「入社初日に上長から『みんな交代でやっているので』と言われて、オンコールの当番表を渡されました。面接では一度も聞いていなかったのですが」——入社して間もない方から、こういう相談を受けることがあります。
私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、インフラ・SRE職で「聞いていたより運用の負荷が重い」という相談は、入社後ギャップの中でも特に多い部類です。今回は、初日に当番表を渡された方の事例をもとに、人事・上長・チームの順に何を聞き、続けるか動くかをどう判断したかをお伝えします。
今回は、次の内容に沿ってご紹介します。
- 入社後にオンコールが想定より重いと分かったとき、最初の1週間でやること
- 人事→上長→チームの順に聞く内容と、順番を間違えたときに起きること
- 頻度・人数・手当・当番明けの扱い・改善の見込みの5軸での判断の仕方
- 労働基準法15条の即時解除と、現場の実務感覚とのずれ
目次
SRE入社後のオンコールで「話が違う」と感じた初日
Iさん(36歳・経験12年)は、製造業の情報システム部門で社内システムの運用を長く担当してきた方です。サーバ運用とクラウド移行の経験を買われ、toC向けのサービスを運営する事業会社のインフラチームにSREとして転職しました。
求人票の業務内容は「サービス基盤の運用・改善、監視体制の整備」。オンコールの記載はなく、面接でも「障害対応はチームで対応します」と言われた程度でした。Iさんもその時は、日中の障害対応のことだと受け取っていたそうです。
入社初日の午後、上長が共有ドライブの当番表を開いて言いました。「来月から入ってもらいます。みんな交代でやっているので」。当番は週単位で、平日夜間と土日も一次対応の電話を受ける形でした。
Iさんが帰宅してから数えると、チームは自分を含めて4人。単純に割れば4週に1回です。ただ、前任者の退職で補充された採用だったため、実際は3人で回していた時期が長かったと、後から分かります。
その夜、Iさんは私にこう書いてきました。「辞めるほどのことなのか、それとも自分が甘いのか、判断がつかない」。この「判断がつかない」状態のまま動くのが、いちばん危ないところです。
以下の数字は、Iさんの話をもとにした仮の数字例です。頻度や手当の水準は会社によって大きく違うので、金額や回数をそのまま目安にしないでください。
入社後ギャップは珍しくない。ただし数字の読み方には注意
まず「自分だけではない」という点を、調査で確認しておきます。キッカケクリエイションが2025年7月に、ITエンジニアの退職経験者438名に行った調査では、入社前後でギャップがあったと答えた人が合計74.9%(「非常にあった」27.4%、「ややあった」47.5%)でした。ギャップの内容(n=328、複数回答)では、「オンコール対応の頻度が聞いていたより多かった」が31.7%、「技術スタックが聞いていたものと違った」が24.7%です(出典:キッカケクリエイション「ITエンジニアの入社後ギャップ調査」)。
ただし、この調査の対象は退職を経験した人に限られています。ITエンジニア全体の7割がギャップを抱えている、という意味ではありません。ギャップを感じても辞めずに続けている人は、母数に入っていないからです。
私はこの数字を「ギャップは起きやすい。ただし、起きた人の多くが辞めるわけではない」と読んでいます。実際、相談に来る方の中で、オンコールの件で本当に退職まで進むのは一部です。多くは、確認の順番と判断の軸が分からず、不安のまま日が過ぎているだけでした。
最初の1週間は、人事にも上長にも聞かない
Iさんは翌朝、人事に「求人と違うのでは」とチャットを書きかけたそうです。私が止めたのは、そのタイミングです。
理由は単純で、事実が整理できていない状態で聞くと、感情的な不満としてしか伝わらないからです。「聞いていなかった」は、相手から見れば「あなたの認識の問題」に変換されやすい。最初の1週間にやるのは、次の4点を手元で確かめることでした。
聞く前に自分で確かめた4点
- 求人票・面接で、オンコールや夜間対応についてどう書かれ、何と言われたか(保存している求人ページ、面接のメモ、エージェント経由なら担当者とのやり取り)
- 雇用契約書・労働条件通知書に、夜間・休日の待機や呼び出しの定めがあるか
- 就業規則・賃金規程に、待機や呼び出しの手当、振替休日の定めがあるか
- 共有されている当番表から読み取れる、直近数か月の実際の担当回数
通知書や契約書の読み方は、別の記事で詳しく書きました。入社前に確認するならこちらが先です(参考:労働条件通知書とは?エンジニアのリモート・就業場所・オンコールの確認)。ここでは、入社した後に見るポイントだけ押さえておきます。
