「面接、来週水曜の14時でお願いできますか」——この一文への返信に、有給申請の画面と上司の顔が同時に浮かんだ経験がある方は多いはずです。

私はキャリアアドバイザーとして800名以上の在職中の転職を支援してきましたが、応募書類の中身よりも先に相談者を悩ませるのは、実はこの日程調整と、その先にある退職の切り出し方、有給消化・引き継ぎの交渉であることがほとんどです。今回は、在職中の転職活動で最初にぶつかりやすい3つの壁を、実際にあったやり取りを交えてお伝えします。

この記事で分かること

  • 面接日程の候補出し方、有給・半休の使い分けとオンライン面接の打診の仕方
  • 上司に退職を切り出す際の適切な曜日・時間帯と、絶対に避けたいタイミング
  • 民法627条の「2週間ルール」と就業規則、優先されるのはどちらか
  • 有給消化の交渉力が「退職日確定後」に上がる仕組み
  • 引き継ぎ期間の目安と、有給を使い切れないまま辞める人が実際どのくらいいるか
  • 退職日と最終出社日の違い、有給消化中に転職先で先に働き始めてよいか
目次
  1. 在職中の転職活動、有給消化と引き継ぎのタイミングでつまずく理由
  2. 壁1、面接日程の調整で有給を使い切らないために
  3. 半休・有給休暇の使い方
  4. 有給の残日数を先に可視化しておく
  5. オンライン面接を打診してみる
  6. 候補日はまとめて提示する
  7. 候補日が重なってしまったときの対処
  8. エージェント経由で日程調整を代行してもらう
  9. 壁2、上司への退職の切り出しタイミング
  10. 曜日・時間帯の選び方
  11. 誰に、どの順番で伝えるか
  12. 口頭で伝えた後に退職届を出す
  13. 民法627条と就業規則、優先されるのはどちらか
  14. 壁3、有給消化と引き継ぎ期間の交渉
  15. 最終出社日と退職日の違い
  16. 引き継ぎ期間の目安
  17. 有給消化の交渉力は「退職日確定後」に上がる
  18. 有給消化を渋られたら、買取という選択肢もある
  19. 有給消化中に呼び出されないための線引き
  20. 有給消化中に転職先で働き始めていいか
  21. それでも有給を消化しきれない人が多いという現実
  22. まとめ、3つの壁は順番を意識すれば越えられる

在職中の転職活動、有給消化と引き継ぎのタイミングでつまずく理由

転職活動そのものは、応募して面接を受けて内定をもらう、という流れだけを見れば単純です。ところが在職中となると話は別で、今の仕事の予定表と折り合いをつけながら進めなければならない分、想定外の場面でつまずく人が驚くほど多くいます。

相談に来る方の多くは、書類選考が通り始めた最初の2〜3週間で、面接対策よりも先に「有給がいつなくなるか分からなくて怖い」と私に相談してきます。転職活動そのものへの不安より、今の会社との折り合いへの不安の方が、実際には先に表面化するのです。

私がこれまで見てきた限り、在職中の転職活動でつまずくポイントは、驚くほど似た3つの場所に集中しています。

壁典型的なつまずき方基本の考え方
面接日程の調整序盤で有給を使い切り、後半の面接で予定が組めなくなるオンライン打診と候補日のまとめ出しで有給消費を抑える
退職の切り出し金曜夕方や繁忙期に思いつきで切り出し、話がこじれる曜日・時間帯を選び、アポを取って個室で伝える
有給消化と引き継ぎ引き継ぎを理由に有給消化を後回しにされる退職日確定後に交渉力が上がる仕組みを理解して臨む

この3つは独立した問題ではなく、順番につながっています。面接日程で有給を使いすぎると、退職を切り出すタイミングが遅れ、結果として有給消化と引き継ぎの交渉に使える時間まで削られる、という連鎖が起きるからです。ここからは、それぞれの壁を順番に見ていきます。

