「試用期間中なら、会社はいつでも切れるのでは」「試用期間のうちに辞めたら、経歴に傷がつくのでは」——転職したてのエンジニアの方から、この真逆の不安を同じ週に聞くことがあります。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わってきましたが、試用期間は「なんとなく不利な期間」という漠然としたイメージのまま入社し、実際に何が起きうるのかを知らないまま悩む方が少なくありません。今回は、制度として確認できる範囲と、私が現場で見聞きした範囲を分けながら、エンジニアが試用期間で押さえておきたい点をお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 試用期間の法的な性質と、本採用拒否が「通常の解雇より広く、ただし無制限ではない」と言われる理由
  • 14日・30日という数字の意味と、給与・社会保険が試用期間中にどう扱われるか
  • SES・客先常駐では、試用期間と現場アサインが別々の軸で動くこと
  • 辞めたくなったときの実務と、入社前に確認しておきたい項目
目次
  1. エンジニアの試用期間とは何か、本採用拒否と退職の前提になる考え方
  2. 試用期間中の解雇と本採用拒否、14日と30日という数字
  3. エンジニアの試用期間で本採用拒否の理由として挙がりやすいもの
  4. 面談で「期待に届いていない」と言われたDさんの場合
  5. 試用期間中の給与は下がる?社会保険や最低賃金の考え方
  6. SES・客先常駐の試用期間は「現場アサイン」と別軸で動く
  7. 試用期間中に辞めたくなったとき、退職の実務
  8. 試用期間で辞めたあとの転職活動と、エージェントへの伝え方
  9. 入社前に確認しておきたいこと、試用期間のトラブルを予防する視点
  10. よくある質問
  11. まとめ

エンジニアの試用期間とは何か、本採用拒否と退職の前提になる考え方

試用期間は、入社後に会社が本人の適性や能力を見極めるための期間です。ここで誤解されやすいのですが、試用期間中も労働契約はすでに成立しています。「お試しで置いてもらっている」状態ではなく、すでに雇われている状態です。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、試用期間は適性判断のために解約権を留めた労働契約として扱われる、と整理されています。通常の解雇より会社側の判断の幅は広く認められますが、解約権を行使できるのは客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限られます。適性を判断するのに必要な期間を超える長期の試用期間は、無効とされうるという裁判例も紹介されています(出典:確かめよう労働条件「試用期間」裁判例)。

つまり、試用期間中は「いつでも自由に切れる」わけではありません。一方で、「本採用されて当然」でもない。通常の解雇よりは会社側の裁量が広いが、理由なく切れるわけではないというのが、制度上の立ち位置です。

ここまでが制度の話です。次の節からは、エンジニアの現場で実際に問題になりやすい場面に置き換えていきます。

試用期間中の解雇と本採用拒否、14日と30日という数字

本採用拒否は、試用期間の終了時点で本採用をしないと会社が決めることを指します。実質的には解雇の一種として扱われるため、解雇に関するルールが関係してきます。

厚生労働省のQ&Aによると、解雇は原則として30日前までの予告か、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です。試用期間中の者については、14日を超えて引き続き使用された場合に、この予告等の手続きが必要になります。予告が30日に足りない場合は、その不足日数分の手当を支払う仕組みで、たとえば10日前の予告なら20日分の手当が必要になる、という例が示されています(出典:確かめよう労働条件「解雇」Q&A)。

この14日は、入社から14日が過ぎれば安心という意味ではありません。14日を超えて使用されたら、通常の解雇と同じように予告や手当の手続きが必要になる、という意味です。

ポイント: 「試用期間だから」という理由だけで、予告も手当もなく即日で終了とされた場合は、入社後14日を超えているかどうかが一つの確認点になります。個別の判断は、労働局の総合労働相談コーナーなどに確認してください。

なお、予告や手当の手続きを踏んだかどうかと、解雇そのものに合理的な理由があるかどうかは別の話です。手続きだけ整っていても、理由が客観的に合理的でなければ、その解雇は有効とは限りません。

