「一次面接なのに、面接官が代表取締役CTOでした」——社員10人前後のスタートアップに応募した候補者から、こう聞いて驚かれることがよくあります。
私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、数名規模のスタートアップでは一次面接からCTOが同席するケースが実際に半数近くを占めます。今回は、なぜ一次面接からCTOが出てくるのか、その構造上の理由と、技術力の再確認以外に見られている論点を、メガベンチャー・SIerとの評価軸の違いも交えてお伝えします。
今回は、次の内容に沿ってご紹介します。
- 数名規模のスタートアップで一次面接からCTOが出てくる構造上の理由
- メガベンチャー・SIerの一次面接と評価軸がどう違うか
- 技術力の再確認より重視される3つの論点と、実際に見送りになった相談例
- CTO面接でよく聞かれる質問と、逆質問でフェーズ理解を示す伝え方
目次
- スタートアップの一次面接にCTOが出てくる理由は「組織の人数」にある
- メガベンチャー・SIerの一次面接と、評価軸はどう違うのか
- 技術力の再確認より重視される3つの論点
- ① 幅広い役割を担う覚悟があるか
- ② 事業フェーズへの理解、なぜ今この会社なのか
- ③ 価値観・カルチャーとのマッチ
- 実際にあった相談例、Pさんが一次面接のCTOに見送られた理由
- CTO面接でよく聞かれる質問、回答の準備の仕方
- 逆質問でカルチャーフィット・フェーズ理解を示す
- CTO面接に向けて、職務経歴書・自己紹介はどう見せるか
- よくある疑問に答えます
- スタートアップ転職は「やめとけ」と言われることがありますが、本当ですか
- 一次面接から最終面接まで、何回くらい面接があるのですか
- 一次面接にCTOが出てこないスタートアップは、何か問題があるのでしょうか
- 一次面接がCTOではなく、他の創業メンバー(COOなど)だった場合も同じ考え方でいいですか
- まとめ、CTO面接は「技術試験」ではなく「共同創業者候補としての面接」
スタートアップの一次面接にCTOが出てくる理由は「組織の人数」にある
大企業の面接フローに慣れていると、一次面接は人事、二次面接は現場マネージャー、最終面接で初めて役員が出てくる、という段階構成を前提にしてしまいがちです。ところがスタートアップでは、この前提がそもそも成り立たないことが多くあります。
国内VCのCoral Capitalが紹介しているFred Wilson氏の経験則によると、プロダクトを組み立てている段階のスタートアップは5人以下、市場に受け入れられる感触(PMF)をつかむまでは10人以下、そこから収益が伸びていく成長期でも25人以下が一つの目安だとされています(出典:シード期のスタートアップ人事まとめ【前編】(Coral Capital))。この人数感を思い浮かべると、専任の人事担当や採用チームがまだ存在しないフェーズが長く続くことが分かります。
採用の意思決定者がそのまま面接官になるのは、このフェーズのスタートアップでは自然な成り行きです。エンジニア採用の合否を最終的に判断するのはCTOであることが多く、書類選考を通した候補者を人事フィルター経由で絞り込む余裕がないため、最初の面接から本人が出てきて直接見極めるという運用になります。
もう一つ見落とされがちなのが、意思決定のスピードです。人事・現場・役員の3段階で合意形成するメガベンチャーと違い、CTOが「この人と一緒に働きたいか」を一次面接の場で判断してしまえば、その日のうちに次のステップへ進めます。私が担当した案件でも、一次面接から2日後にはオファー面談の日程調整が来ていたケースがありました。評価の甘さではなく、判断の主体が最初から1人(または少人数)に集約されている構造がスピードを生んでいます。
応募する前に、面接官がCTO本人になる可能性をある程度予測することもできます。求人票や採用ページに載っている社員数の記載、Wantedlyの会社ページに並ぶメンバー一覧の人数、資金調達のニュースで公表されている調達ラウンド(シード〜シリーズA前後は特にこの傾向が強い)を見ておくと、面接の当日に驚かずに済みます。私が候補者にすすめているのは、募集ページで「エンジニア組織」の紹介を探し、そこに専任の採用担当らしき人物が出てこない場合は、一次面接からCTOまたは創業メンバーが出てくる前提で準備しておくことです。
メガベンチャー・SIerの一次面接と、評価軸はどう違うのか
同じ「一次面接」という名前でも、面接官の立場によって見ている軸はまったく違います。メガベンチャーの一次面接は現場のエンジニアリングマネージャーやテックリードが担当することが多く、担当領域の技術力とチームへのフィット感を確認する場として設計されています。SIerの一次面接はさらに手前で、人事担当者がコミュニケーション能力や勤怠の安定性を確認する足切りの色が強くなります。
