「転職しようかな」と思い始めた瞬間、多くの方はすぐに求人サイトを開き、気になる求人にその日のうちに応募してしまいます。

実際、IT人材を対象にした調査でも、転職を考え始めて最初に取った行動は「転職サイトへの登録」が約4割弱でトップという結果が出ています(Geekly「IT人材は転職を考えたら何から始める?」)。キャリアアドバイザーとして800名以上の転職に関わってきた経験からも、同じ傾向を感じています。

気持ちはよく分かりますが、求人を探し始める前にやっておいた方がいいことがいくつかあります。今回は、その具体的な準備の進め方をお伝えします。

この記事で分かること

  • 転職市場における自分のおおまかな立ち位置の調べ方
  • 転職理由を面接で使える形に言語化する方法
  • 転職サイト・エージェント・知人ネットワークの使い分け方
  • 焦らず比較検討できる状態を作ってから動き出す考え方
  • 逆に「今はまだ動き出さない方がいい」と判断すべきサイン

1. まず自分の市場価値をおおまかにでも把握する

コンパスを手に、目印の旗に向かって一歩を踏み出す様子を表したイラスト

今の年収や経験が、転職市場でどのくらいの水準にあるのかを知らないまま求人を見ると、相場より低いオファーに飛びついてしまったり、逆に非現実的な期待を持ってしまったりします。市場価値の把握は難しく考える必要はなく、手元でできる方法が2つあります。

求人サイトで同職種・同年代の年収を眺めてみる

一番手軽なのは、転職サイトで自分と近い職種・年齢帯の求人を眺めることです。このとき、1件や2件の好条件求人だけを見て「これが相場」と思い込むのは避けてください。目安として20〜30件ほど求人票の年収レンジに目を通すと、条件のいい求人とそうでない求人の幅が見えてきて、実態に近い中央値がつかめます。

エージェントに一度、経歴を見てもらう

もう一つの方法が、エージェントに一度経歴を見てもらうことです。転職の意思がまだ固まっていなくても、市場価値を知る目的だけで面談を申し込んで問題ありません。むしろ、そうした「様子見」段階での相談の方が、実際には多いくらいです。

実際の相談の中でも、経験年数から考えて年収600万円は当然だと思い込んでいたのに、実際の求人相場は450万円前後だった、というケースは珍しくありません。理由を聞いていくと、前職の年収が入社時からの昇給の積み重ねで上がっていただけで、転職市場では通用しにくい評価だった、というパターンがほとんどです。大切なのは応募を始める前におおまかな相場感を持っておくことで、これがあるだけで求人を見る目がまったく変わってきます。

2. 転職理由を「言語化」しておく

「今の会社が嫌だから」という気持ちだけで動き始めると、次の職場でも同じ不満に直面しやすくなります。何が不満で、次の環境に何を求めているのかを整理しないまま転職した人が、1年後にまた同じ理由で相談に来ることは、私の経験上決して珍しくありません。

エン転職が2025年に行った調査でも、転職を考え始めたきっかけとして「給与が低い・昇給が見込めないから」が回答者の4割超でトップに挙がっています(エン転職「『転職を考え始めたきっかけ』について(2025年版)」)。ただ、この不満をそのまま次の職場探しの軸にすると、給与以外の条件で同じようなミスマッチを繰り返しがちです。

不満を「本当に求める条件」に変換する

言語化のやり方はシンプルです。今の仕事の不満点を紙に書き出し、その裏側にある「本当に求めている条件」に変換してみてください。たとえば「残業が多い」という不満の裏には、「プライベートの時間を確保したい」という要望が隠れていることがよくあります。同じように「人間関係がつらい」という不満も、掘り下げていくと「意見を言いやすい環境がほしい」という具体的な条件に変換できることが多いです。

言語化を飛ばして転職すると、何が起きるか

言語化を飛ばしたまま転職して、半年後にまた相談にいらした方もいます。前職への一番の不満は「裁量権のなさ」だったのに、転職の軸を年収アップだけに絞ってしまい、規模の大きい会社に移った結果、年収は80万円ほど上がったものの、業務範囲はさらに細分化された環境になってしまいました。ご本人いわく「年収の数字だけを見ていて、裁量権という一番の不満を条件に入れ忘れていた」とのことでした。

こうして整理しておくと、面接での受け答えにも自然と一貫性が出てきます。その場しのぎではなく自分の言葉で語れる理由を用意できている人は、面接官からの評価も総じて高い傾向があります。

3. 情報収集の進め方を比較する

転職理由の方向性が見えてきたら、次は情報収集です。「情報収集」とひとくくりに言っても、手段によって得られる情報の質はまったく違います。代表的な3つの方法の向き不向きを整理しておきます。

情報収集、手段ごとの向き不向き

  • 転職サイト・求人検索:市場全体を広く浅く眺めるのに向く。相場観をつかむ最初の段階に最適
  • エージェントへの相談:求人票だけでは分からない社風や選考難易度、非公開求人の情報を得られる
  • 知人・SNSのネットワーク:現場のリアルな声を聞けるが、情報が偏りやすい点に注意が必要

