スマートフォンの通知欄に、同じ日の同じ時間帯に届いた二通のスカウトが並んでいたことがあります。一通の件名は「【M様】ご経験を活かせる求人のご紹介」、もう一通には、3週間前に本人がZennに投稿した記事のタイトルがそのまま入っていました。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わってきましたが、この二通に対する候補者本人の反応、そして選考に進んだ後の企業側の質問の解像度は、驚くほど違います。今回は、テックブログや勉強会登壇をきっかけに届くスカウトが、一斉送信のスカウトメールと評価の中身でどう違うのか、企業が実際に何を見ているかの仕組みまで踏み込んでお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • テックブログ・登壇経由のスカウトが、一斉メールと比べて「即戦力性の見立て」「面接の質問の解像度」「内定までのスピード」でどう違うか
  • Findy・LAPRASが「発信力」をどう数値化しているか、その仕組み
  • 登壇経験もブログの本数も少ない人が、代わりに示せる材料
目次
  1. テックブログ・登壇経由のスカウトと一斉メール、評価はここまで違う
  2. なぜ評価に差がつくのか、企業が見ている「発信力」の中身
  3. Findyの発信力レベル、何を見て算出しているか
  4. LAPRASの技術力スコア、GitHub・記事・イベント参加を複合評価
  5. 一斉スカウトメールと発信経由スカウト、面接の質問はこう変わる
  6. 内定までのスピードにも差が出る理由
  7. エージェント経由の紹介では、この差はどうなるか
  8. 発信量が少ない人が、代わりに示せる材料
  9. テックブログ・登壇を始めるときにありがちなつまずき
  10. 職務経歴書・スキルシートへの反映のさせ方
  11. 実例、勉強会の20分LTがきっかけで届いたスカウト
  12. よくある質問
  13. まとめ、テックブログと登壇は「量」より「跡が残る発信」

テックブログ・登壇経由のスカウトと一斉メール、評価はここまで違う

一斉スカウトメールは、スキルシートに登録したキーワードと求人条件を機械的に突き合わせて配信される仕組みです。担当者が候補者一人ひとりの経歴を読み込んでから送っているとは限らず、文面もテンプレートに近い形になりがちです。

このやり方自体が悪いわけではありません。ただ、エンジニア向けのスカウトはここ数年で急速に増え、返信率はかつての約10%から5%程度まで落ち込んでいるとも指摘されています。企業側はその対策として一括自動送信の件数を倍に増やす、という動きも出ているそうです(出典:久松剛「SPAM化するITエンジニアの転職スカウトと、疲弊するスカウト担当者」)。数を追うほど一通あたりの個別性は薄まる、という構造がここにあります。

一方、テックブログの記事や登壇資料をきっかけに届くスカウトは、担当者が実際にその記事を読んだ、あるいはセッションを聞いた上で送られてきます。送る側の手間がかかっている分、評価の解像度も上がるというのが、双方のやり取りを見てきた実感です。この違いを、私が現場でよく見る3つの観点で整理してみます。

観点一斉スカウトメールテックブログ・登壇経由のスカウト
即戦力性の見立て方スキルシートのキーワード一致(使用言語・年数など)が中心記事や発表内容から、実際の設計判断や問題解決の進め方まで見た上で判断
面接の質問の解像度職務経歴書の要約をなぞる一般的な質問が多い「その記事の〇〇の部分、実務ではどう判断したか」など具体的な深掘り
内定までのスピード書類選考・一次面接である程度スクリーニングが必要一次面接の時点である程度ミスマッチが除かれ、意思決定が早い傾向

もちろん、発信経由だからといって必ず好条件になるわけではありません。ただ企業側の見立ての精度が上がる分、面接の回数が絞られたり、オファー提示までの期間が短くなったりするケースは実際に多いと感じています。

なぜ評価に差がつくのか、企業が見ている「発信力」の中身

この差は感覚論ではなく、採用担当者が使うツールの設計にも表れています。ダイレクトリクルーティング系のサービスの多くは、候補者の「発信力」を何らかの形でスコア化し、スカウトの優先度づけに使っています。

背景にあるのは、面接に呼ぶ候補者を増やすほど、書類選考やカジュアル面談に割く人事・現場エンジニアの工数が膨らむという事情です。発信力スコアの高い候補者を先に絞り込めれば、限られた工数でミスマッチの少ない候補者に的を絞れる。企業がこうしたスコアリング機能に投資する理由は、候補者個人への興味というより、選考コストを下げたいという実務上の要請に近い、というのが私の見立てです。

