「面談では『基本リモートです』と言われたのに、届いた労働条件通知書の就業場所には本社の住所しか書かれていない。これは聞き間違いだったのか、それとも書き忘れなのか」——内定後にこういう相談を受けることがあります。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わってきましたが、内定後のトラブルの多くは、面談で聞いた条件と書面の記載が食い違っていたのに、承諾書に署名するまで誰も気づかなかったことから始まっています。今回は、労働条件通知書とは何かを整理したうえで、エンジニア職で特に差が出るリモート勤務、就業場所の変更の範囲、オンコール、固定残業の記載をどう読み、どう会社に確認するかをお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 労働条件通知書・求人票・雇用契約書は何が違うのか、いつ誰から受け取るものか
  • 「リモート可」が通知書のどこに、どんな書き方で現れるのか(事実上の運用と契約上の条件の違い)
  • 「就業場所の変更の範囲」が広い書き方のとき、何が起こり得るのか
  • 通知書に載りにくいオンコール・待機を、書面で確認する聞き方
  • 面談で聞いた条件が通知書にないときの修正依頼の文例
目次
  1. 労働条件通知書とは何か、求人票・雇用契約書との違い
  2. いつ、どんな形で受け取るのか
  3. リモート勤務は通知書のどこに書かれているか
  4. 「自宅」か「会社の定める場所」か
  5. 就業場所の変更の範囲を読む
  6. オンコール・待機は通知書で見落としやすい
  7. 固定残業代の記載をどう確認するか
  8. 面談で聞いた条件が通知書にないとき
  9. 受け取ってから承諾するまでにやること
  10. よくある質問
  11. まとめ

労働条件通知書とは何か、求人票・雇用契約書との違い

労働条件通知書は、会社が労働者を雇い入れるときに、賃金や労働時間などの労働条件を書面で明示するための文書です。労働基準法で、会社には労働契約を結ぶときに主な労働条件を明示する義務があり、そのうち賃金や労働時間など一部の事項は書面で渡さなければならないと定められています。

入社を決める側から見ると、通知書は「この条件で働いてもらいます」という会社側の最終的な申し出にあたります。求人票が募集のときの案内であるのに対し、通知書はあなた個人に宛てた条件の書面です。

似た書類との違いは、次の表で整理できます。

書類出る時期誰に向けたものか位置づけ
求人票募集・応募の段階不特定多数の応募者募集時点の案内。職種や幅を持たせた書き方が多い
労働条件通知書内定〜入社前後あなた個人会社が示す個別の労働条件の明示
雇用契約書入社前後会社とあなたの双方双方が署名・押印して合意する書面

会社によっては、通知書と雇用契約書を一枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」を出すところもあります。呼び名より、署名する前に条件が確定した書面が手元にあるかどうかを見てください。

私の感覚では、求人票は「幅を持たせて書く」ものです。年収レンジが400万〜650万円と書かれていたり、勤務地が「東京都ほか」だったりします。通知書でその幅が一点に絞られて、はじめてあなたの条件が決まります。だから通知書の内容は、求人票を読み直す気持ちで、一行ずつ照らし合わせる価値があります。

いつ、どんな形で受け取るのか

受け取る時期は会社によってまちまちです。内定通知と同時にPDFで届く会社もあれば、内定承諾書と引き換えに出す会社、入社日当日に渡す会社もあります。入社日当日では、条件が違っていても、すでに現職を退職したあとで、戻る場所がありません。

そのため私は、候補者に「内定承諾の返事をする前に、労働条件通知書(または条件がすべて書かれたオファーレター)を見せてもらえますか」と人事に頼むよう勧めています。内定承諾書だけを先に出す会社は珍しくありませんが、「通知書の内容を確認してから承諾したい」という依頼は、通常の確認として受け止められることがほとんどです。

書面での交付は紙が基本でしたが、労働者が希望した場合は電子メールなどでの交付も認められています。実際、IT系の企業ではPDFをメールやオファー管理ツールで受け取る形が主流です。印刷して、気になる箇所に線を引ける状態にしておくと、あとの見落としが減ります。

リモート勤務は通知書のどこに書かれているか

ここからがエンジニア職の本題です。リモートワークの条件は、求人票に「リモート可」「フルリモート」と一言あっても、通知書ではまったく違う形に変わることがあります。確認すべき箇所は「就業場所」の欄です。

