不合格通知を受け取るたびに、Nさんは転職活動の進捗を管理する自作のスプレッドシートに、赤字で日付を書き足していました。4回目の赤字を書き込んだとき、「不合格理由」の列に並んだ言葉には、ある共通点がありました。
私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、SIerでプロジェクトマネージャー(PM)を務めてきた方が自社開発企業のプロダクトマネージャー(PdM)選考に挑み、書類は通るのに二次選考で足止めされ続けるという相談を、ここ数年で何度も受けています。今回は、Nさんが4社連続で評価されなかった理由と、進行管理の実績を意思決定の実績として語り直すまでの具体的なやり取りをお伝えします。
今回は、次の内容に沿ってご紹介します。
- SIerのプロジェクトマネージャーが自社開発PdM選考で繰り返し評価されない構造的な理由
- 実際のケース面接でNさんが答えたNG回答と、面接官からのフィードバック
- 進行管理の実績を意思決定の実績に語り直す、具体的なBefore/Afterのフレーズ
- 語り直した後にNさんが4社目のケース面接で何を答えたか、その後の結果
目次
SIerのプロジェクトマネージャーが自社開発PdM選考で評価されない、Nさんの相談
相談者のNさん(39歳)は、独立系SIerで通信キャリア向けの基幹システム開発を中心に、14年ほどキャリアを積んできました。前半はSE・実装担当、後半の6年はプロジェクトマネージャーとして、要件定義から本番リリースまでの進行管理を任される立場でした。担当プロジェクトの規模は大きいもので予算数億円、メンバー20名を超える体制を率いた経験もあります。
転職を考え始めたきっかけは、「大規模プロジェクトの管理はもう十分にやってきた。次は自分たちのプロダクトが何を作るべきかを決める側に回りたい」という気持ちだったといいます。応募したのは、HR領域・業務効率化領域のSaaSを展開する自社開発企業のPdMポジション、合計7社。書類選考は6社通過という、経歴だけを見ればかなり良い出だしでした。
ところが、二次選考にあたる「ケース面接」——架空のプロダクト課題を提示し、その場で優先順位づけをさせる形式の面接——で、Nさんは4社連続して不合格を言い渡されます。1社だけ届いたフィードバックには、「進行管理の経験は十分伝わったが、意思決定の経験がどこにあるのか最後まで分からなかった」と書かれていました。
技術力でも、プロジェクトの規模でも見劣りしていたわけではありません。 Nさんが持ち込んでいたスキルセットは、むしろ多くのPdM候補者より豊富だったはずです。それなのに、なぜ選考のかなり早い段階で足止めされ続けたのか。私はNさんと一緒に、4社分の面接でのやり取りを一つずつ振り返ることにしました。
なぜ「進行管理の実績」がPdM選考でそのまま評価にならないのか
PM(プロジェクトマネージャー)とPdM(プロダクトマネージャー)は、名前こそ似ていますが見ている責任の範囲がまるで違います。PMの仕事は、決められた要件・決められた納期に対して、どうやって計画通りに進めるかという進行の最適化です。一方PdMの仕事は、そもそも何を作るべきか、どの機能に開発リソースを割り振るべきかという中身の意思決定そのものを担います。
この違いは、プロダクトマネージャーの年収相場を見ていても浮かび上がってきます。PdMの前職構成にはPjM・コンサル出身者も一定数いますが、企業側が実際に高い年収を積むのは、決定の主体が自分にあったと具体的に語れる候補者です。進行管理の巧拙だけでは、企業が知りたい「意思決定を任せられるか」という問いへの答えにはなりません。
Nさんの場合、面接で語っていたエピソードのほとんどが、「与えられた要件をどう捌いたか」という進行管理の枠組みに収まっていました。要件定義の遅延に対してどう挽回したか、ステークホルダー間の対立をどう調整したか——どれも大規模プロジェクトを率いてきた人ならではの説得力ある話でしたが、「何を作るか」を自分で決めた場面がひとつも出てこなかったのです。
面接官の側から見ると、これは判断材料に困る状況です。進行管理力は高そうだが、事業や機能について自分の意思で判断した実績が見えない候補者を、意思決定そのものを担うPdMのポジションに通すのは難しいというのが、私が同席してきた面接での率直な感触です。
自社開発企業がここまで意思決定の経験にこだわる理由
なぜ自社開発企業は、ここまで「意思決定の主体は誰だったか」にこだわるのか。理由は、判断を誤ったときに発生する損失の種類がPMとPdMでまったく違うからです。