壁1、面接日程の調整で有給を使い切らないために

在職中の転職活動で最初にぶつかるのが、この面接日程の壁です。序盤の書類選考の段階では余裕があっても、複数社から同時期に面接の打診が来ると、途端にスケジュールが厳しくなります。

実際に相談を受けたAさん(30代前半・IT業界のエンジニア)は、転職活動を始めて最初の3週間で、応募していた5社のうち4社から立て続けに一次面接の連絡を受けました。すべて平日の日中指定だったため、丸1日の有給を4回使い、残りの有給が数日というところまで来てから、私に「このペースで最終面接まで残っているか不安です」と相談してきました。

半休・有給休暇の使い方

面接1回のために丸1日の有給を使うのは、実はもったいないケースがほとんどです。移動時間を含めても半休で足りる面接は多く、午前半休なら午後出社、午後半休なら午前出社という形にすれば、有給の消費ペースを大きく抑えられます。

私が候補者に勧めているのは、面接が入るたびに「丸1日休むか、半休で済ませられないか」を毎回検討する習慣です。有給の残日数は、面接の回数分だけ確実に減っていくという感覚を早い段階から持っておくと、後半で慌てずに済みます。

有給の残日数を先に可視化しておく

Aさんに限らず、転職活動を始めた時点で自分の有給残日数を正確に把握していない相談者は意外と多くいます。私はまず、面談の最初に「今、有給は何日残っていますか」と聞くようにしていますが、即答できる方は半分もいません。

有給の残日数が分かったら、面接用・消化用・予備の3つに配分しておくことをお勧めしています。ざっくりでいいので、まず数字で区切ってしまうのがコツです。たとえば残り16日であれば、面接用に4日、退職確定後の消化用に10日、急な用事に備えた予備を2日、というような割り振りです。Aさんもこの配分を面談の中で一緒に組み直したことで、「あと何日使えるか」を毎回数えながら消耗する状態から抜け出せています。この配分表を作った時点で不安の大部分が解消された、と本人も話していました。

オンライン面接を打診してみる

一次面接をオンラインで実施している企業は増えています。求人票や面接案内に明記がなくても、こちらから「差し支えなければオンラインでご対応いただくことは可能でしょうか」と一言添えるだけで、対応してもらえるケースは珍しくありません。

Aさんの場合も、5社目の企業に対してこの一言を添えたところ、一次面接はオンライン、二次面接以降のみ対面という対応を取ってもらえました。断られても失うものはないので、対面指定の企業にも一度は聞いてみる価値があります。

候補日はまとめて提示する

日程調整のやり取りが何往復も発生すると、それだけで有給消化のペースが乱れます。避けたいのは「来週なら何日でも大丈夫です」というような曖昧な返信です。これでは企業側も日程を組みにくく、結局こちらが希望する日に寄せられてしまいがちです。

  • 2週間先までの候補日を、平日・土日を問わず4〜5枠まとめて提示する
  • 半休で対応できる時間帯(午前・午後)も候補に含めておく
  • オンライン対応の可否を、候補日提示と同時に確認する
  • 複数社が並行している場合は、候補日が重ならないよう自分のカレンダーで先に調整しておく

カレンダーと候補日の1つが強調された様子に、時計と半休を表す半円の影を添えて面接日程調整を表した装飾イラスト

候補日が重なってしまったときの対処

複数社が並行していると、候補日を出し合った結果、2社の面接が同じ週の同じ曜日に集中してしまうことがあります。Aさんも6社目・7社目から届いた候補日が、どちらも同じ火曜午前に偏ってしまい、一方を断らざるを得ない場面がありました。

このとき、正直に「他社の選考と重なってしまい」と伝える必要はありません。「あいにく別件の予定と重なってしまい、恐れ入りますが他の候補日はございますでしょうか」と伝えれば十分です。Aさんが実際にこの文面で7社目に再調整を依頼したところ、翌週の候補日を3つ追加で提示してもらえ、結果的に両社とも辞退することなく面接に進めています。日程が重なること自体は珍しくないので、変に隠そうとせず、早めに再調整を依頼する方がスムーズです。