エンジニアの試用期間で本採用拒否の理由として挙がりやすいもの

制度の枠組みは職種を問わず同じですが、本採用拒否や延長の理由として挙がる場面には、エンジニアらしい偏りがあります。私が相談を受けてきた範囲では、次のような場面が目立ちます。

本採用に関わる面談で、話題になりやすい場面

  • 立ち上がりが遅い(開発環境の構築、既存コードの把握に時間がかかる)
  • 面接で聞いていたスキルと、入社後に見えるスキルの水準が違うという指摘
  • チーム内でのコミュニケーション、特に質問や報告の頻度・タイミング
  • 配属先の技術スタックが、面接で想定していたものと違う

ここで大事なのは、これらの理由の中には本人の能力ではなく受け入れ側の事情に起因するものが混ざっていることです。環境構築の手順書がない、レビューする人がいない、タスクが割り振られない。そうした状態で「立ち上がりが遅い」と評価されるケースは、実際にあります。

この点は、入社直後に放置されたケースを扱った配属後3週間タスクゼロで放置されたときの動き方でも詳しく書きました。放置されたという事実を残しておかないと、あとで「能力不足」という評価だけが記録に残ってしまいます。

面談で「期待に届いていない」と言われたDさんの場合

Dさん(40歳・経験16年、データベースエンジニア)は、独立系SESから、物流系の事業会社のデータ基盤チームに転職しました。入社後47日目の金曜、人事から入った会議招待のタイトルは「面談」の二文字だけでした。

席につくと、上司と人事から「期待していた水準に、まだ届いていない」と告げられ、試用期間を延長したい旨の提案がありました。Dさんは動揺したまま、その場で「承知しました」と答えかけたそうです。

私に連絡が入ったのはその夜です。話を聞くと、延長の期間も、何をもって水準に届いたとするかも、口頭で語られていませんでした。そこで私がお伝えしたのは、延長に応じるかどうかを決める前に、期間と評価の基準を書面で確認することでした。

翌週、Dさんは人事に「延長の期間と、本採用の判断で見られる項目を文書でいただけますか」とメールで依頼しました。返ってきた書面には、延長は1か月、確認項目は3つと書かれていました。項目が明確になったことで、Dさんは何を詰めればよいかが分かり、本採用に至りました。

Dさんのケースで私が伝えたかったのは、結果ではなく順番です。口頭の一言に反射的に答えず、書面を求める。それだけで、受け身だった立場が少し変わります。ただし、会社によっては書面を出さない、基準が曖昧なまま、ということもあります。その場合は、その曖昧さ自体が次の判断材料になります。

試用期間中の給与は下がる?社会保険や最低賃金の考え方

試用期間中の待遇については、「給与が本採用後より低い」と書かれている求人があります。この点で押さえておきたいのは、金額の水準よりも、求人票や労働条件通知書にどう書かれているかです。

給与が試用期間中だけ別の金額である場合、その金額と期間が書面に明記されているかを確認します。厚生労働省の採用時の労働条件明示のQ&Aでは、賃金や労働時間などの事項を書面で明示する必要があるとされていますが、試用期間そのものの記載が義務かどうかまでは、このQ&Aからは断定できません。だからこそ、書かれていない場合は入社前に聞いておくのが安全です。

社会保険については、日本年金機構が「試用期間中でも報酬が支払われる場合は、使用関係が認められる」としています(出典:日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。つまり、試用期間中だから社会保険に入らない、という扱いが当然に認められるわけではありません。

最低賃金には「試の使用期間中の者」を対象とした減額の特例がありますが、これは労働局長の許可が必要な制度です。会社が一方的に決められるものではないため、試用期間中の給与が極端に低いと感じたら、最低賃金を下回っていないかどうかも、労働局などに確認できます。