スタートアップのCTO面接は、この両方の要素を1回で確認しなければならない立場にあります。技術力を見ながら、同時に「この人にチームの意思決定を任せられるか」「事業の方向性を理解して動けるか」まで一度に判断する必要があるからです。次の表に、私が現場で見てきた傾向を整理しました。
| 観点 | スタートアップCTO面接(一次) | メガベンチャー一次面接 | SIer一次面接 |
|---|---|---|---|
| 主な面接官 | 代表取締役CTO本人 | エンジニアリングマネージャー・テックリード | 人事担当者 |
| 重視される軸 | 技術力+事業フェーズ理解+役割の広さへの覚悟 | 担当領域の専門性とチームフィット | コミュニケーション・定着可能性 |
| 意思決定の速さ | 面接当日〜数日で次段階へ | 部門内の合議、1〜2週間 | 複数段階の合議、2〜3週間以上 |
| 技術の深掘り方 | 実装経験の裏どり+設計判断の理由 | 担当技術領域のピンポイントな深掘り | 経歴の整合性の確認が中心 |
選考スピードの違い自体は別の記事(スタートアップ→メガベンチャー転職、選考スピード差への対処法)で詳しく扱っているので、ここでは踏み込みません。この記事で押さえておきたいのは、スピードの差ではなく評価軸そのものが違うという点です。面接官のタイプによって評価の重心が変わる構造は、現場エンジニア面接官と人事・役員面接官の違いを扱ったこちらの記事とも共通しますが、スタートアップのCTO面接はその両方の役割を1人が兼ねているところに特殊性があります。
もっとも、社員が20〜30人に増えたシリーズB以降のスタートアップでは、人事担当者が一次面接の日程調整や一般的な適性確認を担いつつ、技術職に限っては最初からCTOが同席するという運用も珍しくありません。私が担当したある企業では「エンジニア採用だけは人事を通さず、CTOが直接会って決める」という方針を明言していました。組織が大きくなっても、技術者の採用可否だけはCTOの専決事項として残るケースがある、と考えておくとよいでしょう。
技術力の再確認より重視される3つの論点
一次面接でCTO本人が出てくる以上、当然ながら技術的な質問は飛んできます。ただし現場で相談を受けていて感じるのは、技術力の確認自体は前提であって、合否を分けているのはその先にある3つの論点だということです。
① 幅広い役割を担う覚悟があるか
数名規模の組織では「フロントエンドだけ」「バックエンドだけ」という分業が成立しません。CTOが聞きたいのは、担当領域の深さよりも、インフラ構築からカスタマーサポートへのエラー対応まで、必要になれば領域を越えて動けるかという柔軟さです。私が担当した候補者の中にも、「専門はサーバーサイドですが、必要ならフロントの修正もSlackの障害対応も拾います」と自分から言い切れた人ほど通過率が高い傾向がありました。
実際の面接では「入社後、開発以外にどんな業務を任されると思いますか」といった聞き方をされることもあります。ここで「開発に集中させてもらえると聞いています」と答えてしまうと、求人票の言葉を鵜呑みにしているだけに見えかねません。カスタマーサポートへの一次対応、採用面接の同席、時にはSNS運用の相談まで、開発以外の業務が発生しうることを織り込んだ上で、それでも入社したい理由を語れるかが分かれ目になります。
② 事業フェーズへの理解、なぜ今この会社なのか
シリーズA前後のスタートアップと、上場準備に入ったスタートアップでは、求められる働き方がまったく違います。前者はプロダクトの方向性そのものが数ヶ月単位で変わる可能性があり、後者は逆に内部統制や監査対応が増えてくる時期です。CTOは「うちが今どのフェーズにいて、これから何が大変になるかを理解した上で応募しているか」を、志望動機の解像度から判断しています。求人票の言葉をなぞっただけの志望動機は、この段階でほぼ見抜かれます。
③ 価値観・カルチャーとのマッチ
技術選定の議論一つとっても、スタートアップでは「正しいかどうか」より「今のリソースでスピード重視か、後々の保守性重視か」という価値判断が優先される場面が多くあります。CTOはこの判断軸が自分たちと大きくズレていないかを、失敗談や技術選定の理由を聞きながら確かめています。正解を答えることより、判断の理由をどれだけ言語化できるかが見られていると考えた方がいいでしょう。
前職で「本来はきれいに設計し直すべきだが、リリース優先度を考えて応急処置にとどめた」という経験がある人は、その判断が良かったか悪かったかを問われているのではなく、限られたリソースの中でどちらを優先したかという理由の部分を聞かれています。逆に「時間をかけてでも正しく作り直しました」という回答しか持っていないと、スピード重視の局面が多いスタートアップでは噛み合わない印象を与えることがあります。