エージェント経由で日程調整を代行してもらう

意外と知られていませんが、面接日程の調整はエージェントに任せられます。私自身、担当している方の候補日をまとめて聞き取り、複数社への日程調整をすべて代行することが日常的にあります。候補者本人が企業の採用担当と直接やり取りする必要がなくなるため、有給の使い方を含めたスケジュール全体を、こちらで俯瞰しながら組み立てられるのが利点です。

Aさんのケースでも、6社目以降の日程調整は私がすべて引き受け、有給消化のペースを考慮しながら「この週は半休2回まで」という形で候補日を絞り込みました。結果的に、最終面接まで進んだ企業の面接すべてに、有給を使い切ることなく対応できています。エージェントを使わない場合でも、候補日をまとめて出すという発想だけは、ぜひ真似してみてください。

壁2、上司への退職の切り出しタイミング

内定が近づいてくると、次に立ちはだかるのが「いつ、どう切り出すか」という壁です。ここでのタイミングの選び方一つで、その後の引き継ぎや有給消化の交渉のしやすさが大きく変わります。

曜日・時間帯の選び方

私が一貫して勧めているのは、月曜か火曜の午前中、事前にアポを取った上で個室で伝えるという形です。週明けの早い時間帯は、上司自身もまだ1週間分の業務に追われておらず、比較的冷静に話を聞ける状態にあります。

逆に絶対に避けたいのが、金曜の夕方に思いつきで話しかけるパターンです。以前担当したBさん(20代後半・営業職)は、金曜17時過ぎ、上司が帰り支度を始めたタイミングを見計らって「実は転職を決めまして」と切り出しました。上司は動揺したまま週末を挟むことになり、月曜に改めて呼び出されたときには「週末ずっと考えていたが、正直納得できていない」と、話が一段こじれた状態からのスタートになってしまったそうです。

一方、同じ時期に相談していたCさん(30代前半・製造業)は、火曜の朝一番でアポを取り、会議室で「来月末での退職を考えています」と切り出しました。上司はその場で驚きつつも、「分かった、まず人事に確認してから改めて話そう」と冷静に受け止め、翌日には引き継ぎの相談に進めています。同じ内容を伝えているのに、曜日と時間帯、そしてアポを取ったかどうかだけで、その後の展開がここまで変わるのかと、私自身も改めて実感した一件でした。

繁忙期を避けるという点も見落とされがちです。決算期や大型案件のリリース直前に切り出すと、「今じゃなくてもいいだろう」という反発を招きやすく、結果的に引き継ぎ期間の交渉でも譲歩を引き出しにくくなります。可能であれば、繁忙期の谷間を狙って切り出すのが得策です。

誰に、どの順番で伝えるか

タイミングと同じくらい大切なのが、伝える相手の順番です。直属の上司より先に、同僚や他部署の知り合いに転職の話をしてしまうと、本人の耳に入る前に噂として広まってしまうことがあります。

Cさんの職場でも、上司への報告が翌日に控えていた段階で、たまたま同僚が「異動の話でも出てるの」と探りを入れてきたことがありました。実際には別件で人事から声をかけられていただけだったそうですが、Cさんは一瞬ヒヤリとしたと話していました。伝える順番は、直属の上司、その後に上司から部署内へ共有、という流れを崩さないのが基本です。同僚に個人的な信頼関係があっても、退職の意向だけは自分から先に漏らさない方が無難です。

口頭で伝えた後に退職届を出す

順番でもう一つ迷いやすいのが、退職届をいつ出すかというタイミングです。私が勧めているのは、まず口頭で意向を伝えて上司の反応を確かめ、合意ができてから正式な退職届を提出する流れです。