Findyの発信力レベル、何を見て算出しているか

エンジニア向け転職サービスのFindyは、SlideShare・Speaker Deck・Qiita・note・個人ブログ・Zenn(このうちQiita・note・ブログ・Zennは直近30記事分のデータ)に加えて、2023年7月からはconnpassの登壇回数も対象に加え、発信力を1〜10のレベルで算出しています。分布としてはレベル10が上位2%、レベル9が上位5%、レベル8が上位10%に入るとされ、上位に入るのは決して簡単ではないことが分かります(出典:Findy Blog「エンジニアの発信力を測る」)。

LAPRASの技術力スコア、GitHub・記事・イベント参加を複合評価

もう一つ、エンジニア向けのLAPRASも技術力スコアを算出しています。こちらはGitHubの活動(コーディング力)、Qiita・Zennの記事(テクニカルライティング力)、イベント参加(インプット量・コミュニティ貢献)を組み合わせて評価する仕組みで、平均3.0・分散0.5の正規分布でスコア化されています(出典:LAPRASヘルプ「技術力スコアの算出方法」)。

どちらのサービスにも共通しているのは、コーディングの量そのものより、書く・話すという「外に向けた説明の実績」を別枠で評価している点です。スキルシートに書ける経歴は本人の申告ですが、公開された記事や登壇資料は第三者が確認できる。企業側からすれば、これは面接前の時点である程度の裏取りができている情報だということになります。

テックブログの記事一覧と、勉強会で登壇するエンジニアを表したイラスト

一斉スカウトメールと発信経由スカウト、面接の質問はこう変わる

この差は面接の質問にもそのまま表れます。一斉スカウト経由で進んだ選考では、「なぜ弊社に興味を持ったのですか」「今のチームで課題だと感じていることは」といった、職務経歴書があれば誰にでも聞けるような質問から始まることが多いです。

対して、テックブログをきっかけに届いたスカウトの面接では、質問の起点がまったく違います。実際にあったやり取りでは、面接官が候補者の書いた記事のスクリーンショットを画面共有しながら「ここでキャッシュ戦略をこの方式にした理由を、もう少し詳しく聞かせてください」と切り出した場面がありました。候補者側も自分の書いた内容なので答えに詰まることがなく、その場で設計の背景や検討した別案まで踏み込んだ会話になっていました。

このやり取りを見ていて感じるのは、発信経由のスカウトでは面接が初対面の確認作業から始まらないということです。一次面接の時点である程度の技術理解が共有されているため、残りの時間を「一緒に働けそうか」というより本質的な確認に使えます。一斉スカウトが悪いわけではなく、確認しなければならない情報量が単純に多いという構造の違いです。

この違いは、面接官の準備時間にも表れます。一斉スカウト経由の面接では、面接官が職務経歴書に目を通す時間は選考直前の10分程度ということも珍しくありません。発信経由の面接では、記事や登壇資料を事前に読み込んで質問リストを作ってくる面接官に何度も出会いました。準備にかけた時間の差が、そのまま質問の深さに変換されている印象です。

内定までのスピードにも差が出る理由

面接の質が変わるだけでなく、意思決定のスピードにも差が出やすいと感じています。2023年6月にFindyがエンジニア採用担当者113社に行った調査では、実際に成功した採用手法はダイレクトリクルーティング(スカウト)が約4割、人材紹介が約3割、リファラルが14.2%となっており、今後さらに注力したい手法としてもダイレクトリクルーティングが約5割でトップになっています(出典:Findy Blog「113社に聞いた『いま最も注力したいエンジニアの採用手法』」)。

企業側がスカウトにここまで力を入れる背景には、書類選考や一次面接に割ける人手が限られている事情があります。だからこそ、事前に技術力の見立てがついている候補者は選考プロセスを短縮しやすく、逆に見立てが甘いまま面接に呼んだ候補者には確認事項が増え、その分だけ意思決定に時間がかかります。発信経由のスカウトが内定までのスピードで有利になりやすいのは、面接の中身が濃いからというより、選考の前半で確認すべきことがすでに一部片付いているからだ、というのが私の見方です。

ポイント: テックブログや登壇は「見てもらうための宣伝」というより、面接の前半を圧縮するための材料だと捉えると、書く・話す内容の選び方も変わってきます。

エージェント経由の紹介では、この差はどうなるか

発信と縁のない働き方をしている方から、「発信していない自分は、エージェント経由でも同じように不利になるのか」と聞かれることがあります。結論から言うと、人材紹介は少し事情が違います。