実際にあった相談例、Pさんが一次面接のCTOに見送られた理由
一次面接の日程調整メールに添えられた面接官のプロフィールを見て、Pさんは思わず二度見しました。肩書きの欄に「代表取締役CTO」と書かれていたからです。当時32歳、メガベンチャーでフロントエンドエンジニアとして10年働き、担当領域の設計には人一倍こだわりを持っていました。応募先は社員8人のシード期スタートアップで、フロントエンドの立ち上げ担当という求人でした。
面接では技術的な質問への回答は好感触でした。ところが「フロントエンド以外に、今のフェーズだとどこまで手を出せそうですか」という質問に、Pさんは「専門はフロントなので、そこを集中してやりたいです」と答えてしまいました。悪気のない、むしろ専門性の高さを示したつもりの回答でしたが、結果は見送りでした。フィードバックには「役割を広げる意欲が見えなかった」と一言だけ書かれていました。
見送り後、Pさんは私との面談で「専門性を評価してもらえると思っていたのに、なぜ響かなかったのか分からない」と困惑を口にしていました。そこで一緒に振り返ったのが、志望動機と回答の中身が「入社してから何を任されたいか」の話に終始し、「入社してから何を任されてもいいか」という覚悟の話が一度も出てこなかった点です。
この振り返りを踏まえ、Pさんは次に応募した社員12人のスタートアップの一次面接で、質問が来る前に自分から「フロントを軸にしつつ、必要ならAPI周りの実装やインフラの初期設定にも関わった経験があります」と、過去の副業案件での経験を交えて話しました。さらに「御社は今PMF前後だと理解していますが、その段階だとフロントの完成度より検証速度が優先されますよね」と、事業フェーズへの理解も自分から示しました。結果は一次面接通過、最終的には現職から年収を維持したままオファーが出ています。
ポイント: 専門性の高さをアピールすること自体は間違っていません。ただしスタートアップのCTO面接では、専門性の「深さ」だけでなく、必要な場面でその外側に踏み出せる「幅」まで自分から言葉にしておく必要があります。
CTO面接でよく聞かれる質問、回答の準備の仕方
技術的な深掘りとは別に、スタートアップのCTO面接で繰り返し出てくる質問の傾向があります。事前に自分の言葉で整理しておくと、その場で取り繕う印象にならずに済みます。
準備しておきたい質問の傾向
- 「今までで一番苦労した開発は何ですか」——問題解決の過程と、そこから何を学んだかまで話せるか
- 「専門外の仕事を頼まれたらどこまでやれますか」——具体的な経験(副業・OSS・前職での越境経験など)で裏づけられるか
- 「なぜ今、このフェーズの会社なのですか」——求人票の言葉ではなく自分の言葉で事業フェーズを説明できるか
- 「技術選定で意見が割れたらどう判断しますか」——正解の提示ではなく判断の軸を語れるか
この中で候補者が特に苦手にしているのが、「専門外の仕事を頼まれたらどこまでやれますか」への回答です。抽象的に「なんでもやります」と答えるだけでは、CTOからすると裏づけのない意欲表明にしか聞こえません。副業やOSS活動、前職での担当外業務への関与など、実際に領域を越えて動いた経験を具体的なエピソードとして持っておくことが、この質問に厚みを持たせる一番の近道です。
「今までで一番苦労した開発は何ですか」への回答も、Before/Afterで比べると差が分かりやすくなります。
「今までで一番苦労した開発は」への回答例
- Before:「大規模な機能追加を短期間で任され、大変でしたが最終的にリリースできました」
- After:「大規模な機能追加を2週間で任されましたが、既存のテストが薄く、まず自分でテストケースを補ってから着手する判断をしました。結果的に工数は当初見積もりの1.3倍かかりましたが、リリース後の障害はゼロで済み、CTOにもテスト方針の判断を評価してもらえました」
Beforeは「頑張って乗り越えた」という感想で終わっていますが、Afterは何を判断し、その判断がどんな結果につながったかまで踏み込んでいます。CTOが確認したいのは苦労の大きさそのものではなく、限られた時間の中でどう優先順位をつけたかという判断のプロセスです。
こうしたエピソードは、面接の場で急に思い出そうとしてもうまく組み立てられません。私が候補者に事前準備をすすめる際は、「判断に迷った場面」「専門外に踏み出した場面」「価値観の違いを感じた場面」の3つを軸に、それぞれ1つずつ実例を書き出しておくよう伝えています。3つとも異なる質問に転用できるため、面接の流れがどう転んでも手ぶらにならずに済みます。
逆質問でカルチャーフィット・フェーズ理解を示す
