オファー通知書を開いたら、ベース給与の下に「RSU:総額24万ドル相当、4年で権利確定」と書かれていた。比較表に足そうとして、電卓の手が止まる——外資ITやメガベンチャーの内定が出た方から、こういう相談を受けることが年々増えています。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、RSU付きオファーで失敗する人の多くは、金額を読み違えているのではなく、付与額と、その年に実際に受け取れる額を、同じ数字として扱っていることが原因です。今回は、RSUの数字を年収に換算する手順と、面談で確認すべき質問を、仮定のシミュレーションを交えてお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 付与額・権利確定スケジュール・株価と為替の3つを分けて、RSUを年収に換算する手順
  • 株価±30%・為替±20円で総額年収がどれだけ動くかの簡易シミュレーション(数字はすべて仮定)
  • 初年度が小さい型と前倒し型、退職時の失効など、比較で見落としやすい落とし穴
  • オファー面談で人事・採用担当に確認したい質問リスト
目次
  1. RSUオファーを年収換算するときの基本の考え方
  2. 換算の手順を4ステップにする
  3. ベース給与だけで比べて、RSUを足し忘れた相談事例
  4. 株価±30%と為替で、総額年収はどう動くか(仮定のシミュレーション)
  5. 初年度が小さい型と前倒し型で、1年目の年収が変わる
  6. 退職・転職で、未確定のRSUが失効する話
  7. 手取りと税金:付与時ではなく、確定時に課税される
  8. ストックオプションとの違い:上場企業のRSUは「売れる」前提がある
  9. オファー面談で確認したい質問リスト
  10. Vさんがたどり着いた判断と、換算後に比べるべきもの
  11. よくある質問
  12. まとめ:RSUは「付与額」ではなく「悪い場合の年収」で比べる

RSUオファーを年収換算するときの基本の考え方

RSU(制限付株式ユニット)は、入社時に「将来この株数を渡します」と約束され、決められた時期が来て権利が確定(ベスト)した時点で株式を受け取る報酬です。付与された時点では、まだ誰のものにもなっていません。

ここが、ベース給与や賞与と決定的に違うところです。給与は約束した額がそのまま振り込まれますが、RSUは株数は決まっていても、金額は受け取る日の株価で決まります。外貨建てなら、そこに為替も乗ります。

換算の出発点として、私は次の3つを必ず別々に書き出してもらっています。

  • 付与額:オファー時点の株価で計算した総額と、その株数
  • 権利確定スケジュール:何年で、毎年何割ずつ確定するか
  • 受け取り時の評価額:権利確定日の株価と為替レート

通知書に書かれているのは、ほとんどの場合1つ目だけです。「総額24万ドル相当」は付与時点の株価で見積もった数字で、2つ目と3つ目は、読み手が自分で補って初めて年収になります。

権利確定の標準的な型としては、4年かけて毎年25%ずつ確定する設計がよく紹介されています(参考:Wise「RSUとは」)。ただしこれは一般的な型にすぎず、企業によって年数も割合も違います。後述するように、この違いが年収換算の結果を大きく変えます。

換算の手順を4ステップにする

手順にすると、次の4つです。計算はスプレッドシートで十分で、複雑な式は要りません。

  1. 付与総額を、権利確定の年数と割合で「年ごとの付与額」に割る
  2. 年ごとの付与額に、株価が上下した場合の幅(例:±30%)をかけて、低・中・高の3通りを作る
  3. 外貨建てなら、為替レートの幅も加えて円換算する
  4. ベース給与・賞与・サインオンボーナスと足して、年ごとの総額を出す

ここで大事なのは、1つの数字に決め打ちしないことです。「RSU込みで年収1,750万円」と1行で書くと、その数字だけが独り歩きします。低・中・高の3通りで見ておくと、「悪い場合でも手元に残る額」が先に見え、判断がぶれにくくなります。

ベース給与だけで比べて、RSUを足し忘れた相談事例

Vさん(33歳・経験8年のAndroidエンジニア)の場合です。Vさんは、国内ECの自社開発企業に勤めていて、現年収は720万円でした。同時に2社から内定が出ていて、1社は国内の事業会社でベース980万円、もう1社は外資系SaaSの日本法人でベース850万円とRSUという内容です。

最初の比較表で、Vさんは外資の欄に「850万円」とだけ書いていました。「RSUは株だから、会社が伸びるかどうか分からない。保険みたいなものと考えて、数字には入れませんでした」と。この時点では、国内企業のほうが130万円高く、Vさんも国内側に傾いていました。