最初から退職届を手に持って切り出すと、話し合いの余地がないという印象を与えてしまい、上司によってはかえって態度を硬化させることがあります。Cさんも、口頭で伝えた翌日に上司から「退職日はいつ付けでまとめる?」と相談を受けてから退職届を用意しており、この順番だったからこそ、引き継ぎ期間の希望も落ち着いて伝えられたと振り返っていました。口頭でのやり取りの内容は、後から食い違いが起きないよう、自分でも簡単にメモを残しておくと安心です。

民法627条と就業規則、優先されるのはどちらか

「法律上は2週間前に伝えれば辞められると聞いたのですが」という質問もよく受けます。これは事実で、民法627条では、期間の定めのない雇用契約は、退職の申し入れから2週間が経過すれば終了すると定められています(マネーフォワード クラウド契約「民法627条とは?」)。

ただし、この2週間という数字を根拠に、就業規則の「退職の1〜2ヶ月前までに申し出ること」というルールを無視してよいかというと、実務上はそう単純にはいきません。法律上の権利としては2週間で退職が成立しますが、就業規則を無視した急な退職は、引き継ぎが不十分なまま職場を離れることになりやすく、有給消化の交渉でも心証を悪くしかねません。

注意点: 民法上は2週間で退職できますが、就業規則の1〜2ヶ月ルールを頭ごなしに無視すると、円満退職が難しくなり、有給消化や引き継ぎの交渉にも悪影響が出ることがあります。「法律上はこうだから」を最初の交渉カードにするのではなく、あくまで最終手段として知っておく、という位置づけがちょうどいいです。

実際、就業規則より早い退職を強行しようとして、有給消化をほぼ諦める形で退職したDさん(40代前半・製造業)のようなケースも見てきました。Dさんの会社は退職の2ヶ月前申告がルールでしたが、転職先の入社日に間に合わせるため、申告から1ヶ月弱での退職を押し通しました。結果、引き継ぎに追われる中で有給を消化する時間的な余裕がなく、20日近く残っていた有給のうち消化できたのは数日だけだったそうです。法律上は問題のない退職でしたが、Dさん自身「もう少し早く動いていれば、有給を使い切る余地はあったはず」と振り返っていました。

壁3、有給消化と引き継ぎ期間の交渉

退職の意向を伝えた後、最後に立ちはだかるのがこの壁です。ここでの交渉次第で、残った有給を使い切れるかどうかが大きく変わります。

最終出社日と退職日の違い

交渉の話に入る前に、この2つの言葉を整理しておきます。退職日は労働契約が正式に終了する日で、社会保険・雇用保険の資格喪失に直接関わります。一方の最終出社日は、文字通り実際に出社する最後の日です。たとえば最終出社日が9月5日、退職日が9月30日というケースなら、9月8日から30日までは有給消化に充てる期間になり、その間は形式上まだ在籍中という扱いになります(TSUMIKI社会保険労務士事務所「退職日と最終出勤日の違いとは?」)。

この区別を曖昧にしたまま退職の話を進めると、上司や人事との間で「いつまで出社してもらうのか」の認識がずれやすくなります。切り出しの段階から、最終出社日と退職日を分けて考える癖をつけておくと、次の引き継ぎ期間の交渉もスムーズです。

引き継ぎ期間の目安

引き継ぎにかかる期間は、職種や役割によって幅がありますが、目安としてはおおむね1ヶ月と考えておくと現実的です。担当業務がシンプルな若手の一般職であれば2週間程度で済むこともありますし、逆にチームのマネジメントや複数プロジェクトを抱えるポジションでは、1ヶ月半から2ヶ月かかることも珍しくありません。

自分の役割がどのくらいの引き継ぎ期間を要するか、退職を切り出す前に一度棚卸ししておくと、上司との交渉でも「引き継ぎ資料はすでに8割方まとめてあります、残り2週間あれば十分です」というように、具体的な根拠を持って話せます。逆算して準備しておいた人ほど、有給消化に使える期間を長く確保できる傾向があります。

