Slackの全社チャンネルに代表からの一文が流れてきた——「本日をもって事業を終了します」。36歳の組み込みエンジニア・Rさんが次の仕事のことをまったく考えられなかった、という朝の話です。

私はIT・Web業界を中心に800名以上の転職支援に携わっていますが、資金調達に失敗して事業を畳むスタートアップの相談は年に何件も持ち込まれます。東京商工リサーチの集計では2025年1〜10月の企業倒産7,162件のうち設立10年未満の企業が2,086件と全体の29.1%を占めており、10年前の同時期より6.4ポイント増えています。倒産の原因は販売不振が70.3%と大半を占め、放漫経営も11.0%あり、いずれも社員一人ひとりの力ではどうにもならない要因です(出典:東京商工リサーチ「『設立10年未満』の企業 倒産の3割を占める」)。

今回は、スタートアップの倒産を経験したエンジニアが職務経歴書をどう書けばいいか、Rさんの実例をもとに、会社都合退職の定型表現から面接での切り返し方までお伝えします。

今回は、次の内容に沿ってご紹介します。

  • 倒産直後、職務経歴書を書く前に確認しておくべき手続き
  • 履歴書・職務経歴書の「会社都合退職(倒産のため)」の定型表現と、連絡先不明の会社の注記の仕方
  • 短期離職になった場合のフォーマット選択と実績の数値化
  • 「見る目がなかったのでは」「またすぐ潰れる会社を選ぶのでは」という懸念への切り返し方と、後から気づいた倒産の予兆
  • 倒産による離職者が有利になる失業保険の制度(特定受給資格者)
目次
  1. スタートアップの倒産で、職務経歴書より先にすべきこと
  2. 履歴書・職務経歴書の「会社都合退職(倒産のため)」の書き方
  3. 連絡先が取れない会社をどう注記するか
  4. 短期離職になった場合のフォーマットと実績の見せ方
  5. 空白期間はどう書くか
  6. 面接で聞かれること、倒産の経緯は語りすぎない
  7. 「見る目がなかったのでは」への切り返し方
  8. 振り返って気づいた予兆、次の会社選びに活かす視点
  9. 特定受給資格者、失業保険が有利になる制度を知っておく
  10. まとめ

スタートアップの倒産で、職務経歴書より先にすべきこと

Rさんは組み込みエンジニアとして、IoTデバイスのファームウェア開発を手がけるシリーズAのスタートアップに1年4か月在籍していました。量産直前で追加の資金調達ラウンドが決裂し、会社は事業継続を断念しています。倒産の一報を受けた当日、Rさんの頭には「次の職探し」より先に「今月分の給与はどうなるのか」という不安しかなかったそうです。

これは自然な反応です。ただ、職務経歴書を書き始める前に、次の3点は先に確認しておく必要があります。

職務経歴書を書く前に確認すること

  • 離職票が「会社都合」で発行されるか(破産管財人や清算人が選任されるまで発行が遅れることがある)
  • 未払い賃金がある場合、未払賃金立替払制度の対象になるか(労働基準監督署への相談が窓口)
  • ストックオプションが行使可能な状態だったか、それとも無価値のまま消滅するか

Rさんの場合、離職票の発行が破産手続きの都合で1か月以上遅れました。この間は求人票を眺めるだけの時間になりがちですが、私は「職務経歴書の下書きだけは先に進めておきましょう」と伝えるようにしています。書類が揃うのを待ってから動き出すと、転職活動そのものが1〜2か月まるごと後ろ倒しになるからです。

なお、ストックオプションについては、権利行使前に会社が消滅すればそのまま無価値になるのが通常です。将来の値上がりを見込んで額面年収を下げてスタートアップに移る判断そのものについては、ストックオプション付き転職の判断基準で機会損失との比較の仕方を扱っていますが、倒産はその期待値が最初からゼロだったという結果でもあります。Rさんはこの経験を経て、次の転職では「SOよりも固定給の額面を重視したい」と面談で明確に希望を伝えるようになりました。

履歴書・職務経歴書の「会社都合退職(倒産のため)」の書き方

職歴欄の書き方自体はシンプルです。自己都合と紛れないよう、退職理由の欄には次のような定型表現を使います。

職歴欄の記載例

  • 2024年5月〜2025年9月 株式会社◯◯(会社倒産のため退職)
  • 退職理由欄:会社都合により退職(会社倒産のため)
  • 職務経歴書の冒頭サマリー:「在籍中に会社が資金調達に失敗し倒産したため退職」