逆質問は、CTO面接では単なる疑問解消の時間ではなく、こちらから理解度を示せる数少ない機会です。私が候補者にすすめているのは、抽象的な「社風を教えてください」ではなく、事業フェーズを前提にした具体的な質問です。
たとえば「今後半年〜1年で、技術面で最も優先度が上がりそうな課題は何ですか」「今の人数だと意思決定はCTOお一人で行っていますか、それとも他のメンバーとも相談されますか」といった質問は、応募先の組織構造を自分なりに理解した上で聞いていることが伝わります。実際にPさんも、二社目の面接でこの種の逆質問を投げたことが、フィードバックで「事業理解が深い」と評価された一因になっていました。
避けたいのは、待遇や福利厚生に関する質問を最初に持ってくることです。数名規模のスタートアップでは福利厚生の制度自体がまだ整っていないことが多く、この段階で聞くと「まだ会社のフェーズを理解していない」という印象を与えかねません。条件面の確認はオファー面談以降に回すのが無難です。
CTO面接に向けて、職務経歴書・自己紹介はどう見せるか
職務経歴書そのものの直し方は別記事(職務経歴書が書類選考で通らない理由、私が赤入れする5箇所)に譲りますが、スタートアップのCTO面接を意識するなら、書き方の重心をもう一段調整しておくと効果的です。
大企業向けの職務経歴書は「担当領域でどれだけ深い成果を出したか」を軸に書くのが定石ですが、CTO面接では「担当外の場面でどう動いたか」のエピソードも同じくらい重視されます。たとえば「〇〇の設計・実装を担当」だけでなく、「本来の担当範囲外だったが、リリース直前にインフラ障害が起きた際に一時対応にも入った」といった一文を加えるだけで、印象は大きく変わります。自己紹介の冒頭でも、専門領域を名乗った直後に「越境して動いた経験」を一言添えておくと、CTOが知りたい情報に自分から先回りできます。
もう一つ意識したいのが、志望動機欄の書き方です。大企業向けの志望動機は「事業内容への共感」を中心に書くことが多いですが、CTO面接向けにはそこに「今の会社の人数・フェーズだからこそ関わりたい理由」を一段加えると効果的です。抽象的な事業への共感だけでは、25人規模でも250人規模でも通用する文章になってしまい、フェーズ理解の浅さが逆に伝わってしまいます。
よくある疑問に答えます
スタートアップ転職は「やめとけ」と言われることがありますが、本当ですか
一概には言えません。倒産リスクや評価制度の未整備といったデメリットは事実ですが、それは「数名規模の組織で働くこと」に付随するリスクであって、CTO面接の通過難易度そのものとは別の話です。ここで扱っているのは、その組織の一員としてやっていける覚悟があるかどうかを見られている、という選考段階の話に限定しています。
一次面接から最終面接まで、何回くらい面接があるのですか
会社の規模やフェーズによって差はありますが、社員10人前後のスタートアップでは2〜3回、CTO面接の後に代表との面談、既存メンバーとのカジュアルな顔合わせを挟むケースが一般的です。3人前後の社員全員と話してから採用を決めるという運用をしている企業も珍しくありません。
一次面接にCTOが出てこないスタートアップは、何か問題があるのでしょうか
そうとは限りません。私が見てきた範囲では、社員が20〜30人規模まで増えてくると、採用担当や部門マネージャーが一次選考を担う体制に移っていく企業が多くなります。CTOが出てこないこと自体を不安に思うより、求人票や面接での説明から、今の組織体制がどう役割分担されているかを確認する方が実務的です。
一次面接がCTOではなく、他の創業メンバー(COOなど)だった場合も同じ考え方でいいですか
基本的には同じです。数名規模の組織では、技術以外の領域でも創業メンバー本人が面接に出てくることが多く、見ている論点も「専門性の再確認」より「役割の広さへの覚悟」「事業フェーズへの理解」に寄る傾向があります。面接官の肩書きがCTOかどうかより、その人が組織の意思決定に直接関わっているかどうかで判断するとよいでしょう。
まとめ、CTO面接は「技術試験」ではなく「共同創業者候補としての面接」
一次面接からCTOが出てくるのは、選考の手を抜いているからでも、特別扱いしているからでもありません。数名規模の組織では採用の意思決定者本人が面接官を兼ねざるを得ないという、単純な人数の構造から来ています。
だからこそCTOは、技術力の確認と同時に、役割の広さへの覚悟、事業フェーズへの理解、価値観の一致という「一緒に会社を作っていけるか」という論点を、限られた面接回数の中で見極めようとしています。技術試験のつもりで臨むと、Pさんの一社目のように準備不足を見抜かれます。共同創業者を選ぶ面接だと捉え直すことが、スタートアップのCTO面接を通過する一番の近道だというのが、この記事で一番伝えたかったことです。