入社前・入社直後に書面で確認しておきたいこと

  • 試用期間の有無と期間、延長の可能性
  • 試用期間中と本採用後で、給与・手当・賞与の扱いが違うか
  • 本採用の判断基準と、判断する人(上司・人事)
  • 固定残業代の有無と、含まれる時間数(固定残業代の見方はこちら)

有給休暇の付与や失業手当の受給要件、履歴書への書き方といった点は、会社の就業規則やハローワークの案内によって扱いが決まります。ここでは断定せず、就業規則とハローワークで確認してください、とだけ書いておきます。

SES・客先常駐の試用期間は「現場アサイン」と別軸で動く

ここからは、エンジニア特有の話です。SESや客先常駐の会社に転職した場合、試用期間と現場のアサイン・契約更新は、別々の軸で動いています。

試用期間は、所属している会社との間の話です。一方、客先の現場に入る契約は、会社と客先との間の話になります。たとえば入社後2か月で現場が決まらず待機が続けば、試用期間の評価は「戦力化できていない」という見え方になりがちですが、これは本人の力量というより、案件の巡り合わせです。

反対に、試用期間中に客先の現場へ入った場合、客先側の契約更新のタイミングと、自社の本採用の判断が重なることがあります。契約更新のタイミングが退職や賞与にどう影響するかは、契約更新月と賞与支給日の関係を整理した記事で書きました。

私が見てきた範囲では、SESで「試用期間中は現場が決まりにくい」と感じている方ほど、どの現場に入るかについて希望が確認されていないケースが多いです。入社前に、現場アサインの決め方と、試用期間中に配属されうる現場の種類を営業や人事に聞いておく方が、入社後の食い違いを減らせます。

試用期間中に辞めたくなったとき、退職の実務

入社してみたら求人票と違った、配属が聞いていた話と違った、という相談は、試用期間中によくあります。このとき、最初に確認したいのは「辞めるかどうか」ではなく、何が、どの書面と違うのかです。

求人票、内定時の労働条件通知書、面接で聞いた内容。この3つと現状を並べて、食い違いを書き出します。たとえば「フルスタックと聞いていたのに、フロントエンドの改修しか回ってこない」という状況では、業務の内訳を記録して上司に提案する、という対処で転職せずに済んだ例もあります(フルスタック求人で配属が偏ったときの記録の取り方で詳しく書いています)。

それでも辞める、と決めた場合の制度上の原則は、期間の定めのない契約なら、申入れから2週間で終了する(民法627条)、というものです。ただし、就業規則で期間を大幅に延ばす規定を置いても、そのような規定は無効とされた裁判例(高野メリヤス事件)があります(出典:厚生労働省「退職、解雇、雇止めなど」)。

とはいえ、2週間ぎりぎりで辞めるのが望ましいとは、私は考えていません。引き継ぎの量、チームへの影響、そして次の転職先への説明のしやすさを考えると、就業規則に書かれた期間を目安に、早めに上司へ伝えて調整する方が、結果的に揉めにくいです。

なお、解雇された場合は、その理由を退職証明書で請求できる(労働基準法22条)とされています。理由が曖昧なまま辞めることになったら、書面で残しておくことが、あとで説明するときの助けになります。

試用期間で辞めたあとの転職活動と、エージェントへの伝え方

試用期間中や、その直後に辞めた経歴は、次の選考で説明が必要になります。ここで避けたいのは、前の会社への不満を述べるだけで終わることです。

次の面接では、何が想定と違ったのか、それを入社前にどう確認すべきだったか、次の会社選びでは何を基準にするのか、という順に、事実と学びに分けて話します。「合わなかった」の一言ではなく、どの条件がどう違ったのかを具体的に言えると、同じ失敗をしないという納得感につながります。

エージェントに伝えるときも同じです。私たち側からすると、短期離職の理由が曖昧なままだと、応募先に推薦するときの説明ができません。具体的には次のような情報があると、お手伝いしやすくなります。