厚生労働省のテレワーク関連のページでは、通知書でテレワークの有無を確認できるとされ、就労の開始時からテレワークを行わせる場合には、自宅やサテライトオフィスなどの実施場所を就業場所として明示する必要があると説明されています(出典:厚生労働省「テレワークの労働条件明示」)。つまり、入社時点からリモートが前提の契約なら、就業場所に自宅などが入っているのが筋です。

入社後にリモートを認める予定の場合も、同ページでは、可能な場所をあらかじめ明示することが望ましいとされています。逆に言えば、通知書の就業場所が本社だけのとき、そのリモート勤務は契約上の条件ではなく、会社の運用に乗っているだけの可能性があります。

「自宅」か「会社の定める場所」か

通知書で見かける就業場所の書き方は、大きく3種類に分かれます。

  • 「本社(東京都〇〇区…)」のように、出社先の住所だけが書かれている
  • 「本社、および会社の定める場所」のように、出社先に加えて会社が決めた場所を含めている
  • 「自宅(届出住所)、本社、その他会社が許可する場所」のように、自宅が明記されている

3つ目だけが、リモートが契約書面に乗っている状態です。1つ目は、リモートが現場の運用にとどまっている可能性が高い書き方で、会社が出社を求めたとき、書面だけでは拒む根拠を示しにくくなります。2つ目は、会社の指示で場所を決められる書き方なので、リモート前提でも出社や拠点の指定が入る余地が残ります。

ここで相談者の例をお話しします。

Mさん(29歳・経験6年のフロントエンドエンジニア、受託開発会社から自社開発SaaSのフルリモート求人へ転職)は、あるとき私に、人事へ送る前のメールの下書きを見せてくれました。件名は「就業場所の記載についての確認」。面談では「フルリモート前提です」と聞いていたのに、通知書の就業場所は「本社(東京都〇〇区)、および会社の定める場所」。自宅は書かれていませんでした。

Mさんは地方在住で、出社が週1回でも続くと生活が成り立たない状況でした。下書きは「書き間違いではありませんか」と詰問のような調子になっていたので、私はそこを直しました。言い方を変えて、「面談で伺った勤務形態を、通知書にも反映いただけますか」という依頼の形にしたのです。

人事の回答は、通知書の様式が全社共通の雛形で、リモートの条件は別の「テレワーク勤務規程」に定めているというものでした。そこで、通知書の就業場所に「自宅を含む」と一文を加えてもらうのは雛形の都合で難しいが、規程を添付し、出社の頻度は「原則として月1回程度、業務上の必要がある場合を除く」とメールで書面回答する、という落としどころになりました。通知書の文言自体は変わりませんでしたが、Mさんは規程とメールを手元に残したうえで承諾しています。

この例で大事なのは、通知書の記載が変わらなくても、リモートの条件がどの書面に定められているかを特定できたことです。通知書に書かれていないこと自体が問題とは限りません。ただ、どの書面にも書かれていない状態で入社するのは避けたほうがよいと、私は考えています。

就業場所の変更の範囲を読む

2024年4月の労働条件明示のルール改正で、すべての労働者に対して、就業場所・業務の「変更の範囲」を明示することが求められるようになりました。これは契約を結ぶときと、有期契約であれば更新のときにも明示が必要です。変更の範囲とは、将来の配置転換などで変わり得る就業場所や業務の範囲のことです(出典:厚生労働省「労働基準法関係の改正」)。

ここでは制度の細部には入らず、通知書での読み方に絞ります。ルールの趣旨は、入社時に決まっている就業場所だけでなく、会社が将来どこまで動かせるのかを事前に示すことにあります。

エンジニアの通知書で確認したいのは、次の2点です。

  • 就業場所の変更の範囲が「会社の定める場所」のように、限定のない書き方になっていないか
  • 業務の変更の範囲が「会社の定める業務」だけで、職種(開発職、SRE職など)が絞られていないか

記載の仕方は会社ごとにまちまちで、すべての通知書で同じ文言になるわけではありません。ただ、私が見てきた範囲では、範囲を広く書く会社のほうが多い印象です。会社としては、将来の組織変更や拠点の統廃合に備えて、余白を残しておきたいからです。

ポイント: リモート前提で入社しても、変更の範囲が「会社の定める場所」と広く書かれていれば、書面上は出社や拠点変更を命じる余地が残ります。これは悪意の有無とは別の話で、あなたの側で運用の実態を確認しておくべき箇所です。