PMの進行管理がうまくいかない場合、起きるのは主にスケジュールの遅延やコストの超過です。痛手ではありますが、後から人員を追加する、納期を再調整するといった形で、ある程度は取り返しがつきます。実際、Nさんが経験してきた大規模プロジェクトでも、遅延そのものは何度か起きていたはずです。
一方でPdMが優先順位を誤ると、限られた開発リソースを使って作った機能がユーザーに使われず、その間に競合が同じ市場を先に取ってしまうということが起こります。作り直しには数ヶ月単位の時間がかかり、その間の機会損失は事後に取り返せません。間に合わせることより間違えないことの比重が圧倒的に高いのが、PdMという役割の特殊さです。
だからこそ面接官は、候補者が意思決定の場面でどんな基準を使い、どんな根拠で判断したのかを執拗に掘り下げます。プロセスの巧拙ではなく、判断そのものの再現性を確認したいからです。Nさんの初期の回答が「ヒアリングして合意を取る」という手続きの説明に終始していたのは、この再現性を示す材料として弱かったということになります。
ケース面接で実際にあったNG回答、4社連続で落ちた理由
1社目のケース面接で、面接官はNさんにこう尋ねました。「今期対応すべき機能要望が10件ある想定で、開発リソースの都合で3つしか着手できないとしたら、どう選びますか」。Nさんはこう答えています。
「まず各部署の担当者にヒアリングを行い、要望の頻度と緊急度を一覧にまとめます。そのうえで優先順位表を作成し、関係者間で合意を取りながら進めます」
面接官からの評価コメントには、「手順は分かるが、最終的にあなた自身がどの基準で3つを選んだのかが見えなかった」と残っていました。Nさんの回答は優先順位の決め方のプロセスを説明しているだけで、誰が何を根拠に決めたのかという肝心な部分が抜け落ちていたのです。
2社目でも似た構造の質問が出ました。「顧客からの追加要望と、エンジニアが主張する実装コストがぶつかったとき、あなたならどうしますか」という質問に対し、Nさんは「双方の意見を丁寧にヒアリングし、折り合いのつくスコープに調整します」と回答しています。これもまた対立の調整プロセスを説明する回答であり、対立をどんな基準で自分が裁定したのかには触れていませんでした。
3社目に至ってはNさん自身もこの傾向にうっすら気づき始めていたそうですが、「スケジュール通りにリリースするため、優先度の低い機能を次期に見送るようスコープを調整しました」という言い方から抜け出せず、結局また同じ理由で見送られています。「スケジュール通りに進める」という進行管理の目的が先に立ち、何を優先すべきかという判断の中身が後景に退いてしまう、これがNさんの回答に共通していた癖でした。
進行管理の実績を意思決定の実績に語り直す、Before/Afterのつくり方
4社目の選考に進む前に、私がNさんとまず取り組んだのは、これまで「進行管理の成功エピソード」として語っていた経験の中から、実は自分が意思決定していた瞬間を掘り起こす作業でした。Nさんの過去のプロジェクトを一つずつ棚卸ししていくと、意外なところに材料が見つかりました。
通信キャリア向けの基幹システム更改プロジェクトで、開発予算が期中に1割ほど削減されたことがあったそうです。Nさんはこのとき、課金計算バッチの改修と、利用状況を可視化するレポート機能の改修という二つのタスクのうち、レポート機能の着手を次のフェーズに先送りする決定をしていました。本人はこれを「予算内に収めるためのスケジュール調整」としか捉えていませんでしたが、実際には課金停止時の損失額を試算した上で影響の大きい方を優先させるという判断を自分で下し、クライアント側の決裁者にその根拠を説明して了承を取り付けていたのです。
もう一つ見つかったのは、要件定義の段階で顧客から出た追加要望への対応です。Nさんは当時、要望のうち契約解約につながりかねない項目だけを残し、それ以外は運用でカバーできると判断して実装対象から外すことを、自らクライアントに提案していました。この判断も、Nさんの記憶の中では「要望を調整した」という一言で片付けられていました。
三つ目に見つかったのは、リリース直前に発覚した遅延への対処です。結合テストの工程で想定外の不具合が続き、このままでは本番リリース日に間に合わない状況に陥ったことがあったそうです。Nさんはそのとき、負荷テストの一部を本番後の追加検証に回す代わりに機能テストと結合テストを優先させるという線引きを、自分の一存でリリースマネージャーに提案し了承を得ていました。当時は「テスト工程を並行化してスケジュールを調整した」と説明していましたが、これも実際にはどのリスクを先に潰すかという優先順位を自分で決めていた場面でした。
こうして見つかった経験を、実際に次のような言い方に組み替えました。
| 場面 | Before(進行管理の言い方) | After(意思決定の言い方) |
|---|---|---|