エージェントは面談で職務経歴を直接聞き取り、企業への推薦状という形で候補者の実務内容を翻訳して伝えます。つまり、担当者が候補者本人に代わって発信の役割を一部担っている構造です。発信量が少なくても、面談でどれだけ具体的に経験を言語化できるかが、企業への伝わり方を左右します。

ただし、これはテックブログや登壇をしなくてよい理由にはなりません。エージェントが翻訳できるのは、面談で聞けた範囲の情報だけです。公開された記事や登壇資料があれば、私たちもそれを推薦状に添えて企業に送ることができ、企業側の見立ての精度はさらに上がります。発信とエージェント経由の紹介は対立する選択肢ではなく、組み合わせて使うと相乗効果が出るというのが実感です。

発信量が少ない人が、代わりに示せる材料

ここまで読んで、記事を何十本も書いていないと意味がないと感じた方もいるかもしれません。ただ、Findyの分布を見ても分かる通り、レベル8ですでに上位10%です。量で勝負する必要はなく、深さと再現性が確認できれば評価対象になります。登壇経験もブログもほとんどないという方には、次のような代替材料をおすすめしています。

発信量が少なくても示せる材料の例

  • GitHubの活動 — コミット数の多さより、READMEに設計判断や断念した機能の理由まで書けているか
  • Qiita・Zennの数本の記事 — 業務で詰まったところの解決過程を1本にまとめ直すだけでも十分な材料になる
  • 社内LT資料の転用 — 社内勉強会の発表資料から固有情報を落とし、外部向けに書き直してSpeaker Deckに置く
  • OSSへの小さな貢献 — 大きな機能追加でなくても、issue報告やドキュメント修正の履歴が残っていれば十分

GitHubの活動量については、コミットが少ないこと自体をどう説明するかで悩む方も多く、この点は別記事のGitHubコミット少ないエンジニア転職、面接の通し方で具体的な書き方まで掘り下げています。共通しているのは、量の少なさを取り繕うより、なぜその選択をしたかを言葉にできているかどうかが見られているという点です。

テックブログ・登壇を始めるときにありがちなつまずき

「発信を始めた方がいいのは分かったが、何を書けばいいか分からない」という相談もよく受けます。実際に始めてみて評価につながらなかった方には、共通するつまずき方がいくつかあります。

一つ目は、公式ドキュメントやチュートリアル教材をなぞっただけの記事です。手順の再現自体に価値がないわけではありませんが、自分が何を選び、何を試して失敗したかが書かれていないと、読んだ側には「実務で判断できる人かどうか」が伝わりません。LAPRASの技術力スコアがQiita・Zennの記事を「テクニカルライティング力」として評価しているのも、手順の正確さそのものより、説明の組み立て方を見ているからだと私は理解しています。

二つ目は、流行りの技術トピックに浅く触れるだけで終わる記事です。同じ話題の記事は他にも大量にあるため、内容が薄いとその中に埋もれてしまいます。むしろ、業務で実際につまずいた具体的な一箇所を掘り下げた記事の方が、検索にも引っかかりやすく、読んだ担当者の記憶にも残りやすいというのが実感です。

三つ目は、資料を作って終わり、外部に公開しないままにしてしまうケースです。社内LTで話した内容がそのまま社内共有フォルダに眠っている、という話は少なくありません。公開して初めて発信力として数えられるという当たり前のことが、一番見落とされやすい点だと感じています。

職務経歴書・スキルシートへの反映のさせ方

発信活動を始めても、それを職務経歴書やスキルシートに書き添えていない方が意外と多くいます。「ブログ執筆(Zenn)」とひとことだけ書いても、担当者はどの程度の内容か判断できません。

私がおすすめしているのは、代表的な記事や登壇を1〜2件だけ選び、タイトルとURL、そしてその記事・発表で何を判断したかを一行添える書き方です。たとえば「画像の遅延読み込み実装について(Zenn) — 表示速度とレイアウトシフトのトレードオフを比較し、独自の閾値設定に至った経緯をまとめた」のように書くと、担当者は本文を開く前に内容の見当がつきます。スカウト経由で届いた案件では、面接前にこの一行だけを読んで質問を用意してくる担当者にも何人か会いました。