読んだうえで、広い書き方だった場合に私が勧めるのは、削除を求めるのではなく、運用の実態を面談で聞くことです。「過去3年で、リモート前提の入社者に出社や転勤を命じたことはありますか」「出社の頻度を変える場合、本人の同意を取る運用ですか」。この2問への答えは、書面よりも会社の本音を映します。

なお、厚生労働省は、契約時に予定していなかったテレワークで、契約や就業規則に定める勤務場所の範囲を超えて行わせる場合には、本人の合意を得た契約の変更が必要としています(前掲のページ)。出社への変更を打診された場合の個別の扱いは事情で変わりますが、まず本人との合意が出発点になる、という理解でよいと私は考えています。リモートから出社への変更を打診されたときの判断は、別の記事で詳しく書いていますので、そちらも参考にしてください(フルリモート入社後に出社方針が変わったときの判断)。

オンコール・待機は通知書で見落としやすい

リモートや就業場所に比べて、さらに書面から抜けやすいのがオンコール(夜間・休日の呼び出し対応)や待機の扱いです。通知書の標準的な項目には「オンコール」の欄がありません。

オンコールがあるチームでは、その情報は始業・終業時刻や休日、賃金の「手当」の欄に断片的に現れます。たとえば「オンコール手当:1回あたり〇〇円」と手当欄に書かれているか、「その他、シフトによる」とだけ書かれていることもあります。あるいは、まったく触れられておらず、入社後に当番表が渡されて初めて分かるケースもあります。

私の担当した範囲では、オンコールの有無を面談で聞いても、「ほとんど呼び出しはありません」と答える会社は少なくありません。その言葉自体が嘘というより、「ほとんど」の基準が人によって違うのです。私が知る限り、書面に残るのは「ある」か「ない」かという事実だけで、頻度や負担は書面では分からないことが多いです。

額面と拘束のバランスがいかに変わるかは、別の記事でオファー3社の実質時給を計算して書いています(SREの年収、オンコール手当込みの実質時給)。ここでは、通知書の段階で確認したい項目を整理します。

オンコール・待機について、書面で確認したいこと

  • 当番の有無と、あなたが入るチームでの頻度(月に何回・何日間か)
  • 呼び出し時の対応時間に、手当とは別に時間外賃金が出るのか
  • 待機の手当が、固定残業代や職務手当に含まれていないか
  • 当番明けの勤務や休日の扱い(代休、休日出勤扱いなど)
  • オンコール手当の金額が、通知書または賃金規程のどこに書かれているか

待機の時間が労働時間に当たるかどうかは、拘束の程度など個別の事情で判断が変わるため、この記事で一律には述べません。私が候補者にお伝えするのは、制度の判断より前の段階です。会社が待機や呼び出しをどう扱う前提なのかを、入社前に文書で出してもらう。それだけで、入社後の食い違いの大半は防げます。

聞き方は難しくありません。「通知書にはオンコールの記載がないのですが、チームには当番がありますか。ある場合は、頻度と手当の扱いを書面でいただけますか」。この一文で足ります。手当の詳細が賃金規程にあるのなら、規程の該当ページを見せてもらえば十分です。

固定残業代の記載をどう確認するか

通知書の賃金欄には、固定残業代(みなし残業代)が含まれている場合、その旨が書かれているはずです。読み方の手順は別の記事で詳しく書いていますので、ここでは通知書で見落としたくない点だけ挙げます(固定残業代とは?エンジニア求人のみなし残業の見方と面談の質問)。

  • 固定残業代を除いた基本給の金額が、求人票の逆算と合っているか
  • 固定残業代が何時間分で、いくらなのかが分けて書かれているか
  • その時間を超えた分は追加で支払う、という記載があるか

求人票で見ていた「月給42万円」が、通知書では「基本給〇〇円+固定残業手当〇〇円」の内訳に分かれて出てくることがあります。足し算が合っているか、そのうえで固定残業の時間数と手当の額が、求人票の説明と一致しているかを見てください。一致しない場合は、書き間違いなのか、条件が変わったのかを人事に確認します。

オンコールとの関係では、「待機手当は固定残業代に含まれる」と読めるような書き方になっていないかも見ておきます。含まれる範囲があいまいなままだと、実際の呼び出し対応の時間が、固定残業の枠で相殺されているのかどうかが分かりません。

試用期間中だけ条件が違う、という会社もあります。その場合は、期間と金額が通知書に書かれているかを確認してください(試用期間とは?エンジニア転職の本採用拒否・給与・退職の見方)。