Iさんの場合、通知書にはオンコールの記載がなく、就業規則には「業務の都合により、時間外・休日に待機を命じることがある」という一文があるだけでした。手当の定めは、賃金規程に「待機手当:1回あたり定額」とありました。
ここで大切なのは、「違法かどうかを自分で判定しようとしない」ことです。記載がないことと、会社が違法な運用をしていることは別の話です。この段階で分かるのは、あくまで「何が書かれていて、何が書かれていないか」だけで、それで十分です。
SREの当番は、人事→上長→チームの順に切り出す
事実が揃ったら、聞く順番を決めます。私がIさんに勧めたのは、人事、上長、チームの順です。逆にすると、うまくいかないことが多いと感じています。
人事には「制度」だけを聞く
最初の相手は人事です。ここで聞くのは、制度の事実だけです。
人事に聞くこと
- オンコール(待機・呼び出し)に関する手当の仕組みと、支給単位
- 当番明けの休息(翌日の振替、勤務間インターバル)の運用ルール
- 求人票や募集要項に、オンコールの記載がなかった経緯
三つ目は、責めるニュアンスを出さずに事実として聞きます。Iさんは「募集の時点で、オンコールの有無は求人情報に載せない運用なのか、確認させてください」と書きました。返ってきたのは、「求人票は職種共通の文言で、チームごとの運用までは載せていない」という答えでした。
人事に先に聞く理由は、制度の答えは人事が一番正確に持っているからです。上長に先に聞くと、制度の話と現場の運用の話が混ざり、手当の有無まで「うちはこうだから」で曖昧になることがあります。
上長には「運用」と「見込み」を聞く
次が上長です。人事で制度が分かっていれば、上長にはこう聞けます。
上長に聞くこと
- 一次対応の担当は何人で、週単位か日単位か、休日はどう割り当てているか
- 直近半年で、夜間・休日に実際に呼び出された回数と、1回あたりの対応時間
- 人員の補充、アラートの削減、体制の見直しについて、計画があるか
Iさんは「入社して間もなく、判断材料を持ちたいので」と前置きして聞きました。上長の答えは、呼び出しは月に数回、深夜に及ぶのはそのうち一部。増員は「来期の予算次第で、1名入れたい」という段階でした。
ここで上長の言い方が「予定」なのか「決定」なのかを、必ず確認してください。「入れたい」は希望で、予算が付いたという意味ではありません。Iさんもメモに、言葉のまま残しています。
チームには「実感」を聞く
最後がチームのメンバーです。制度と運用が分かったうえで、同じチームの先輩に聞きます。
当番表に出ない負荷は、現場の人しか知らないことが多いからです。Iさんは歓迎ランチで、先輩にこう聞きました。「最近いちばん大変だった当番って、どんな週でしたか」。返ってきたのは、深夜に3回続けて呼び出され、翌日も通常勤務だったという話でした。当番明けの休みが規定されていなかったからです。
人事・上長が公式の答え、チームが実際の答えです。この二つが食い違っていたら、食い違い自体が判断材料になります。Iさんの場合、「呼び出しは月に数回」と「深夜が続いた週があった」は矛盾しないものの、当番明けの扱いが決まっていない点は、上長の説明に出てきませんでした。
続けるか動くかを決める5つの軸
情報が揃ったら、感覚ではなく軸で比べます。私が相談を受けるときに使っているのは、次の5つです。1つの軸だけで決めず、組み合わせで見るのがポイントです。
| 軸 | 見るもの | 続けやすい状態 | 動くことを考える状態 |
|---|---|---|---|
| 頻度 | 担当週の頻度、実際の呼び出し回数 | 上限が明示され、呼び出しが月数回以内 | 頻度が不定で、誰も上限を答えられない |
| 人数 | 一次対応の担当者数、バックアップ体制 | 5人以上で、二次対応が機能している | 3人前後で、欠員のたびに頻度が上がる |
| 手当 | 待機手当・呼び出し手当の有無と水準 | 規程で明文化され、実績どおり支払われる | 手当なし、または固定残業に含まれる説明のみ |
| 当番明けの扱い | 翌日の振替、勤務間インターバル | 規定があり、実際に取れている | 規定がなく、翌日も通常勤務 |
| 改善の見込み | 増員計画、アラート削減、体制見直し | 予算・時期・担当者が具体的 | 「検討している」止まりで時期の話が出ない |
この表は、あくまで私が現場で整理に使っている目安です。企業の規模や業態で適切な水準は違うので、「この数字なら続ける」という絶対的な基準ではありません。
大事なのは、5軸のうち、自分が譲れないものを入社前の気持ちに戻って選ぶことです。たとえば子育て中の方は、当番明けの扱いと頻度が譲れない軸でしょう。単身で貯蓄を急いでいる方は、手当の水準が優先かもしれません。