| 予算削減時のスコープ調整 | 「予算内に収めるため、優先度の低い機能の着手を次フェーズに調整した」 | 「課金停止時の損失額を試算し、影響額の大きい機能を優先させる代わりに、レポート機能のリリースを自分の判断で先送りした」 |
| 顧客要望とコストの対立 | 「双方の意見をヒアリングし、折り合いのつくスコープに調整した」 | 「契約解約リスクに直結する要望だけを残し、それ以外は運用でカバーできると判断して実装対象から外すことを自分から提案した」 |
| リリース遅延の挽回 | 「遅延を取り戻すため、テスト工程を並行化してスケジュールを調整した」 | 「品質を落とさず間に合わせるには何を削るしかないと判断し、負荷テストの一部を本番後の追検証に回すことを自分の責任で決めた」 |
ポイント: Before/Afterの違いは、事実そのものを変えることではありません。「調整した」「対応した」という結果の言葉から、何を根拠に自分がどう判断したかという主語を取り戻すだけです。Nさんが実際にやっていたことは、書き換える前から意思決定そのものでした。
ただし、この作業には一つ落とし穴があります。Nさんのような語り直しを他の候補者にも勧めると、実際には自分の裁量で決めていない場面まで「自分が決めた」と誇張してしまう人が一定数出てくるのです。以前担当した別のPM出身候補者は、上司が最終判断した工程変更を「自分の提案で決めた」と語ってしまっていました。
面接官から「その判断について、上司や他部署から反対意見は出ませんでしたか、出たとしたらどう乗り越えましたか」と重ねて聞かれた途端、その候補者は答えに詰まってしまいました。語り直しはあくまで、根拠を自分で示して判断していた場面を掘り起こす作業であり、事実を盛る作業ではありません。この線引きを誤ると、かえって「話を大きくする人」という印象を与えてしまいます。
4社目のケース面接で何を変えたか、Nさんのその後
4社目の選考に進む前、私とNさんは想定問答を4回ほど繰り返しました。最初のうちはまだ「まずヒアリングして」という言葉が口をついて出ていましたが、繰り返すうちに、判断の根拠から話し始める型が自然と身についていきました。
本番のケース面接で、面接官から「開発リソースが限られる中で、今期どの機能を優先しますか」と聞かれたNさんは、まず自分なりの優先順位の基準(事業へのインパクトの大きさ、対応しない場合のリスクの大きさ)を先に提示したうえで、先述の課金バッチの事例を根拠として添えて説明しました。面接官はその場でメモを取りながら、「その判断の場面、もう少し詳しく聞かせてください」と食いついてきたといいます。
面接後にNさんから届いた連絡には、「今までの面接では『よく分かりました』で終わっていた質問に、初めて突っ込んだ追加質問が来ました」と書かれていました。結果として、Nさんはこの4社目から内定を得ています。提示年収は668万円で、現職の650万円からは18万円の上乗せにとどまりましたが、Nさんにとっては金額よりも「初めて意思決定の経験として評価された」という事実の方が大きかったようです。
入社から2ヶ月ほど経った頃に近況を聞くと、「PMの感覚で細かくスケジュールを管理しようとしてしまい、最初は開発チームから『マイクロマネジメントに感じる』と指摘されました」と正直に振り返っていました。ただ、何を作るかを自分で決める場面が増えるにつれて、その感覚も薄れてきているとのことです。
後日、内定先の採用担当者に選考の内幕を聞く機会がありました。「正直、書類だけ見たときはPMの経験しかない方だと思っていました」と前置きした上で、「面接で予算削減の話を聞いたとき、この人は決められたことをこなす人じゃなく、限られたリソースの中で自分で線引きをしてきた人だと分かりました。そこが決め手でした」と話してくれました。この一言は、Nさんが4社続けて落ちていた理由を、採用側の視点からそのまま裏付けるものだったと思います。
SIerのPMがPdM選考で「決めた経験」を見つける具体的な方法
まだ転職活動を始めていない、あるいはこれから準備するというSIerのPMの方には、Nさんのケースを踏まえて次の視点で自分のプロジェクトを棚卸ししてみることを勧めています。
「決めた経験」を掘り起こすときに確認したい視点です。
- 予算・人員・納期のいずれかが制約された場面で、何かを諦める判断をしたことはないか
- 顧客の要望とエンジニアの意見が割れたとき、最終的にどちらを採用するかを決めたのは誰か
- その判断の根拠になった数字や基準を、今でも具体的に説明できるか
- その判断を、上司や顧客にどう説明して了承を取ったか