私がお願いしたのは、通知書の「総額24万ドル相当、4年で均等に権利確定」を、先ほどの手順で割ってもらうことです。年あたり6万ドル、為替を1ドル150円と仮定すれば900万円。ベースと足すと、RSUが計画どおり受け取れたと仮定した場合、外資のほうが国内より770万円高い計算になります。

ここで逆の極端に振れる方もいます。「1,750万円なら迷う余地はない」と、仮定のままの数字で決めてしまうパターンです。そこで次のステップとして、株価が下がったときの数字も並べてもらいました。

株価±30%と為替で、総額年収はどう動くか(仮定のシミュレーション)

以下は、Vさんのオファーを元にしたあくまで仮定の例です。実在の企業や実際の株価とは関係ありません。付与総額は24万ドル、付与時の株価は200ドル、4年で毎年25%ずつ確定すると仮定します。毎年の確定株数は300株、為替は1ドル150円を基準にします。

まず、株価だけを動かしてみます(為替は150円で固定、ベース給与は850万円)。

権利確定日の株価RSUの年間受取額ベースと合計した年収
140ドル(-30%)約630万円約1,480万円
200ドル(付与時と同じ)約900万円約1,750万円
260ドル(+30%)約1,170万円約2,020万円

次に、株価は200ドルのまま、為替だけを動かします。

為替レートRSUの年間受取額ベースと合計した年収
130円(円高)約780万円約1,630万円
150円約900万円約1,750万円
170円(円安)約1,020万円約1,870万円

株価が3割下がっても、為替が20円円高になっても、合計は国内企業の980万円を上回ります。一方、株価の下落と円高が同時に来ると、RSU部分はさらに目減りします。たとえば株価140ドルで1ドル130円なら、年間の受取額は約546万円で、ベースと足して約1,400万円です。それでも、この仮定の範囲では国内オファーを上回りました。

この結果を見て、Vさんは「RSUを0円と見るのも、付与時の数字をそのまま信じるのも、どちらも正しくないんですね」と話していました。私も同じ読み方をしています。RSUは0円でも満額でもなく、幅のある数字として年収に入れる。この見方が、換算の一番の肝です。

ポイント: 換算のシミュレーションで見るべきは、期待値より「悪い場合でもベースと足して他社の提示を上回るか」です。上回るなら安心して比較でき、下回るなら、RSUを前提にした判断は避けたほうが無難です。

初年度が小さい型と前倒し型で、1年目の年収が変わる

同じ付与総額でも、確定のスケジュールが違えば、年ごとの受取額はまったく別物になります。ここは、換算の際に最も見落とされやすい箇所です。

一般的な型は均等配分ですが、実際には、後ろ寄せ(1年目が小さく、年を追って大きくなる)や前倒し型(初年度に厚く配分する)を採る企業もあります。具体的な割合は企業・プランごとに異なり、私が把握している範囲でも、募集要項に書かれていないケースがあります。

仮に、付与総額24万ドルを「10%・20%・30%・40%」で配分する後ろ寄せ型と、均等な25%ずつの型とで、1年目を比較してみます(株価200ドル、1ドル150円で固定した仮定)。

権利確定のスケジュール1年目のRSU1年目の総額(ベース850万円)4年間のRSU合計
均等(25%ずつ)約900万円約1,750万円約3,600万円
後ろ寄せ(10%から40%へ)約360万円約1,210万円約3,600万円

4年間の合計は同じです。それでも1年目の差は540万円。さらに、後ろ寄せ型は3年目・4年目に受取額が集中するため、その前に退職すると、取りこぼす金額も大きくなります。

もうひとつ、よく見られる設計として「入社から1年間は権利確定しない」という1年クリフがあります。これも一般的な型として紹介されることがありますが、会社によって有無は異なります。1年未満で辞めたら、RSUは1株も受け取れないという前提で読んでおく必要があります。

私が相談者に伝えているのは、初年度の年収を比べるなら、同じ年の同じ条件で比べるということです。国内企業の「初年度から980万円」と、外資の「4年目に最大化する1,750万円」を並べても、条件が揃っていません。

退職・転職で、未確定のRSUが失効する話

RSUは、在籍していることが受け取りの条件です。未確定の分は、退職した時点で失効するのが一般的な設計として説明されています。これは、転職エージェントの立場から見ると、次の転職の自由度を縛る要素にもなります。

たとえば、仮定として前述の均等型(4年・25%ずつ)で、入社から18カ月で退職する場合を考えます。年1回の確定なら、受け取れるのは最初の1回(25%)だけ。残りの75%、約2,700万円相当(仮定の株価・為替で計算)は消えます。

確定日の直前に辞めると、あと数カ月で受け取れたはずの分も消えます。もちろん、それが悪い判断とは限りません。ただ、そうした事情を知らずに入社して、後から「この会社を辞めると損をする」と気づくのは、避けたい展開です。