実質時給に直して比べたい方は、別の記事に計算の手順をまとめています(参考:SREのオンコール手当を時給換算するとどうなるか)。
もう一つ、軸の中で見落とされがちなのが「改善の見込み」です。頻度が高くても、半年後に増員が決まっていて、アラート削減の担当者もいる環境なら、続ける価値はあります。逆に、頻度が許容範囲でも、改善の動きがゼロなら、状況は悪化する方向にしか動きません。
Iさんが出した判断。変えられる軸だけ先に交渉した
Iさんの5軸は、次のとおりでした(仮の数字例)。
Iさんの5軸(仮の数字例)
- 頻度:3人体制の時期は3週に1回、4人なら4週に1回。夜間の呼び出しは月に数回
- 人数:4人、うち1人は他システムとの兼務で、実質は3.5人程度
- 手当:待機手当は規程に明記。ただし金額は1週間あたりで、深夜対応の追加手当はなし
- 当番明けの扱い:規定なし。翌日の振替は上長の裁量
- 改善の見込み:増員は「来期予算次第」。アラート削減の担当は未定
私が気になったのは、人数と改善の見込みの組み合わせです。増員が決まらない限り、誰かが退職すれば頻度が上がり、残った人が疲弊して、さらに退職者が出る。人数が構造的に増えない環境は、負荷が時間とともに上がる方向にしか動きません。
ただ、5軸のうち「当番明けの扱い」だけは、会社に頼めば変えられる余地がありました。人数や予算は入社したばかりの本人には動かせませんが、休息の運用は上長の裁量だからです。Iさんは辞めるかどうかの前に、この一点を交渉することにしました。
交渉では、頼むことを絞りました。手当の増額や増員のような大きな話は出さず、「深夜0時以降に対応した翌日は、午後から勤務にしてほしい」という一件だけです。口頭の運用では次の担当者に引き継がれないので、チームの運用ルールとして文書に残してほしい、とも添えました。
結果は、半分の成功でした。当番明けの午後休は、チームの運用ルールとして共有ドライブに明記されました。一方、深夜対応の追加手当は「規程の改定が要るので今期は難しい」という返事です。人数も変わりません。
Iさんは、そのまま残ると決めました。決め手は、いちばん負担に感じていた当番明けの扱いが文書で担保されたことです。頻度は3〜4週に1回で、許容範囲に収まります。そのかわり、「誰かが抜けて3人体制になり、頻度が3週に1回を超えたら、そのときに転職を考える」という撤退の条件だけは、先に手帳へ書いておきました。
私はこの判断を、悪くないと見ています。ただし、人数が増えない構造は残ったままなので、条件に触れた時点で動けるよう、職務経歴書の更新だけは続けてもらっています。残る判断は、動かない判断ではありません。動く条件を先に決めておく判断です。この結末は一例で、同じ交渉が通るかどうかは会社の体制と上長の裁量によります。
Iさんのような確認が入社前にできていれば、と思う方は、面接の段階でオンコールの頻度の上限を聞く方法も参考にしてください(確認の方法は面接の逆質問にまとめています)。
労働基準法15条の即時解除は、使えるのか
「求人と違うなら、すぐ辞められるのでは」と考える方もいます。ここは条文の事実だけ紹介します。
労働基準法15条は、使用者が労働契約の締結時に、賃金や労働時間などの労働条件を明示する義務を定めています。そして、明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。就業のために住居を変えた労働者が、解除の日から14日以内に帰郷する場合は、使用者が必要な旅費を負担する、という定めもあります(参考:栃木労働局「労働条件の明示(第15条)」)。
また、厚生労働省の「確かめよう労働条件」では、求人票の条件と実際の労働条件が異なる場合について、特段の合意による変更がなければ、求人時の条件が契約内容になると考えられる、としています。まず条件が異なる理由を事業主に確認する、という手順も案内されています(参考:厚生労働省「確かめよう労働条件」)。
ただし、個別のケースで15条が使えるかどうかは、私には判断できません。明示された条件が何で、相違がどの範囲か、事実の確認が必要です。判断が必要なら、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談してください。なお、求人票の相違を扱う窓口の中には、ハローワークの求人が対象のものがあり、民間の転職サイトや紹介会社経由の求人には当てはまらないことがあります。
そのうえで、現役エージェントとしての実務感覚を書きます。即時解除という手段は、現実には使いにくいことが多いというのが、私の見方です。
使いにくいと感じる理由
- オンコールが通知書に書かれていなかった場合、「明示された条件と事実が相違している」とは言いにくく、相違の立証が難しい
- 解除を巡って会社と争う間、次の職場探しが止まりやすい。次の面接での説明にも困る