有給消化の交渉力は「退職日確定後」に上がる

ここが最も誤解されやすいポイントです。労働基準法39条5項では、会社は事業の正常な運営を妨げる場合に限り、有給休暇の時季を変更できる「時季変更権」を持っています(咲くやこの花法律事務所「有給休暇の時季変更権とは?」)。ただしこの権利は、あくまで「別の時季に変更できること」が前提です。退職日が確定し、その後に働ける日がもう残っていない状態になると、会社は有給を別の日に振り替えようがなくなるため、事実上この時季変更権を行使できなくなります。

つまり、退職日を先に確定させてしまうことが、有給消化を実現するための一番の交渉材料になります。私が候補者に勧めているのは、「有給を消化させてください」と漠然と申し出るのではなく、まず最終出社日と退職日を書面やメールで確定させ、その上で「残りの有給〇日分は、退職日までの期間で消化させてください」と具体的に伝える順番です。

Eさん(30代前半・IT業界のプロジェクトマネージャー)は、この順番を意識して交渉した一人です。退職を伝える際、「引き継ぎには3週間見ておけば十分です、退職日は1ヶ月半後の8月末でお願いします」と、引き継ぎ期間と退職日をセットで提示しました。上司との合意後、退職日が確定した時点で「引き継ぎ完了後の最後の2週間は、残っている有給18日のうち10日分を充てさせてください」と改めて申し出たところ、大きな反発もなく了承されています。退職日を先に固定していたことで、会社側にも「別の日に動かす」という選択肢自体が残っていなかったのが大きかったと、私は見ています。

一方で、交渉がうまくいかなかった例もあります。Fさん(20代後半・小売業の店舗マネージャー)は、後任の育成が間に合わず、退職日確定後も「せめて研修だけは」と上司から頼まれ、有給消化予定だった期間のうち数日を出社に振り替えました。時季変更権が使えない場面であっても、実際には人手不足を理由に情に訴えられると、強く拒否しづらいのが現場の実情です。Fさんは「権利として拒否できたと思うが、最後まで揉めたくなかった」と、10日残っていた有給のうち7日分の消化にとどめて退職しています。制度上できることと、実際に気持ちよく使い切れるかどうかは、必ずしも一致しません。

  • 引き継ぎに必要な期間を先に棚卸しし、根拠を持って退職日を提示する
  • 退職日・最終出社日は口頭ではなく書面やメールで確定させる
  • 退職日確定後に、残っている有給の消化日程を具体的に申し出る
  • 年5日の取得義務が果たされていない場合は、それ自体が会社側の対応不備になる

退職日確定のチェックマークが付いた書類から、有給消化の進み具合を表す3本のバーへとつながる様子を表した装飾イラスト

年5日の有給取得義務化も、覚えておいて損はありません。2019年4月から、年10日以上の有給が付与される労働者に対しては、会社側が時季を指定してでも年5日は取得させなければならないと法律で定められています(厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」)。この5日分すら消化できていない状態が続いていたのであれば、それは本来、会社側の管理不備です。退職時の交渉で「今までまとまった有給を取れていなかった分もあるので」と付け加える材料としても使えます。

有給消化を渋られたら、買取という選択肢もある

引き継ぎがどうしても間に合わず、退職日までに有給を消化しきれないという場面も現実にはあります。有給休暇の買い取りは、労働者に休む権利そのものを放棄させることにつながるため原則として禁止されていますが、退職によって消化しきれずに権利が消滅してしまう分に限っては、会社が任意で買い取ることが例外的に認められています。

これは会社に義務があるわけではなく、あくまで会社側の裁量による対応です。ただ、引き継ぎの都合でどうしても出社が必要な日がある場合、「その分は買い取っていただくことは可能でしょうか」と相談してみる余地はあります。断られる可能性ももちろんありますが、有給を丸ごと切り捨てる前に、一度確認してみる価値はある選択肢です。