私が見てきた範囲では、RSUの量が大きい方ほど、働く場所を変えたいときにも踏み切れなくなる傾向があります。条件の良い報酬が、転職の自由度を引き換えにしている面があるということです。そのため、入社前の段階で「何年いる想定か」を自分に問うておくことを、私は勧めています。

退職時の扱いは、会社やプランごとに大きく違います。次の点は、通知書だけでは分からないことが多いので、面談で必ず確認してください。

  • 会社都合で退職した場合や、整理解雇の場合の扱い
  • 退職時に、一部を前倒しで確定する(加速付与)仕組みがあるか
  • 会社が買収された場合、未確定分がどうなるか

加速付与やM&A時の扱いは、会社・プランごとに異なります。ここで言い切れることは何もないので、確認の質問として扱ってください。

手取りと税金:付与時ではなく、確定時に課税される

次に、手取りの話です。一般的には、RSUは付与された時点では課税されず、権利が確定した時点で給与所得として扱われると説明されます。そのうえで株式を売却すると、売却益が譲渡所得として課税されます(参考:Wise「RSUと確定申告」)。

給与所得として課税されるとき、外貨建ての収入は円換算が必要です。どの時点の為替レートで換算するかによって、課税される円の金額も変わります。外貨建てストックオプションの申告には国税庁が入力例を公開していますが、RSUにそのまま当てはまるとは言い切れないため、換算の基準は会社の担当部署か税理士に確認してください。

注意したいのは、確定時にはまだ売っていないのに、給与所得として課税されうるという点です。株価が高い時点で確定して課税され、その後に下がって売却すると、受け取った現金より納めた税金のほうが重い、という事態も起こりえます。

また、外国の親会社が付与するRSUは、日本の会社が源泉徴収をしない場合が多く、自分で確定申告をする必要が生じやすいと説明されています。一般的な申告期限は翌年3月15日です。住民税にも影響しますので、年収が跳ね上がった翌年の負担は、事前に見積もっておくのが安全です。

ここで、私の立場からはっきり言えることがあります。税の扱いは、会社の仕組みや個人の状況で変わるため、このブログで断定できる範囲ではありません。人事や給与担当にまず確認し、金額が大きい場合は税理士にも相談してください。

ストックオプションとの違い:上場企業のRSUは「売れる」前提がある

RSUとよく比べられるのがストックオプションです。ストックオプションは、決まった価格で株を買う「権利」で、株価がその価格を上回らないと価値がありません。一方RSUは、権利が確定すれば株そのものが渡されるため、株価が下がっても、ゼロになることは基本的にありません。

私がこの記事で想定しているのは、すでに上場している企業の株式です。未上場のスタートアップのストックオプションは、そもそも売れるかどうか、いつ上場するかが読めないため、年収にどう織り込むかが別の問題になります。そちらはストックオプション付き転職で額面年収ダウンをどう判断するかで詳しく扱っているので、未上場企業の話ならそちらをご覧ください。

上場企業のRSUの強みは、株価が毎日見えて、確定した株を市場で売れることです。売却のタイミングを選べるぶん、保有を続けるか売るかも自分の判断になります。確定した時点で売って現金化するか、持ち続けて値上がりを狙うかは、リスクの取り方の問題です。

私の見方を言えば、報酬の一部を自社株で持ち続けると、会社の業績が悪いとき、給与の安定と資産の値下がりが同時に襲ってきます。リスクの分散という観点では、確定した株は、必要な生活費と将来の計画に合わせて、機械的に売る方針を先に決めておくほうが、感情に引きずられずに済みます。

オファー面談で確認したい質問リスト

換算を済ませたら、面談では「分からない箇所」を質問に変えます。RSUの条件を確認するのは入社前の候補者として自然な行動なので、遠慮する必要はありません。私が相談者に渡している質問は、次の6つです。

  • 権利確定のスケジュールは何年で、毎年何%ずつか。1年クリフはあるか
  • 付与株数はどう決まっているか(付与時点の株価で固定か、金額で固定か)
  • 株価が大きく下がった場合に、追加付与や補填の仕組みはあるか
  • 入社後に追加付与(リフレッシュ)があるか。評価や等級との関係は
  • 退職・会社都合・買収の場合、未確定分はどう扱われるか
  • 源泉徴収や納税は会社側でどこまで対応するか。担当部署はあるか

特に差が出るのは、2つ目の「金額で固定か、株数で固定か」です。金額で固定される設計なら、株価が下がっても株数が増えて調整される場合があります。株数で固定なら、下がった分はそのまま自分の損になります。どちらかは企業・プランごとに異なるので、通知書の文言だけで判断せず、確認してください。