ここで多くの人が引っかかるのは、この先の「業務内容の書き方」です。Rさんの最初の下書きは「ファームウェア開発、量産準備、社内ツール整備など」という一文で終わっていました。これは倒産の有無に関係なく通らない書き方で、実際に何を担当し、何を判断し、どこまで進めたかが読み手にまったく伝わりません。倒産で終わった案件だからこそ、途中経過の実績を具体的に書く必要があります。

書き直した内容は「Bluetooth接続の組み込み機器向けファームウェアを1名担当として設計・実装し、量産直前の検証工程で消費電力を当初比32%削減する改善を主導。事業終了時点で量産スケジュールの最終フェーズまで到達」というものでした。倒産という結果と、そこに至るまでの仕事の成果はまったく別物として扱うべきで、途中で終わった仕事にも書ける実績は必ずあります。

書類選考で赤入れする5箇所でも触れていますが、業務内容が動詞止まりの一覧になっている職務経歴書はエンジニア職では特に多い失敗パターンです。倒産という特殊事情がある分、この基本的な書き方の甘さがそのまま「見る目がない人」という印象に上乗せされてしまうので、通常以上に丁寧に書く必要があります。

Before / After(業務内容欄の一部)

  • Before:組み込み機器のファームウェア開発、量産準備、社内ツール整備などを担当
  • After:Bluetooth接続の組み込み機器向けファームウェアを1名で設計・実装。量産直前の検証工程で消費電力を32%削減する改善を主導し、事業終了時点で量産スケジュールの最終フェーズまで到達

途中で終わった仕事の実績を書くとき、私が確認するのは「量産に至ったかどうか」ではなく「どこまで責任を持って進めたか」です。Rさんの場合、量産という最終ゴールには届きませんでしたが、検証工程の消費電力改善という具体的な数字と、担当範囲の広さ(1名で設計から実装まで)は倒産の有無にかかわらず評価される材料でした。倒産を理由に「実績としてカウントしていいのか」を迷う相談は多いのですが、会社が存続したかどうかと、本人の仕事の質は別の軸で評価してよいというのが私の考えです。

連絡先が取れない会社をどう注記するか

倒産した会社は電話番号もメールアドレスも機能していないことがほとんどです。在籍証明や源泉徴収票の再発行を依頼できないケースも珍しくありません。この場合、職務経歴書の会社名の横に一言添えておくと選考側の混乱を防げます。

ポイント: 「株式会社◯◯(※2025年9月に会社倒産のため連絡不能)」のように、社名の直後に注記を入れておきます。応募先の人事が在籍確認を試みて連絡がつかず、経歴詐称を疑われるという最悪の展開を避けるための一文です。

Rさんのケースでは、破産管財人事務所の連絡先を把握していたため、それも併記しました。在籍証明が必要になった場合の問い合わせ先が分かるだけで、選考側の安心材料になります。

会社の看板が薄れ、次の扉に光が差し込む様子を表したイラスト

短期離職になった場合のフォーマットと実績の見せ方

Rさんの在籍期間は1年4か月でした。前職も2年半での退職だったため、経歴だけを見ると「短期離職が続いている」という印象を持たれかねない状態です。

短期離職が絡む場合、職務経歴書は編年体(古い順に会社ごとに書く形式)よりも、キャリア式(スキル・実績を先にまとめ、経歴の詳細を後ろに置く形式)の方が有利に働くことが多いです。編年体だと在籍期間の短さが職歴欄の一行目から目に入りますが、キャリア式なら先に「何ができるか」を読ませてから、経歴の詳細で在籍期間の背景を説明できます。

短期離職の職務経歴書で意識すること

  • 冒頭にスキルサマリーと定量的な実績を先出しする(キャリア式フォーマット)
  • 在籍期間の短さより先に「何を成し遂げたか」を読ませる
  • 数字は期間の長さと切り離して書く(「1年4か月で」ではなく「量産直前の検証フェーズで」のように成果の到達点で語る)
  • 倒産以外の短期離職がある場合は、それぞれの退職理由を1行で明記し、パターン化して見せない

