルリモートの求人に応募する際は、ある程度の年収ダウンを前提に条件を検討しておいた方が現実的です。ただ、「どのくらい下がるものなのか」という相場感がないまま漠然と不安を抱えている方も多いので、私が相談の中で伝えている目安を紹介します。

先ほど紹介したテレリモ総研の調査では、テレワーク経験者全体で見ても年収減を許容する人は38.0%にとどまり、残りの62.0%は「年収を下げてまでリモートを取るつもりはない」という立場でした。タレントスクエアの調査で73.5%が「年収が下がるなら選ばない」と答えていたことも合わせると、リモートのために年収を下げてもいいと考えている求職者は、市場全体で見ると多数派ではありません。

これは裏を返せば、年収を下げてでもリモートを取りたいという候補者は、企業から見て交渉しやすい相手として見られやすいということでもあります。面接の場で「多少年収が下がってもリモートを優先したいです」と早い段階で伝えてしまうと、企業側にその情報を渡すことにもなりかねません。

私がこれまで担当してきた相談者のオファー内容を振り返ると、フルリモート求人での年収の下がり方には、次のようなおおまかな傾向があります。公的な統計ではなく、あくまで担当してきた案件の体感ベースの目安です。

状況年収への影響の目安(体感)
専門性の高い職種(インフラ、セキュリティ、特定言語の上級者など)ほぼ変わらない、条件次第では上がることもある
一般的なWeb・アプリエンジニア職5〜15%程度のダウンで着地することが多い
未経験に近いポジション、応募が集中しやすい職種20%以上のダウンで提示されることもある

この表からも分かるとおり、下がり幅は職種の専門性・希少性によって大きく変わります。買い手市場化の影響を受けやすいのは、代替が利きやすいポジションほどという点は、覚えておいて損はありません。

ポイント: 面接で年収の希望を伝える際は、「リモートを優先するので年収は妥協します」ではなく、まず自分のスキルの市場価値を先に提示し、その上で勤務形態の希望を伝える順番にすると、企業側に交渉の主導権を渡しすぎずに済みます。

年収を落とさずにリモート可求人へ転職する方法

3つの構造を理解した上で、それでも年収を落とさずにフルリモートの求人へ転職する方法がないわけではありません。実際に、年収を維持したまま、あるいは上げてフルリモートへ移った相談者もいます。

30代半ばのSREの方は、前職の年収650万円から、フルリモート可の求人に転職して年収700万円のオファーを得ました。この方の場合、クラウドインフラの設計・運用という専門性が高く、応募が集中しやすい一般的なWebエンジニア職とは違い、代わりの利きにくいスキルセットを持っていたことが交渉力に直結していました。

専門職ではない場合でも、条件の出し方次第で年収を守れたケースがあります。30代前半のUI/UXデザイナーの方は、完全在宅ではなく「月2回の出社は可能」という条件を面接の早い段階から自分から提示していました。企業側からは「フルリモート希望の候補者が多い中、出社の柔軟性を持ってもらえるのはありがたい」という反応があり、最終的に前職とほぼ同水準の年収でオファーを受けています。フルリモートにこだわりすぎず、譲れる部分をあらかじめ用意しておくことが、交渉の余地を残す一つの方法です。

このケースからも分かるように、年収を落とさずに転職するための考え方は、次のようにまとめられます。

年収を落とさずにリモート可求人へ転職するためのポイント

  • 需要が逼迫している専門職種(インフラ・セキュリティ・特定言語の上級者など)であれば、買い手市場化の影響を受けにくい
  • フルリモート限定ではなく「リモート主体・月1〜2回出社」のハイブリッド条件を選択肢に入れると、企業側も譲歩しやすくなる
  • 面接・オファー面談で「給与テーブルは勤務地によって変わるのか、全国一律か」を早い段階で確認する
  • 現年収に地域手当や通勤・住宅手当が含まれているかどうかを整理し、含まれている場合はその分を交渉材料として明示する
  • 自分のスキルの市場価値を先に提示し、その後に勤務形態の希望を伝える順番を意識する

特に2点目の「ハイブリッド条件」は、出社回帰の流れが進む中で、企業側にとっても受け入れやすい落としどころになりやすいと感じています。フルリモートを完全に諦める必要はありませんが、「月に1〜2回の出社なら可能です」という一言があるだけで、企業側の警戒が和らぐケースを何度も見てきました。

また、IT・Web業界に特化した転職エージェントであれば、企業ごとの給与テーブルがフルリモート化に伴ってどう変化したかという内部事情を把握していることがあります。求人票の年収レンジだけでは分からない、勤務地に応じた運用の違いまで確認できるのは、業界特化型のエージェントを介した転職活動ならではの利点だと感じています。

まとめ、年収が下がるかどうかは「地域の壁」がどう扱われるかで決まる

リモートワーク可の求人で年収が下がりやすいのは、応募者の質が下がったからでも、リモートワークという働き方そのものに問題があるからでもありません。全国から応募が集まることによる買い手市場化、地域に紐づいていた給与テーブルの見直し、対面を前提にした評価文化という3つの構造が重なった結果です。

この構造は、必ず年収が下がるということを意味するわけではありません。専門性の高いスキルを持つ人や、ハイブリッドという選択肢を交渉材料にできる人にとっては、影響は限定的です。むしろ大切なのは、この構造を知らないまま「なんとなく下がってしまった」と受け止めるか、事前に織り込んだ上で交渉に臨むかの違いです。

フルリモートの求人に応募する際は、年収の数字だけを見るのではなく、その企業の給与テーブルがどの地域を基準に設計されているかを、面接の早い段階で確認してみてください。この一問を挟めるかどうかで、内定後に感じるギャップの大きさは大きく変わってくるはずです。