質問のコツは、「RSUはいくらもらえますか」ではなく、「年ごとの確定額を算出したいので、スケジュールと株数を教えてください」と聞くことです。算出のために必要な情報だと伝えれば、人事も具体的に答えやすくなります。グレードや昇給の見通しについても、あわせてオファー面談でグレード制度を確認する質問の考え方が使えます。

交渉の場面では、RSUの量そのものより、サインオンボーナスで初年度のベースを補えるかどうかが話題になることが多くあります。後ろ寄せ型で1年目が小さい場合に、サインオンボーナスで埋めてもらえないか相談する。この発想を持っておくだけで、交渉の選択肢が広がります。一般的な年収交渉の進め方は、年収交渉の基本にまとめています。

Vさんがたどり着いた判断と、換算後に比べるべきもの

話をVさんに戻します。シミュレーションを並べた後、Vさんは人事に前述の質問を送りました。回答は、4年均等の確定で、1年クリフはなし、付与は金額で固定する設計だった、という内容です。追加付与の有無は「評価次第」で、確約はありませんでした。

そこでVさんは、サインオンボーナスの有無も打診しました。結果的には、初年度の入社時ボーナスはつかなかったものの、RSUの総額を書面に残すことで合意しています。外資側のオファーを承諾した理由は、悪い場合でも国内の提示を上回ること、そして「4年目まで残る前提」を自分で納得できたことでした。

ただ、これは再現性のある結論ではありません。Vさんは単身で生活費に余裕があり、株価の変動に耐えられる状況でした。家計の事情が違えば、同じ数字でも判断は変わります。「換算額が大きいから外資を選ぶ」のではなく、悪いシナリオで生活が成り立つかを先に確認するのが順番です。

換算後の比較では、次の点もあわせて見てください。

  • ベース給与そのものの水準(RSUは変動、ベースは固定の収入です)
  • 賞与の有無と、年収に含まれているかどうか。求人票の「賞与込み」の読み方は求人票の賞与込み年収の内訳で整理しています
  • 求められる働き方と拘束の重さ(額面の高さが、時間あたりの報酬に見合うか)

最後の点は、額面が高い会社ほど拘束も重い、という逆転が起きやすいところです。実質の時給に割り戻す考え方はSREのオンコール当番と実質時給でも扱っています。

よくある質問

RSUは付与された時点の株価で年収換算してよいですか。 計算の出発点としてはよいのですが、そのまま年収として扱うのは避けてください。実際の受取額は、権利確定日の株価と為替で決まります。株価の上下3割程度の幅を仮定して、低・中・高の3通りで見るのが現実的です。

株価が下がったら、会社が補填してくれますか。 一般的には、補填されないことが多いと説明されますが、会社・プランごとに異なります。追加付与で調整する企業もあれば、そうでない企業もあります。通知書に書かれていなければ、面談で確認してください。

入社1年目に退職したら、RSUはどうなりますか。 権利が確定していない分は、退職で失効するのが一般的です。1年クリフがある設計なら、1年未満の退職では1株も受け取れません。具体的な扱いは、会社やプランごとに異なります。

毎年追加付与はありますか。 リフレッシュ付与と呼ばれる追加付与の有無や頻度は、会社によって異なります。評価や等級に連動するケースもあれば、確約されないケースもあります。確約されていないなら、入社時の付与だけで換算するのが安全です。

RSUがあると確定申告は必要ですか。 外国の親会社から付与される場合は、日本で源泉徴収されず、自分で確定申告をするケースが一般に多いとされています。ただし個別の状況によって異なるため、会社の担当部署か税理士に確認してください。

まとめ:RSUは「付与額」ではなく「悪い場合の年収」で比べる

オファー通知書のRSUは、そのまま年収として読める数字ではありません。付与額、権利確定のスケジュール、受け取り時の株価と為替の3つに分けて、低・中・高の3通りで年ごとの総額を出す。これが換算の手順でした。

そのうえで私が一番お伝えしたいのは、悪い場合でも他社の提示を上回るかを先に確認してから、期待値の話をするという順番です。満額を前提にした比較は、うまくいったときの話しかしていません。

初年度が小さい型、1年クリフ、退職時の失効、確定時の課税といった論点は、通知書には書かれないことがほとんどです。面談の質問リストを使って、分からない点を1つずつ言葉に変えてください。税の扱いは、会社の担当部署か税理士に確認するところまでが、自分の仕事です。

換算の結果が出たら、次は「その金額で、何年その会社にいる想定か」を、自分に聞いてみてください。数字の見え方が、少し変わるはずです。