転職回数そのものへの説明の仕方は、転職回数が多いエンジニアの面接説明で経歴の並べ方に絞って詳しく書いていますが、倒産による離職はそもそも自己都合の転職回数とはカウントの重みが違います。面接官も「倒産」と「合わない上司」を同列には見ません。ただし、それを面接官に正しく認識してもらうには、こちらから在籍期間の短さの理由を先回りして説明する必要があります。

空白期間はどう書くか

Rさんのように離職票の発行が遅れると、退職日から応募開始までに1〜2か月の空白ができることがあります。この期間は隠さず、職務経歴書の末尾か職務経歴の直後に一行で触れておけば十分です。「2025年9月〜2025年11月 離職手続き・技術書での学習期間」のように、何をしていたかが分かる形で書きます。倒産による離職票の遅延は珍しいことではないので、面接官もこの空白自体を問題視することはほとんどありません。問題になるのは、空白について何も説明がなく、聞かれて初めて口ごもる場合です。

面接で聞かれること、倒産の経緯は語りすぎない

Rさんが最初に受けた面接では、倒産の経緯を聞かれて資金調達の失敗した経緯や経営陣の判断ミスを15分近く話し込んでしまいました。結果は見送りでした。フィードバックには「前職への言及が長く、本人の役割が見えにくかった」とありました。

倒産の経緯を詳しく説明すること自体は悪くありませんが、面接という場では経営判断への論評ではなく、自分がどう動いたかに重心を置く方が評価されます。私が面接前にすり合わせる話の構成は次のようなものです。

倒産経緯を聞かれたときの話す順序

  • 事実として何が起きたか(1〜2文で簡潔に)
  • 倒産が決まった後、自分が何をしたか(引き継ぎ資料の整備、残タスクの棚卸しなど)
  • そこから何を学び、次の会社選びにどう活かすか

Rさんはこの構成に沿って「量産直前のドキュメントが未整備だったことに気づき、後任がいなくても再現できるよう仕様書と検証手順を1週間かけてまとめた」というエピソードに話を絞りました。経営を語らず自分の行動を語ることで、面接官の質問は自然と業務の中身に戻っていきます。

避けた方がいいのは、経営陣への恨み言や「自分は何も悪くない」という強調が前面に出る答え方です。事実として理不尽な決定があったとしても、面接の場でそれを繰り返すと、聞き手には「他責的な人」という印象しか残りません。退職理由の説明と志望動機の説明を混同しないことも大切で、「もう倒産する会社にはこりごりなので御社を選びました」という言い方は、前職への当てつけに聞こえてしまいます。志望動機は前職の否定ではなく、応募先固有の魅力(事業の伸び方、任される裁量、技術的な挑戦のしがいなど)で語るのが基本です。

「見る目がなかったのでは」への切り返し方

ここが一般的な「会社都合退職の書き方」の記事があまり踏み込まない部分です。スタートアップ経由の候補者に対して、面接官が言葉にはしなくても抱きがちな懸念が2つあります。入社時にリスクを見抜けなかったのではという疑いと、またすぐ潰れる会社を選ぶのではという再発への不安です。

前者への切り返しは、入社時点でどこまでリスクを認識していたかを正直に語ることです。Rさんの場合、入社時点でシリーズAの資金調達ラウンドの途中だったことは把握していましたが、「量産投資に踏み切るタイミングでの追加調達が必要」というリスクの重さまでは見えていなかったと本人は振り返っていました。私はこれをそのまま面接で話すよう勧めました。取り繕って「特にリスクは感じていませんでした」と答えるより、「資金調達の進捗を入社前に確認すべきだったと今は思っている」と言える方が、次はどう選ぶかという後半の話に自然につながります。

後者への切り返しは、次の会社選びで何を基準にしたかを具体的に示すことです。Rさんは応募先に対して「直近の資金調達ラウンドの時期と、量産・受注の進捗を面談で確認したい」と自分から質問するようになりました。これは単なる質問テクニックではなく、一度の失敗を踏まえて選び方を変えたという証拠になります。スタートアップの選考特有の評価軸については一次面接にCTOが出る理由でも触れていますが、経営層に近い面接官ほど、候補者が事業のリスクをどう見極めているかに関心を持ちます。倒産経験者はむしろこの観点で語れる材料を持っているとも言えます。