エージェントに相談するときに用意しておくとよい情報

  • 入社時の労働条件通知書と求人票(食い違いの箇所に印を付けたもの)
  • 入社から現在までに起きたことの時系列メモ
  • 会社に相談した事実と、返ってきた反応
  • 次の会社に求める条件の優先順位

入社後の期間が短いことを気にされる方は多いですが、期間の長さそのものより、その経緯を整理して語れるかどうかの方が、選考では見られます。これは、私が支援してきた範囲での実感です。

また、すでに内定承諾後で次の会社に移る場面では、現職の退職の進め方も気をつけたいところです。働きながら転職する際の壁については、在職中の転職活動で詰まりやすい3つの壁でも整理しています。

入社前に確認しておきたいこと、試用期間のトラブルを予防する視点

ここまで読むと、試用期間のトラブルの多くは、入社前の確認不足から始まっていることが分かります。内定が出た段階で、次の点を確認しておくと、入社後の不安をかなり減らせます。

内定が出た段階で確認しておきたい項目

  • 試用期間の長さと、延長の条件
  • 試用期間中の給与と待遇の違い
  • 本採用の判断で見られる項目と、判断者
  • 配属先、担当する技術、立ち上がりの支援体制(オンボーディング)
  • 労働条件通知書に、上記が書かれているか

質問しにくいと感じる方もいますが、聞くこと自体が評価を下げるリスクは、私の見てきた範囲では小さいです。むしろ、入社後に期待値がずれて双方が困る方が、会社にとっても損失です。聞き方としては、「入社後に最短で戦力になりたいので」と目的を添えると、角が立ちません。

リモート前提の会社では、オンボーディングが雑になりやすい面もあります。立ち上がりの支援体制を具体的に聞いたとき、答えが曖昧な会社は、入社後に放置されるリスクも見ておいた方がよい、というのが私の見方です。

よくある質問

試用期間中はいつでも解雇されますか。 いつでも自由に解雇できるわけではありません。試用期間は解約権を留保した労働契約と整理され、通常の解雇より広く認められるものの、客観的に合理的で社会通念上相当な場合に限られます。14日を超えて使用された場合は、通常の解雇と同じく予告または手当の手続きも必要です。

試用期間中に辞めたい場合、何日前に伝えればよいですか。 期間の定めのない契約では、民法上、申入れから2週間で終了するのが原則です。実務では就業規則に退職の申出期限が書かれていることが多いので、まず就業規則を確認し、引き継ぎを含めて上司に早めに伝えるのが現実的です。

試用期間中は社会保険に入れないのですか。 試用期間中だからという理由だけで、入れないとは限りません。日本年金機構は、試用期間中でも報酬が支払われる場合は使用関係が認められるとしています。具体的な加入の扱いは、会社や年金事務所で確認してください。

試用期間を延長されました。応じるべきですか。 延長の期間と、本採用の判断基準を書面で確認するのが先です。適性判断に必要な期間を超える長い試用期間は無効とされうる、という裁判例もあります。判断に迷う場合は、労働局の総合労働相談コーナーなどに相談できます。

まとめ

試用期間は「いつでも切られる期間」でも「辞めると必ず傷になる期間」でもありません。すでに雇用契約が成立していて、通常の解雇より裁量は広いが、無制限ではない期間です。そして実際の現場では、本人の能力より、受け入れ側の体制や、SESであれば現場アサインの巡り合わせが、評価に影響することがあります。

私がこの記事で一番お伝えしたかったのは、試用期間の不安の多くは、書面で確認すれば小さくできるということです。期間、待遇、判断基準、配属。入社前にも、入社後に面談を告げられたときにも、口頭で受けずに書面で確認する。それだけで、受け身だった立場は変わります。

なお、本記事は制度の一般的な整理であり、個別の事案についての法的な助言ではありません。具体的な判断が必要な場合は、お近くの労働局の総合労働相談コーナーなど、公的な窓口にご相談ください。