面談で聞いた条件が通知書にないとき

食い違いを見つけたとき、多くの人が一番迷うのは「内定をもらったあとに、何度も確認して心証が悪くならないか」という点です。私の経験では、条件の確認で内定が取り消された例は、ほとんど見たことがありません。むしろ、確認を避けて入社したあとに揉める例のほうをよく見ます。

修正を頼むときは、事実と希望を分けて、短く書きます。

修正依頼のメール文例(骨子)

  • 「内定のご連絡と通知書をありがとうございます。内容を確認し、数点ご相談があります」
  • 「面談の際、勤務形態はフルリモートが前提とお伺いしましたが、通知書の就業場所には本社のみが記載されています」
  • 「リモート勤務の条件が分かる書面(規程、または通知書への追記)をいただけますでしょうか」
  • 「承諾のお返事は、〇月〇日までにお伝えします」

ここで大切なのは、相手を責めず、書面で残る形で依頼することです。電話で「大丈夫ですよ」と言われても、後日その人が異動することも、記憶が食い違うこともあります。口頭の回答は、必ずメールで一度書き直してもらってください。

会社が通知書の書き換えに応じない場合の代替案は、先ほどのMさんの例のとおりです。規程の添付、メールでの書面回答、オファーレターへの追記のいずれかで、「どの書面にその条件が書かれているか」が示せれば、入社後に説明できます。

もし通知書に書かれた条件が、実際の勤務条件と違っていた場合には、労働基準法に、労働者の側から契約を解除できる定めがあります。ただ、それは入社してしまったあとの最後の手段で、現職を退職してから使うものではありません。入社前に確認すれば避けられるものは、避けておくのが一番です。

受け取ってから承諾するまでにやること

最後に、通知書を受け取ってから署名するまでの手順を整理します。

  1. 通知書を印刷し、求人票・面談メモと並べて、就業場所、業務、賃金、手当を一行ずつ照合する
  2. 食い違いや不明点を、箇条書きで一覧にする
  3. 修正が必要なものは書面(メール)で人事に依頼する。口頭だけにしない
  4. 回答が書面で届いたら、通知書とあわせて保管する
  5. 退職の意思表示は、条件が確定してから行う

5番目は、特に守ってほしい順番です。現職への退職の意思は、通知書の確認が済み、承諾の返事をしたあとに伝えるのが原則です。順番が逆になると、条件に疑問があっても、選択肢が一つに絞られてしまいます。

よくある質問

労働条件通知書と雇用契約書は、両方もらうものですか。 会社によって異なります。両方を別に出す会社もあれば、一枚にまとめている会社もあります。重要なのは、署名する前に、賃金や就業場所を含む条件が書かれた書面が手元にあることです。

内定の前に、労働条件通知書を出してもらえますか。 内定承諾の返事の前に、条件が書かれた書面を見せてほしいと頼むことは、通常の確認です。会社が通知書の発行は入社直前になると説明する場合でも、オファーレターなど、条件が書かれた書面の提示を頼んでみてください。

求人票と通知書の条件が違っていたら、どちらが優先されますか。 一概には言えません。求人票は募集時の案内で、通知書は個別の条件の明示です。ただ、違いを見つけたら優先順位を考える前に、まず人事に理由を確認し、書面で回答をもらうのが先です。

リモート可の求人なのに、入社後に出社を命じられることはありますか。 通知書の就業場所や変更の範囲の書き方によっては、ありえます。出社の頻度が運用の約束にとどまっているのか、書面にあるのかを入社前に確認してください。

通知書は電子データで受け取っても有効ですか。 労働者が希望した場合は、電子メールなどによる交付も認められています。受け取ったデータは、保存しておいてください。

まとめ

労働条件通知書は、内定後に届く事務書類ではなく、面談で聞いた話が書面に残っているかを確かめるための、最後の確認の機会です。エンジニア職では特に、リモート勤務、就業場所の変更の範囲、オンコールの扱い、固定残業代の内訳の4点が、口頭の説明と書面でずれやすいところです。

リモートが書面に書かれているかどうかより、その条件がどの書面に定められているかを特定できるかが、この記事で一番お伝えしたかったことです。通知書に書かれていなくても、規程やメールで残っていれば説明がつきます。どこにも残っていない条件で入社するのだけは、避けてください。

承諾の前に、通知書を手元に置いて一行ずつ照らし合わせる。この作業に30分かけておけば、入社後に「聞いていた話と違う」と悩む可能性はかなり減らせます。聞きづらい点は、エージェント経由で確認してもらうのも一つの方法です。