Rさんは3社に応募し、書類選考は2社通過、最終的に自社開発の産業機器メーカーで組み込みLinuxチームへの内定を得ました。年収は前職とほぼ同水準でしたが、面談で資金繰りの状況や直近の受注状況を確認できたことが決め手になったと話していました。倒産経験そのものより、そこから何を変えたかを語れるかどうかが評価を分けます。

振り返って気づいた予兆、次の会社選びに活かす視点

Rさんに、入社時と今とで会社の見え方がどう変わったかを聞いたことがあります。返ってきたのは「今思えば予兆はいくつもあった」という答えでした。エンジニアの立場からは経営状況が見えにくいものですが、実際に振り返ると気づけるサインはいくつかあります。

Rさんが後から振り返って気づいた予兆

  • 役員の会議の頻度が急に増え、エンジニア向けの進捗共有が簡素になった
  • 経費精算の承認が遅れがちになり、備品の購入申請が通りにくくなった
  • 採用が突然すべて凍結され、理由の説明がなかった
  • 代表が「次の資金調達」という言葉を全社ミーティングで口にする頻度が増えた

こうしたサインは、当時は「忙しいだけだろう」「景気のいい話ではないが深刻でもないだろう」と流されやすいものです。私が面接でのリスクの語り方として勧めているのは、これらのサインを後知恵で並べ立てて「見抜けたはずだった」と自分を責める方向ではなく、次の会社選びでは何を確認するかという具体的な行動に変換して語ることです。Rさんが次の応募先で資金調達の時期や受注状況を自分から質問するようになったのは、まさにこの振り返りの結果でした。面接官にとっても、抽象的な反省より「次はこう確認する」という具体策の方が納得感があります。

特定受給資格者、失業保険が有利になる制度を知っておく

職務経歴書の書き方とは別に、実務的な安心材料として知っておいてほしいのが失業保険の扱いです。倒産による離職者は、ハローワークの区分で「特定受給資格者」に該当します。倒産・破産・民事再生・会社更生の申立てや、給与の相当額が支払われないまま離職した場合などがこの区分にあたることは、ハローワークの公式ページにも明記されています(出典:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者の範囲」)。

自己都合退職と何が違うかというと、給付制限の有無と所定給付日数の長さです。

項目自己都合退職(一般受給資格者)倒産・解雇等(特定受給資格者)
待期期間7日間7日間
給付制限あり(原則2か月、過去5年に2回以上自己都合退職があれば3か月)なし
所定給付日数の目安90日〜最大150日90日〜最大330日

所定給付日数は年齢と被保険者期間によって変わりますが、特定受給資格者は自己都合の最大150日に対し最大330日まで幅があり、給付制限なしで7日の待期を終えればすぐに受給が始まります。Rさんは離職票の「離職理由」欄が会社都合(倒産)の区分になっていることをハローワークの窓口で確認し、給付制限なしで転職活動に専念できたことが精神的な支えになったと話していました。

倒産直後は目の前の手続きに追われて後回しにしがちですが、この制度を知っているかどうかで、転職活動にかけられる時間の余裕がかなり変わります。焦って条件の低い求人に飛びつく前に、まず自分がどの区分に該当するかをハローワークで確認しておくことをお勧めします。

実務上のポイントとして、離職票の「離職理由」欄が倒産の事実を反映した会社都合の区分になっているかは自分でも確認しておいた方がいいです。清算人や破産管財人が事務手続きに不慣れで、記載が曖昧なまま発行されることもあるからです。Rさんも一度、離職票の理由欄が空欄に近い状態で届き、ハローワークの窓口で倒産の事実を伝えて区分を訂正してもらった経緯がありました。書類は届いた通りに受け取らず、内容を自分の目で確認するという姿勢が、給付制限なしで動ける期間をきちんと確保することにつながります。

盾のような形が家計を覆い、その奥に伸びる矢印を表したイラスト

まとめ

スタートアップの倒産は、本人の実力やキャリア選択の失敗とは別の話です。ただし職務経歴書と面接では、それを黙って通り過ぎることはできません。会社都合退職の定型表現を使うこと自体は誰でもできますが、その先にある「業務内容をどう具体的に書くか」「短期離職をどう見せるか」「見る目がなかったのではという懸念にどう答えるか」まで準備できて初めて、倒産という経歴は不利要素ではなく語れる経験に変わります。Rさんのように、倒産を機に会社選びの基準を具体的に言語化できた人の方が、次の選考ではむしろ強い印象を残すというのが、この記事で一番伝えたかったことです。