これらの視点で振り返ると、SIerのPMという立場でも、実は意思決定の場面に何度も立ち会っていることに気づく方が少なくありません。役職としての決裁権があったかどうかではなく、実質的に自分が判断の起点になっていたかどうかが、面接官が確認したいポイントだからです。
見つけた「決めた経験」は、話す順番によっても伝わり方が変わります。Nさんが4社目で実践していたのは、結論となる判断基準を先に言い切ってから、根拠となるエピソードを添えるという順番でした。「まずヒアリングして」と経緯から話し始めると、聞き手は結論が見えないまま最後まで聞かされる格好になり、途中で退屈な尋問のように感じてしまいます。逆に「事業へのインパクトとリスクの大きさを基準に判断しています」と先に言い切ってから具体例を添えると、面接官はその基準の妥当性だけを確認すればよくなります。経験の中身を変えるのではなく、同じ経験をどの順番で話すかを変えるだけでも、伝わり方はかなり変わります。
なお、SIerからの転身自体は難易度が高いと言われがちですが、私が見てきた実感では、書類選考の通過率自体はさほど低くありません。Nさんも7社中6社で書類を通過しています。壁になるのは書類ではなく、ケース面接や事業理解を問う面接の段階で、進行管理の語り口から抜け出せるかどうかです。準備すべき対象を「経歴」ではなく「語り口」だと捉え直すだけで、通過率は大きく変わります。
PjM出身・コンサル出身の方に共通して言えることですが、「進行管理もPdMの仕事の一部だから、経験は自然に活きるはず」という前提のまま面接に臨むと、進行管理の話しかできず評価が中途半端になりがちです。むしろ「進行管理の経験は前提として持っている。その中で自分が何を決めてきたか」を別立てで語る意識を持つ方が、面接官には伝わりやすくなります。
要件のスコープをどこまで削るか、ベンダーや外注先の選定をどう決めたか、テストの網羅度と納期のどちらを優先するか——SIerのPMという立場でも、探してみると「決めた場面」は思いのほか多く見つかります。Nさんも最初は「自分にはPdMらしい経験がない」と話していましたが、棚卸しを進めるうちに、決めた場面自体は探すまでもなく複数出てきて、むしろ「それをどう言葉にするか」だけが課題だったと気づいています。
よくある質問に答えます
Q. PjMとPdMの経験は、職務経歴書に両方書いてもいいのでしょうか。 書いて構いません。ただし同じ紙面で両方を並列に扱うと、企業側はどちらの軸で評価すればいいか分からなくなります。応募先の求人が今求めている軸(進行管理力か意思決定力か)を見極め、比重をはっきり傾けて書くことをお勧めします。
Q. ケース面接は、一人でどう準備すればいいのでしょうか。 架空の優先順位づけのお題を自分で3つほど用意し、判断の基準から声に出して話す練習をするだけでもかなり変わります。友人や家族に「なぜその基準にしたのか」だけを繰り返し聞き返してもらうと、Nさんが最初の3社で陥っていたような、手順の説明で終わってしまう癖に自分で気づきやすくなります。
Q. SIerからPdMへの転職は、他の職種より難易度が高いのでしょうか。 書類選考の通過率で見る限り、極端に難しいわけではないというのが私の実感です。実際に苦戦するのは書類を通過したあとのケース面接や事業理解を問う面接で、進行管理の語り口から意思決定の語り口に切り替えられるかどうかの部分です。
Q. 未経験からPdMになることは可能でしょうか。 不可能ではありませんが、直近の経歴のどこかに「自分が意思決定の主体だった」と具体的に語れる場面が最低一つ必要です。今の職場でも、上長の指示を待たずに選択肢を複数用意し、自分の推奨案とその理由を先に提示するところから、その実績は作れます。
Q. SIerからPdMになると年収は下がりますか。 下がる場合も上がる場合もあり、Nさんのように語り方を変えるだけで数十万円単位の差がつくこともあります。エンジニア出身・ビジネス職出身での評価軸の違いも含めて、プロダクトマネージャーの年収相場で詳しく解説しています。
まとめ、進行管理と意思決定は別の筋肉として鍛える
SIerのプロジェクトマネージャーが自社開発企業のPdM選考で評価されないのは、経験の量や質が足りないからではありません。Nさんが証明しているのは、意思決定の経験がなかったのではなく、意思決定の経験を進行管理の言葉で説明してしまっていたという、語り方の問題だったということです。
進行管理力と意思決定力は、似ているようでいて別の筋肉です。SIerのPMとして鍛えてきた進行管理力は、PdMになった後も確実に役立ちますが、選考の場でまず見せるべきは、何を根拠に自分が何を選んだかという一点に尽きます。もしSIerのPMからPdMへの転身を考えているなら、まずは自分のプロジェクトの中に埋もれている「決めた瞬間」を、Nさんのように一つずつ掘り起こすことから始めてみてください。