- 入社間もない退職は職務経歴書に残る
条文を知っておくことは、交渉の場で自分を守る材料になります。ただ、「使うかどうか」と「知っておくかどうか」は別の話です。Iさんも、15条は「最後の手段として存在する」と理解したうえで、まずは会社との交渉という通常の手順で動く選択をしました。
技術スタックが違う場合も、考え方は同じ
オンコールの次に多いのが、技術スタックが聞いていたものと違うパターンです。先ほどの調査でも24.7%が挙げていた項目で、SRE・インフラ職では「Kubernetesを使うと聞いたが、実際は一部のサービスだけ」「Terraformでコード管理と聞いたが、手作業が半分残っていた」といった形で起きます。
この場合も、聞く順番は同じです。ただし、軸が変わります。
技術スタックの違いで見る3軸
- 現状:本番でその技術が動いているのは、全体のどのくらいか
- 移行計画:残りを移す予定があるか、担当は誰か、時期はいつか
- 自分の関与:入社後、その移行に参加できるか、別の業務に固定されるか
SRE求人で「名ばかりSRE」を見抜く方法は、別の記事にまとめました。応募前の話になるので、入社後にギャップが出た方は読み物として参考にしてください(参考:SRE求人で「監視当番だけ」を見抜く方法)。
私が気をつけているのは、技術スタックの違いと、成長の見込みを混同しないことです。今は古い構成が多くても、移行の責任者に入れるなら、むしろ経験を積める環境です。逆に、スタックが最新でも、自分は運用の当番だけに固定されるなら、スキルが伸びる場面は少ない。同じような「入社後に業務が想定と違った」例は、フルスタック職の事例でも書いています(参考:フルスタック求人なのにフロントエンドだけだった場合)。
入社1か月で辞める判断と、履歴書への影響
「入社して数週間で辞めるのは、履歴書に傷がつくのでは」という質問も多くいただきます。私の見方を書きます。
短期離職の見え方は、理由を一貫して説明できるかで変わる、というのが私の実感です。もちろん企業ごとに受け止め方は違い、説明できれば必ず通るわけではありません。「オンコールが想定より重かった」だけでは弱い。「入社前に確認した内容」「入社後に確認した事実」「会社に確認した結果」「自分が判断した基準」を、順番に話せることが重要です。ここまで書いてきた確認の順番は、そのまま次の面接での説明にも使えます。
試用期間中の動き方は試用期間中の面談への対応で、入社後に放置されたときの動き方は入社後の放置と早期離職でそれぞれ触れています。
在職中に動く場合の注意は、在職中の転職活動で詰まる3つの壁にあります。入社間もない時期は、確認すべき壁がさらに増えます。
よくある質問
入社後にオンコールが分かった場合、まず誰に相談すればいいですか。 最初は人事に制度の事実を確認し、次に上長へ運用と改善の見込みを聞く順番をお勧めします。いきなり「話が違う」と伝えると、感情的な不満として受け取られやすくなります。
オンコールの頻度は、平均でどのくらいですか。 公的な統計はなく、会社の規模やサービスの性質で大きく違います。数字より、上限が明示されているか、人数が足りているかを見るほうが判断しやすいと私は考えています。
オンコール手当の相場はありますか。 一律の相場を示せる材料は、手元にありません。大切なのは金額より、規程に明文化されているか、実績どおり支払われているかです。
求人票と実際が違うとき、公的な相談先はありますか。 労働基準監督署や総合労働相談コーナーが窓口になります。ハローワーク経由の求人であれば、求人に関する相談窓口も使えますが、民間の転職サイト経由の求人は対象外のことがあるので、先に確認してください。
入社1か月で退職したら、履歴書や職務経歴書はどうなりますか。 短期でも在籍した事実は書くのが基本です。理由を一貫して説明できれば不利を和らげられると私は見ていますが、選考での受け止められ方は企業によって違い、必ず通用するとは言えません。ご自身の状況はエージェントなどに個別にご相談ください。
まとめ
入社初日に当番表を渡されたとき、いちばん避けたいのは、判断がつかないまま感情で動くことです。事実を整理し、人事に制度を、上長に運用と見込みを、チームに実感を聞く。この順番を踏むだけで、続けるか動くかの材料は大きく変わります。
そして、判断の軸は5つです。頻度・人数・手当・当番明けの扱い・改善の見込み。Iさんの場合、決め手になったのは頻度の高さではなく、変えられる軸(当番明けの扱い)を先に交渉し、変えられない軸(人数)には撤退の条件を置いたことでした。
労基法15条のような制度は知っておく価値がありますが、実務では使いにくいことが多い。だからこそ、辞める前に確認する順番を持っておくこと。それが、この記事で一番伝えたかったことです。