全部の記事を並べる必要はありません。むしろ数を絞って濃い記事に絞り込んだ方が、選考の場での会話が深まりやすいというのが、これまで見てきた実例からの感触です。

実例、勉強会の20分LTがきっかけで届いたスカウト

Nさん(38歳・経験14年、フロントエンドエンジニア)は、客先常駐のない受託開発会社に在籍しながら、地域の技術勉強会で20分のLTをしたことがあります。内容は自社のコーポレートサイト刷新で取り組んだ表示速度の改善で、社内向けに作っていたLT資料の固有情報を落として発表し、後日Speaker Deckとブログに要約記事を上げました。

その1ヶ月ほど後、同じ週に二通のスカウトが届きます。一通は「フロントエンドエンジニア経験者向けのご案内」という件名のテンプレート然としたもの、もう一通は発表内容にあった画像の遅延読み込みの実装方針に触れた文面でした。Nさん自身、当初は「たった20分の発表がここまで見られているとは思わなかった」と話していました。

発信経由のスカウトを送ってきた企業との一次面接は、いきなり実装の詳細から始まりました。面接官が「遅延読み込みの閾値をその数値にした根拠」を尋ね、Nさんは発表時に検討した別案とその却下理由までその場で答えられました。二次面接に進んだころには、面接官から「チームに入ったらこの改善を別のプロダクトにも展開してほしい」という具体的な打診まで出てきたそうです。

結果として、一次面接から一週間ほどでオファー面談に進み、通常であれば選考全体で1ヶ月半ほどかかる企業でしたが、Nさんのケースは3週間弱で内定通知まで届きました。もう一通のテンプレート型スカウトの企業とは、書類選考の段階で条件面のすり合わせが折り合わず、そのまま辞退しています。

Nさんに何を変えたのか聞くと、特別なことはしていないと言います。社内で作った資料を、外に出せる形に整えて置いただけです。作ったものを社内で終わらせず、外に出す一手間をかけたかどうかが、届くスカウトの中身を分けたのだと私は見ています。

一斉スカウトのテンプレート文面に心当たりがある方は、そのスカウトが本当に個別に検討されたものかどうかを見分ける基準を、スカウトメール一斉送信の見分け方、テンプレでも返す基準で解説しています。あわせて読むと、届いたスカウトへの向き合い方の判断がつきやすくなります。

登壇者がスライドを見せながら発表しているイラスト

よくある質問

テックブログは何記事くらい書けば効果が出ますか。 決まった本数はありません。Findyの発信力レベルはレベル8で上位10%に入る水準なので、量よりも1本ごとの深さが評価されやすい仕組みです。実際に私が見てきた中でも、内容の濃い記事を2〜3本書いた段階でスカウトの反応が変わったという方は珍しくありません。

登壇経験がなくても発信力はアピールできますか。 できます。Findyの発信力レベルはconnpassの登壇回数も対象に含みますが、Qiita・Zenn・noteなどの記事執筆だけでも一定の水準に入っている人はいます。登壇は材料の一つであって、必須条件ではないというのが実際のプロフィールを見てきた実感です。

スカウトへの返信率はどれくらいが普通ですか。 一斉送信のスカウトメールでは返信率がかつての約10%から5%程度まで落ちているという指摘があります。テックブログや登壇をきっかけにした個別性の高いスカウトは、これよりも明らかに高い返信率になる傾向があると、現場の実感としても感じています。

スカウトサービスのプロフィールにブログURLは載せるべきですか。 載せておくことをおすすめします。プロフィール欄が空欄のままだと、担当者は職務経歴書の記載だけで判断するしかありません。代表的な記事や登壇資料のURLを1〜2件添えておくだけで、スカウト文面に具体的な言及が入る確率が上がる、というのが実際にプロフィールを見比べてきた実感です。

まとめ、テックブログと登壇は「量」より「跡が残る発信」

一斉スカウトメールと、テックブログ・登壇をきっかけに届くスカウトの違いは、担当者が候補者を評価するために使える情報量の差から来ています。前者は経歴の要約だけで見立てるしかありませんが、後者は実際に書いた記事や話した内容という、本人が言葉にした判断の跡を材料にできます。

だからといって、発信の本数を無理に増やす必要はありません。社内で作った資料を一手間かけて外に出す、業務で詰まったところの解決過程を1本の記事にまとめ直す。それだけでも、次に届くスカウトの質問の解像度は変わってきます。発信は量で勝負するものではなく、跡が残る形で外に置いておくものだというのが、この記事で一番伝えたかったことです。