転職サイトは「相場を広く眺める」段階で使う

転職サイトの求人検索は、情報収集の入り口として優秀です。ただし、掲載されている年収レンジは上限に近い金額が書かれていることも多く、実際の内定額とは差が出やすい点は知っておいた方がいいです。あくまで「幅」をつかむためのものと割り切って使うのが現実的です。

エージェントには「経歴の見え方」を聞く

エージェント面談の価値は、求人紹介そのものよりも、自分の経歴が今の市場でどう見えるかという客観的なフィードバックにあります。非公開求人へのアクセスに注目されがちですが、現場の感覚では、経歴の見え方を第三者の視点で聞けることの方が、動き出す前の情報収集としては価値が大きいと感じています。

知人・SNSの声は「参考」に留める

知人や同業のつながりから聞く話は、求人票に載らない社内の雰囲気など貴重な情報源になります。一方で、一人の体験談がその会社・部署全体を代表しているとは限りません。参考程度に聞いておき、最終判断の材料は自分で集めた複数の情報に基づかせる方が安全です。

4. 焦って動かず、比較検討できる状態を作る

3社分の求人条件をカードにして並べ、見比べている様子を表したイラスト

「今すぐ辞めたい」という気持ちが強いほど、条件を妥協してしまいがちです。在職中に情報収集を始め、複数の選択肢を並べて比較できる状態を作ってから本格的に動き出す方が、結果的に良い転職につながるケースを数多く見てきました。

退職を先に伝えない

誠実さから、転職活動を始める前に上司へ意向をそれとなく伝えておこうとする人がまれにいます。気持ちは分かりますが、これはおすすめしません。退職の意向が社内に知れた状態で活動を続けると、「もう後戻りできない」という心理的な焦りが生まれ、比較検討が不十分なまま最初のオファーに飛びついてしまいやすくなるからです。

注意点: 退職を先に伝えてから転職活動を始めるのはおすすめしません。収入が途切れる焦りから、条件面で妥協しやすくなるためです。

実際、早めに上長へ意向を伝えたことで「早く決めてほしい」と暗に急かされ、十分に比較検討できないまま1社目の内定を承諾してしまった相談者もいました。退職の意思を伝えるのは、内定を承諾する直前まで待つくらいでちょうどいいと思っています。

比較検討にかかる期間の目安

では実際にどのくらいの期間を見ておけばいいのでしょうか。厚生労働省の調査では、転職活動を始めてから前職を辞めるまでの期間は「1〜3ヶ月未満」が28.8%で最も多く、6ヶ月未満で退職に至った人が6割を超えています(厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」)。じっくり比較検討しても、平均的にはこの範囲に収まる人がほとんどだということです。

比較検討の材料が2〜3社そろった段階で、初めてそれぞれの条件を並べて検討する。在職中に比較できる状態を作ってから動く、このくらいのペースで進めるほうが、後悔の少ない選択につながります。

5. 今はまだ動き出さない方がいいサインもある

ここまで準備の進め方を紹介してきましたが、逆に「今はまだ動き出さない方がいい」というタイミングも実際にあります。「今の自分は転職すべきなのか、それともまだ早いのか」と迷って相談にいらっしゃる方も少なくないので、判断材料として知っておいて損はありません。

動き出す前に、一度立ち止まった方がいいサイン

  • 上司とのトラブル直後など、感情が大きく揺れているタイミングで判断しようとしている
  • 近々、異動・昇格・評価改定など、今の環境が変わる予定が控えている
  • 体調や家庭の事情など、転職活動より優先すべきことが今ある
  • 今の会社であと1年勤めると、賞与や退職金の条件が大きく変わる

実際に、上司との衝突直後に「今すぐ辞めたい」と面談にいらした方に、あえて2週間ほど時間を置いてから改めて考えることを提案したことがあります。結果的にその方は社内異動で状況が改善し、転職自体を見送るという判断に落ち着きました。「あのとき勢いで辞めていたら、後悔していたと思う」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

動き出さない判断も、立派な選択の一つです。焦って決めた転職ほど、後から「もう少し情報を集めてから動けばよかった」という後悔につながりやすいというのが、これまで見てきた実感です。

まとめ:まずは自分の状況整理から始めてみる

転職を考え始めた最初の段階でやるべきことは、求人を探すことではなく、自分の状況を整理することです。市場価値のおおまかな把握、転職理由の言語化、情報収集の使い分け、焦らず比較検討できる態勢づくり、そして時には「今は動かない」という判断——この5つを押さえておくだけで、その後の転職活動の質は大きく変わります。

何から手をつけていいか分からない場合は、まず転職サイトで同職種の求人を10件ほど眺めてみることから始めてみてください。それだけでも、自分の市場価値の輪郭が少しずつ見えてきます。

このブログでは、こうした準備段階から実際の年収交渉や面接対策まで、現場で得た情報をできるだけ具体的に発信していきます。まずは自分の状況を整理するところから、一緒に始めてみてください。