有給消化中に呼び出されないための線引き

退職日と最終出社日を分けて、最後の数日〜数週間を有給消化に充てる場合、消化期間に入ってから「分からないことがあるので電話してもいいか」と会社から連絡が来ることがあります。ちょっとした確認程度なら応じてもいいと思う方も多いのですが、これが積み重なると、実質的に働いているのと変わらない状態になりかねません。

Eさんの場合、有給消化に入る前に「緊急時のみ、平日日中に1回15分までの範囲で対応します」と自分から線引きを伝えておいたそうです。実際に連絡が来たのは消化期間中に1回だけで、事前に基準を伝えておいたことで、会社側も無闇に連絡してこなかったと話していました。引き継ぎ資料を丁寧に作り込んでおくことが、結果的にこの呼び出しを減らす一番の対策にもなります。

有給消化中に転職先で働き始めていいか

有給消化に入ると、早く新しい職場に慣れたくて「前倒しで働き始めたい」と考える方もいますが、これはお勧めしていません。有給消化中も現職に在籍している扱いのままなので、転職先で先に働き始めると、雇用保険の二重加入という法律で禁止されている状態になりかねず、就業規則の兼業禁止規定に触れる可能性もあります(マネーフォワード クラウド給与「退職前の有給消化中に転職先の仕事を始めても大丈夫?」)。

社会保険の資格喪失日は、原則として退職日の翌日です。たとえば3月31日が退職日であれば、資格喪失日は4月1日になります(社会保険労務士法人ステディ「社会保険の資格喪失日とは?」)。つまり入社日は退職日の翌日以降に設定するのが基本で、事情があって前倒ししたい場合は、自己判断で動く前に現職の人事に相談し、手続きを調整してもらう必要があります。

それでも有給を消化しきれない人が多いという現実

ここまで交渉の仕方を紹介してきましたが、実際には有給を完全に消化しきれないまま退職する人の方が多いというのが現実です。マイナビ転職の記事では、退職時に有給を全消化できた人はわずか0.97%というデータが紹介されています(マイナビ転職「退職時の有給消化をスムーズにするには」)。1%に満たないというこの数字を最初に見たとき、私自身、想像していたより厳しい現実だと感じました。

裏を返せば、有給消化を交渉ではなく「言い出しにくい空気」で諦めている人が大半だということです。実際、私が担当したケースでも、有給消化について何も交渉せず、慣例的に数日だけ消化して退職した方は少なくありません。理由を聞くと「なんとなく言いにくかった」という答えが多く、明確に拒否されたから諦めたという人はむしろ少数派でした。退職日を先に確定させ、具体的な日数と期間を書面ベースで提示するだけでも、この0.97%側から抜け出せる可能性は十分にあります。

まとめ、3つの壁は順番を意識すれば越えられる

在職中の転職活動でつまずきやすい3つの壁、面接日程の調整、退職を切り出すタイミング、有給消化と引き継ぎの交渉は、それぞれ別々の問題ではありません。前の壁の越え方が次の壁の難易度を左右するという関係にあります。面接段階で有給を使いすぎれば、退職を切り出す時期は後ろにずれ、結果として有給消化と引き継ぎに使える時間まで削られてしまいます。

面接はオンライン打診と候補日のまとめ出しで有給消費を抑え、退職の切り出しは月曜・火曜の午前にアポを取って個室で伝え、そして退職日を先に確定させてから有給消化を具体的に交渉する。この順番さえ押さえておけば、有給を1%未満の側に諦める必要はなくなります。

一人で全部を調整しようとすると、どうしても目の前の面接日程に気を取られ、退職の切り出し方や有給消化の交渉まで頭が回らなくなりがちです。日程調整だけでもエージェントに任せてしまえば、そのぶんの労力を、上司への切り出し方や引き継ぎの準備といった、自分にしかできない部分に振り向けられます。まずは今抱えている面接の候補日を、有給を使いすぎない形で組み直すところから始めてみてください。